<「めちゃイケ」で箱根温泉?>テレビの一番の主力商品が「番組」であることを思い出せ
メディアゴン / 2016年6月17日 7時30分
高橋維新[弁護士/コラムニスト]
* * *
2016年6月11日放映のフジテレビ「めちゃ×2イケてるッ!(以下、めちゃイケ)」のメインは「小涌園のわき園」。番組が箱根でプロデュースする温泉施設を設計・施工していく模様である。
「めちゃイケ」が何らかの娯楽施設をプロデュースするとなると、真っ先に思い浮かぶのは「お台場冒険王」や「お台場合衆国」、あるいは「足柄サービスエリア」である。これらの施設やイベントでは、グッズや食べ物が売られ、一部エリアでは入場料もとられる。簡単に言うと、テレビ局の副収入を生み出す仕組みなのである。
「めちゃイケ」も全盛期は確実に人気番組だったので、これらの施設でかなりの収入を上げていたのだろう。「お台場冒険王」や「お台場合衆国」といったフジテレビが夏に本社周辺でやるイベントでは、毎年必ず番組のブースを出していた。そしてその「めちゃイケ」ブースの内容が、毎年番組丸々1回分の尺を使って紹介されていたわけである。
とはいえ、そこは流石に腐っても「めちゃイケ」であって、この「冒険王紹介回」も、単純に告知宣伝をするわけではなく、きちんと笑いが生み出されるような構成になっていた。
今回も「小涌園のわき園紹介回」としか言い得ない内容の中ではあるが、全盛期の「めちゃイケ」よろしく随所に笑いを生み出すシーンが散りばめられてはいた。しかし、物足りなかったというのが正直なところである。
メインで出てきたのは、「めちゃイケ」メンバーのうち実際に箱根で作業に加わっていた濱口・大久保・後藤の3人である。今回のおもしろいシーンは、この3人が他のプロの作業員に違和感なく溶け込んでいるところが主であった。
これがおもしろいのは、芸能人のくせにオーラが消えているという「ズレ」があるからである(そして大久保に関しては、女性なのに作業員姿が板につきすぎているというズレもある)。しかし、ずっとこのズレ一本で押してくるので、単調な印象になっていた。番組が終わる前に飽きてしまう人は多いはずだ。
【参考】なぜ「めちゃイケ」は素人・三中元克を5年間も使い翻弄し続けるのか?
また番組の一貫したストーリーのようなものもない。今回の番組は大久保と濱口が特に理由の説明もなく箱根に連れて行かれ、作業を始めさせるというシーンから始まっていた。全盛期の「めちゃイケ」だったら、そもそもなぜ箱根に温泉施設を作るのかということを説明して、番組全体に通底するストーリーを視聴者にも共有させ、それを最終的にオチにつなげていくというような構成にしたはずである。
例えば、過去の「めちゃイケ」だと、「最近不況で予算が減らされている」ということを冒頭で岡村に説明させた後で、「だから今回の冒険王も全体的に予算を削減しています」という設定で、色々と金がない故に低クオリティに見えるブースを紹介して、その低クオリティさで笑いをとってくるというようなことをやっていた。このような場合であれば「予算がない」という一貫したストーリーがあるのである。
今回は、こういうコントじみたストーリーが一切存在せず、ただ温泉施設予定地での作業の模様を垂れ流していただけであった。せっかく番組の途中で岡村扮するE村Pが「ライト層を取り込みたい」みたいなことを言っていたので、これをテーマにストーリーを作ることは一つ考えられただろう。
加えて、番組の随所随で女性の笑い声や「おお~」という感心の声が入っていたが、これが筆者としてはかなり鼻についた。番組冒頭では「E村旅夢気分」という旅番組のパロディっぽいロゴが大写しになっていたので、この笑い声等を足す演出もそのパロディだったのかもしれない。
しかし、笑うべきシーンに笑い声を入れ、感心すべきシーンで「おお~」という声を入れるという本家のパロディ元と寸分違わぬ演出だったため、パロディには感じられなかった。そのため、大しておもしろくないシーンで笑い声が入り、嘘くさく感じられてしまうというテレビの嫌らしい部分が強調されてしまったように感じられたのである。パロディのつもりだったら、もっとパロディだと分かってもらうための工夫が必要であろう。
【参考】自ら「炎上」へと突き進む?舛添都知事の「理論的な釈明」
いづれにせよ、なぜ何の脈絡もなく箱根に温泉施設を作り出したのかは気になるところである。フジテレビがまた副収入を得ようとしているのかもしれない。そのような副収入が得られる企画をやらないと、番組自体が続けられないほど「めちゃイケ」が追い詰められているのかもしれない。
もし、この「副収入」が前提であるとすれば、おもしろい番組作りが二の次になってしまうことは避けられない。番組内では施設の告知宣伝のために、その施設を「すごい」「おもしろい」と褒める必要があるため、何かをバカにすることで生まれる「笑い」とは内容的には正反対の方向を向いてしまうからだ。
そう考えると、番組的にはこういった企画はなるだけやらない方が良い。バラエティに時々挟まれるドラマや映画の告知シーンが全く笑えないのは、そのドラマや映画を「おもしろい」と褒めているからである。
副収入を狙った施設の紹介ばかりが強要されると、おもしろさ第一の番組作りができなくなって、それこそ番組そのものが沈没してしまう。テレビ局の一番の主力商品は、グッズでも食べ物でもなくテレビ番組だということをもう一度思い出した方がいいのではないだろうか。
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