<番組の流れをよくすると視聴者が増える>テレビショウ番組に大切なことは「構成の流れ」だ
メディアゴン / 2016年5月17日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「ショウ番組の構成は流れが大切である」というのが筆者の体に染みついている考え方である。
これをみて「何を偉そうにわかりきったことを言っているのか」と思う人、「そうそう」と頷く人。「流れって何のことだ?」と思う人、「そんなの要らないよ」と思う人・・・様々いるだろう。
しかし、本稿を一番読んで欲しい対象は、今現在テレビでショウ番組をつくっている人なのである。
そもそも、ショウ番組とは何か。ひとりのエンターティナーがホストあるいはホステスになり、歌あり、踊りあり、笑いあり、インタビューあり・・・の芸能をお客さんに楽しんでもらう形式の番組である。原型はもちろんアメリカである。
ディーン・マーチンショウ、フランク・シナトラショウ、ペリー・コモショウ等、実力のあるエンターティナーは皆自分の名前を冠につけたテレビショウを持った。冠番組とはこのようにテレビショウ番組を持つことを言った。形式は劇場公開が原則だ。
【参考】<多様性なきバラエティ?>80年代のMANZAIブームと現在の芸人ブームの明らかな違い
最近・・・といっても、もう1989年には終わってしまったタモリがホストの『今夜は最高!』(日本テレビ)は、テレビショウ番組であった。ただし公開ではなくスタジオ非公開の収録である。
日本テレビという局は、こうしたショウ番組をつくるのを日本で最も得意とするテレビ局である。
かつては堺正章、郷ひろみ、野口五郎らがホストを務めた『カックラキン大放送!!』(1975〜1986)というショウ番組があった。放送作家になり立だった筆者は、伝手をたどってこの番組の収録を見学にいったことがあるが、驚いた記憶がある。
場所はどこかのホールである。もちろん客で満員。たった30分の番組を撮るに当たって、収録時間は倍の1時間。しかも、この1時間、一切止まることなく番組は進行していく。
コントからコントへ、コントから歌へ、歌から別コーナーへ。メイン舞台のセットは次々に変わるがその時でも収録を止めることはない。休憩してセット替えをしていたら、お客さんが興ざめになってしまうからだ。
狭いホールにはサブステージが組んであり、その上に当日の歌ゲストが登場してB面の曲を歌う。客の目はそちらに動く。その間にセットチェンジする。この歌は放送されることはなく完全に観客サービスである。
この「止めない」ということが、収録の流れを作ることの1つのポイントである。
「大切なことはまず、収録を見に来てくれた観客を楽しませること、笑わせること。観客が笑わないでテレビの前のお客さんが笑うことなどあり得ない」
これが尊敬する各現場の先輩から教わった絶対則であった。
今は、テレビショウ番組などないから、こんな昔話は役に立たない・・・という人がいるかも知れないが、実はそうでもないと思っている。
【参考】<多様性なきバラエティ?>80年代のMANZAIブームと現在の芸人ブームの明らかな違い
漫才やコントのネタを見せるのが趣旨の番組は、公開であることから、ショウ番組の一つであるとも言えるからだ。観客を楽しませる番組だ。この場合に大切なことは、誰の、どんなネタを、どういう順番で並べるかである。
そのお手本は実はホール落語にある。
以下、ホール落語の構成について述べる。まず、時間だが、2時間30分が限度。出来れば2時間以内。それ以上長いと、単純に観客が飽きる、疲れる、笑わなくなる。面白ければ長くてもよいというのはウソだ。長いと面白くなくなる。
ホール落語の場合、出演順には「型」がある。スタンダードモデルということだ。
まずは「開口一番(一番最初の出番。サラ口とも)」。観客の「人(ニン)」を見てその日のショウ全体の流れを作る重要な役目だ。華やかに受ける人がよろしい。次に、つなぐ役目の人。これは性格のよさげに見える人がよい。
それから、「仲入り(休憩)前」。一部に「仲トリ」という人もいるように、大ネタが出来る人がよい。
そして休憩(仲入り)が入る。ここで止めるのはショウの原則に反するが、落語というのは真剣に聞くと疲れてしまうのだ。ほとぼりを冷ます時間である。冷ましていると言うことは観客の気分の流れのほうは続いていると言うことだ。
ほとぼりが冷めないうちに幕が開いてすぐ出番の人を「食いつき」。「食いつき」は、客席がざわついているから、賑やかにやらねばならない。観客をまた食いつかせるのが仕事。
続いて「ヒザ前」。これが入るのは、ネタの長さを調節するとき。そして「膝がわり(トリのひとつ前)」だ。この人の役目は重要でその日のトリの人を邪魔せずに、スッと終われる、トリを食わないようにして時間の調整まで考えられる手練れの人が務めるのがよい。
そして「主任(トリ)」。充分に大ネタを聞かせてもらう。
筆者は古今亭志ん生、桂文楽には間に合わなかったが、70年代後半には落語を聞いていた。その頃の噺家で理想の人選をするとこうなる。
【開口一番】林家三平「源平盛衰記」
【サラ口】柳家小三治「狸賽」
【仲入り前】三遊亭圓生「百川」
休憩
【食いつき】立川談志 「ん回し」
【膝がわり】林家正蔵 「死ぬなら今」
【トリ】柳家小さん「大工調べ」
【大トリ】古今亭志ん朝「黄金餅」
さて、なぜ本稿で長々と落語の説明をしているのか、といえば、この構成を「現在の落語家」でやろうと思ったからである。しかし、本稿を読んで欲しい現在のショウ番組制作者達は落語など聞いていないから、分からないかもしれない。
そこで、一足飛びに「現在の漫才」でこれを組むとどうなるかを提示してみたい。
【開口一番】フットボールアワー
【サラ口】次長課長
【仲入り前】中川家
休憩
【食いつき】爆笑問題
【ヒザ前】タカ&トシ
【膝がわり】博多華丸・大吉
【大トリ】笑い飯
落語の場合はネタを決めるには事前にその話をなんらかの手段で聞いておく必要がある。漫才の場合は新ネタがよいので、リハーサル室で見せてもらって、制作側がアドバイスするのがよい。
ただし、放送時にネタの内容を編集でカットするのは止めてあげたい。現在は、別日に別撮りして、その会場にいたように編集することは可能だが、可能だからやってよい、とはならない。こういうネタのショウの場合、収録日にスケジュールが合わなかった人は出演させない方が流れは絶対によくなる。
流れがよくなるということは即ち、テレビ番組として見やすくなると言うことだ。見やすいというのは、実は多くの人に見てもらえると言うことだと、筆者は思うのである。
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