高橋維新「諷刺はなぜ笑えないのか」
メディアゴン / 2016年7月8日 7時30分
高橋維新[コラムニスト]
* * *
諷刺とは、ごくごく簡単に言えば対象をバカにする表現技法のことである。対象は、国家や体制であったり、企業や組織であったり、それに属する一個人であったり色々であるが、いわゆる「強い者」であることが多い。表現手法は、文章であったり絵であったり写真や動画であったりと様々である。
注意すべきは、諷刺は常に「笑える」ものではないということである。諷刺の中でコメディ色が強いものは、特に「パロディ」と呼んだりもするが、諷刺はもっと広い概念であり、そもそも出発点からして「笑える」わけではないものをも含んでいるのである。
筆者が「諷刺」といったときに真っ先に思い浮かぶのは笑点における円楽の政権批判の解答である。円楽の政権批判は、拍手が起きて、座布団をもらえるが、笑いが起きていないこともしばしばある(筆者の印象としては、笑いが起きていないことの方が多い)。これは端的に、諷刺が笑えるものばかりではないからである。
【参考】<笑点>「初回だから」では言い訳できない新司会・春風亭昇太
なぜ笑えない場合があるか。簡単である。笑いのセオリーから外れている場合があるからである。
筆者は何度も指摘しているが、何かをバカにすることで生まれるのが笑いである。であれば、対象をバカにしている「諷刺」は全て笑いを生み出すのではないかとも思えるが、ことはそう単純ではない。
笑いは、ズレから生まれるものである。何かをバカにすることで笑いが生まれるのは、バカにされる対象に(多数派からの)ズレがあるからである。「バカにする」というのは、基本的にはそのズレの存在を指摘して視聴者に分からせるツッコミの作業である。バカにしている程度が甚だしければ、その甚だしさ自体がズレを生んで、それがボケにもなる。
例えば最近の笑点で円楽が「安倍総理が消費増税を先送りしたのは景気対策じゃなくて選挙対策だろう」という趣旨の回答をしていた。拍手は起きていたが、笑いは起きていなかった。それは、おもしろくはないからである。
なぜおもしろくないかと言えば、ズレが全くないからである。「政権与党が、選挙を慮って増税を先送りにする」というのは、極めて普通の行動である。これを指摘しても、視聴者は何らのズレを見てとることができないので、笑いは起きない。
逆に「政権与党が選挙前に大増税をしてきた」のであれば、ズレがあるので、こちらは笑いの種になる。
政治資金の不正利用を問われて、「第三者に精査してもらいます」と釈明する政治家は普通である。これを諷刺で指摘しても笑いは起きない。
他方で政治資金の不正利用を問われて泣き喚きだしたら政治家としては普通ではないので、ここにはズレがあり、それが笑いの種になる。無論、選挙対策のために増税を先送りにする政権与党や政治資金の不正利用を問われて「第三者に精査してもらいます」と言う政治家が「普通」であっていいのかという問題はあるが、それは全く別の話である。
こういった「普通」からは笑いは生まれないので、諷刺で笑いを志向する(=パロディをやる)のであれば、何らかのズレを生み出さないといけない。
ごくごく単純な例であるが、例えば「昨日の夕飯は何を食べたんですか」と聞かれても「第三者に精査してもらいます」と答える政治家がいれば、そこにはズレがある。自分で分かることにさえもそういう風に言うのは、「普通」ではないからである。
【参考】<コレジャナイ>東京五輪公式アニメグッズの絶望的なダサさ
笑いを志向する際には、こうやって意識してズレを作っていくのである。この「ズレ」のパターンをいくつも考える力を、大喜利力と言う。
ちなみに諷刺が笑えないもう一つのパターンとして、ズレはあるがその程度が甚だしすぎる(=ズレすぎていて、あるいはズラしすぎていてお客さんが引いてしまうレベルに達している)と言う場合がある。
諷刺の対象となっている政権や体制はやっていることがメチャクチャである場合がかなりあるし、政権批判もともすれば過激化する傾向にあるため、この「ズレすぎ」というパターンもそんなに珍しいものではない。
ポル=ポトは、反体制派になり得る知識人層を抹殺するために、眼鏡をかけている者であれば問答無用で殺害したらしい。これを指摘するのは諷刺であり、ポル=ポトのこのやり方にはズレがある。
場合によってはこれを笑える人もいるだろうが、これが笑えないとすれば、ズレすぎだからである。ズレは、あくまで適切な範囲の「程度」に収まっている必要があるのである。
オバマ政権を諷刺するためにオバマ役のコメディアンが全身に墨汁を塗りたくって出てきたら、それもズラしすぎであろう。
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