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<「お笑い」にも真剣な批評が必要>爆笑問題・太田光氏の「敗北宣言」が意味すること

メディアゴン / 2016年5月22日 7時50分

高橋維新[弁護士]

* * *

2016年5月7日に、フジテレビ「ENGEIグランドスラム」がオンエアされました。トリを務めたのは、爆笑問題の漫才。

爆笑問題について筆者は、過去のENGEIグランドスラムで放映されたネタについてかなり厳しいことを言ってきた自覚があるものの、この回に放映されたネタに対しても次のような感想を持っています。

 「私がこれまで提案してきた改善策は導入されておらず、以前のものから全く変わりがない」
 「改善ができないのだったらもうテレビで漫才をやってもらわなくてもいい。ライブで『大ファン』向けにやっていればいいではないか」

上記のことを筆者個人のウェブサイトで書いたところ、それを爆笑問題の太田光さんが読んでくれたようです。その後に放送されたTBS「爆笑問題カーボーイ」というラジオ番組で、太田さんがこのことに触れてくれました。この「太田発言」に対しては、ネット界隈では「太田が負けを認めた」という評価もあるようです。

太田さんは筆者のサイトの記述を読んで、「『自己満足的にライブで漫才だけやっていればいい』と書かれた」という風に捉えたようです。突き放したような書き方だった自覚はありますが、この太田さんの解釈は筆者の本意ではありません。

筆者は、決してライブでやる漫才が「自己満足」だとは思いません。ライブができるというのは、爆笑問題の漫才を(決して安くない額の)お金を払ってでも見たいと思う人が、少なくとも商業的に採算がとれるレベルの人数だけは存在するという意味です。それだけの数のファンがいるというのは、その事実のみで十分奇跡的(当たり外れの大きいショウビジネスが成功するという意味においてです)なことだと思います。そういう人たちのために漫才をするというのは、決して自己満足ではないでしょう。

むしろ、太田さんの毒のあるボケはテレビではかなりやりにくいと思うので、ライブの方がもっと色々と言いたい放題できると思います。爆笑問題の漫才は、明らかにテレビよりライブに向いているのです。だから、「ライブでやればいい」という書き方をしたのです。

【参考】<ネタ見せ番組を比較>『エンタの神様』『あらびき団』『ENGEIグランドスラム』3番組の志

他方でテレビは、確実にライブよりウケをとるのが難しいです。

一応、「公共の電波」ということになっているため、前述のように悪口・下ネタ等に関しては制約がものすごく多いです。客(=視聴者)は、ライブの場合と違って自分たちのファンばかりではありません。というより、単純に見ている人の絶対数がライブの場合より多いので、それら受け手の最大多数の最大幸福を念頭に置いてネタを考えていくと、テーマが自ずと狭く絞られていってしまいます。

爆笑問題のファン相手なら爆笑問題のマニアックな話でも通じるでしょうが、テレビでネタを見ている人には他の「人種」もいるので、「共通の話題」がどんどん狭くなっていってしまいます。でも、難しいからといって、諦めていいということにはなりません。

筆者がネットで感想や意見を発信しているのは、この難題解決の一助にでもなればと思っているからです。言い方に厳しい部分がある自覚はありますが、それはその方がストレートに読み手に伝わるからです。気を遣って語調をぼかすと、趣旨が分かりにくくなってしまいます。それでは非効率です。

もちろん、筆者に対する反発や批判は多いです。これは、筆者自身が門外漢であることや、言い方が厳しいことにも一定の原因があるとは思いますが、むしろ「笑い」というコンテンツ自体に、これまでこういう厳しい批評が存在しなかったことが原因ではないかとも思っています。だから、コンテンツの内部にいる作り手たち(無垢なファンも含めて)が、自分たちへの厳しい意見に戸惑い、反発しているのではないでしょうか。

でもこれは、歓迎すべき事態だと受け止めるべきです。今までお笑いに対して厳しい批評がなかったというのは、文句を言われないハイクオリティなコンテンツを供給できていたからではありません。単に、無視されていただけです。「たかがお笑い程度」と見くびられて、低クオリティのものが登場しても、「所詮お笑いだからどうでもいいだろ」と無関心の態度を貫き通されていただけなのです。お笑いが、その程度のものと見られていたということです。

文学にも、映画にも、そして漫画やテレビゲームにすら、厳しい批評と批評家たちが存在します。この批評が、業界のクオリティを一定水準に保つ役割を一定部分で担っています。お笑いが、これらのコンテンツと肩を並べるためには、「真剣な批評に堪えるようなコンテンツ」に自ら変じる必要があります。それには、「真剣な批評」がまず必要なのです。

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