<ネタ見せ番組を比較>『エンタの神様』『あらびき団』『ENGEIグランドスラム』3番組の志
メディアゴン / 2016年5月9日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「名は体を表す」とはよく言ったもので、それはテレビ番組のタイトルにも言える。本稿では、いわゆる「ネタ見せ番組」である3番組(『エンタの神様』『あらびき団』『ENGEIグランドスラム』)を比較する。なお、「M−1」に代表される番組は「コンテスト番組」ということで除外する。
『エンタの神様』(日本テレビ・2010年終了)の志は何か。筆者はスタッフではないのであくまでも推測であるが、この番組の志は編集方針に表れている。基本的に情け容赦ない「面白いところ取り」の編集で、短いものは30秒くらい。落ち、落ち、落ち、落ち、の連続の編集である。
積極的に新人を使うのはおもしろい芸人を見つけてくる志を持った番組である証しあろう。ただし、バッサリと切る編集のみで、「救う編集」はされておらず、そこから見えてくるのは芸人自体にはあまり愛がない、ということである。
逆に言えば芸人が好きすぎて愛の鞭を振るうのが志の番組とも言えるか。ネタは、こちらも容赦なく制作者によって改変されている。筆者が感じるのはあるたったひとりの人物の趣味趣向に合うように笑いの方向が統一されていることである。まあ、この人物がこの番組の神様、つまり『エンタの神様』だという主張だろう。
『あらびき団』(TBS・2011年終了)には、「エンタの神様」以上の荒削り(粗挽き)の芸人が出演していた。筆者が「R−1」(ピン芸のコンテスト番組)の予選審査で落としたような、ネタとも言えないようなネタの芸人も出ていた。
それもそのはず、番組開始当初は『エンタの神様』出演者養成番組(非公式)を任じていたのである。そこがまずシャレっぽくてよいと思うのだが、編集方針は芸人に大変優しい。ネタを最大限面白く見せようとする工夫が随所に施されている。それでも笑えないときは東野幸治と藤井隆がさわってあげて笑いにする。
筆者にとっては大変好もしい番組で、TBSのバラエテイで当時最も優れた番組だったと思う。しかし、そんな番組をTBS編成局はなぜ終わらせてしまったのか。どんな大人の事情があるかは知らないが残念だ。
『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ)は、その名の通り、「今、フジテレビ一押しの最も面白いネタをお見せします」というのが志の番組であろう。フジテレビは「THE MANZAI」(80年代のものとは全く別物)というネタコンテスト番組を持っていたが、コンテスト形式はもうやめると言っているので、2種類の同種の番組を持つことになる。
【参考】<多様性なきバラエティ?>80年代のMANZAIブームと現在の芸人ブームの明らかな違い
司会は両方ともナインティナインである。5月7日放送 の『ENGEIグランドスラム』には中川家、博多華丸・大吉、矢野・兵動、爆笑問題等の筆者が思う実力派が顔を揃え、『ENGEIグランドスラム』の名に恥じない人選であった。願わくば、まだまだいる、ここには顔を出していない実力派を出して欲しいと思うのだが、スケジュールの都合ということもあろう。
80年代の『THE MANZAI』は、出演者が皆この番組に向けて新ネタを作っていた、この番組のためにスケジュールは空けておいた、といったようなエピソードに事欠かない番組だった。しかし、もう時代が違っているのだろう。「ネタをやらない実力派」として筆者はずっと、司会に納まり返っているナインティナインの名を挙げてきたが、もう言うまい。彼らは笑いも分かっている司会者、司会も出来るコメディアンを目指しているのだろう。
ところで、『ENGEIグランドスラム』は(スタジオ?)公開収録という形をとっている。前回は演芸場風(爆笑問題・太田光氏)だったそうだが、今回はセリがあったことから商業劇場風を目指していたのであろう。この劇場での録画というのはテレビ草創期には避けられないものであった。ソフトも少なく演芸人を一気に集めようとすれば中継録画は仕方が無かったのである。
しかしこの中継録画の形態はテレビという媒体を通すとどうしても対象(ネタ自体)が遠くなってしまうという欠点を抱えていた。臨場感が写らないのである。その後、カメラの解像度がよくなり、スタジオに専用劇場のセットを組むなどの工夫が重ねられ、臨場感も写るように進歩してきた。いっそのこと公開は公開だがスタジオで撮ってっていることがはっきり分かるようにするという試みも成されて成功を収めてきた。その流れに刃向かうチャレンジ精神には敬意を表する。
さて、ネタ自体であるが頭一つ抜きん出て面白かったのは吉本新喜劇ユニット(すっちー 、清水けんじ、松浦真也)である。面白かったので余計なひとことを言うのを許していただこう。冒頭の設定フリ。イスに座ったサラリーマン風の清水けんじの、
「ああ。記憶喪失になって今日でもう一週間か。ここの祈祷師さんが治してくれるからきっと大丈夫やろ」
こういう説明ゼリフはコントには存在しない。
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