内輪ウケ?「さんまのお笑い向上委員会」の危険な兆候
メディアゴン / 2016年7月29日 7時30分
高橋維新[弁護士/コラムニスト]
* * *
2016年7月23日から24日にかけて放映されたFNS27時間テレビ(フジテレビ)。その1コーナーを担ったのが、「さんまのお笑い向上委員会」である。
「さんまのお笑い向上委員会」という番組が、番組発足当初はどういう内容を志向していたかは分からない。だが少なくとも現在は完全に、ひな壇にいる芸人たちが順番に一発ギャグを披露していく番組になっている。
明石家さんま・今田耕司・宮迫博之などツッコミもできる実力派が揃っているので、そのような内容でもある程度のまとまりを見せてくれることを期待したいのだが、結果的にはそうはなっていない。
太田とホリケンの2人(と随行する何人か)が無計画・無秩序に前に出過ぎるせいで、さんまや今田をもってしてもさばききれていないのである。
もちろん、2人の空気を読まない動きがスベったらスベったで、その点をツッコめば笑いに変えられるのだが、太田・ホリケン(とその他)は前に出ずっぱりで四六時中スベっている。そのため、ずっとその「スベリ芸」のパターンを見せられることになり、見ている方としては飽きてしまう。
これはとりもなおさず、前に出てきた人間がスベったことにツッコミを入れる前に、別の人間がまた前に出てきてギャグを入れ、更にスベってしまうということなので、スベリを笑いとして昇華する時間をもらえないということである。そのため、ずっと収拾がつかないまま時間が過ぎ、そのまま番組が終わってしまう。さんまも27時間テレビ内で盛んにこのコーナーのことが心配だと述べていたが、さもありなんという状況だ。
【参考】<無知か?暴論か?>続出するテレビに出る人たちの「びっくり発言」
筆者は、一発ギャグがいけないと言っているのではない。一発ギャグの中にも、おもしろいものはある。この番組であれば、主には中川家・礼二や飯尾が考えたものである。あるいは今回ゲストで来ていたさんまのファミリー(間寛平・松尾伴内・ジミー大西・村上ショージ)がさんまにフられてやるギャグも、概ね面白い。ただ、これも当然回数を重ねることで飽きてしまう。
やはり、このパターンに「変化」を入れる必要がある。例えば、さんまのフリに対してフラれていない人が答えてギャグを奪ってしまうとか、さんまが自分でギャグを言ってパターンをつぶしてしまうとか、フラれたのにカンだりタイミングを間違えたりして失敗するとか、そんなようなことである。これも、パターンとの配分とツッコミにさえ意識しておけば、十分高尚な笑いになる。
しかし、勘違いしてはいけないのは、これらの「変化」はまず通常のパターンがあってこそ初めて映えるということだ。ずっと「変化」だけを見せられると、その「変化」が常態になってしまい、これまた飽きる。だから、まずは通常のパターンを見せる必要があるわけだが、太田やホリケンが前に出ずっぱりになることで、通常のパターンを見せることができなくなる。2人の動きは、フリを阻害しているのである。そういう意味では、笑いのセオリーに反していると言ってしまってもいい。
このように「お決まりの一発ギャグと、それに対する変化」をメインコンテンツとして笑いをとっていくべきであれば、出演者はもっと少ない方が良い。
現在の「向上委員会」においては、今回の放映も含めて、まずひな壇にいる芸人が多すぎる。太田やホリケンが前に出ていくと、自分も映ろうという一心で他にも前に出てくる芸人が出てきてしまい、その相乗効果で、ずっと無軌道でおもしろくない一発ギャグを見せられることになる。
これでは、何が何だか分からない。特に今回のような生放送だとこの無軌道さを剥き身のまま見せつけられることになるため、視聴者も困惑するばかりだ。ゲストの東国原さえも、特にいる意味がなくなってしまう。
【参考】<大学の無知>東京理科大「笑育」は芸能を理解していない害悪
おもしろい一発芸が確実にできる礼二・飯尾とさんまファミリー、ツッコミ役としてMCのさんま・今田・宮迫あたりを置いておいて、これに変化を入れられる天然芸人が1人、2人もいれば事足りるはずだ。
番組として太田とホリケンを使うのであれば、2人が存在する意味をもっと突き詰めなければダメだろう。ただ、2人とも番組に出続けているということは、スタッフには何らかの意図があって2人を使い続けているのかもしれない。とはいえ番組が始まってもう1年以上経つのに、筆者には未だにその「意図」は分からない。
今回の生放送中でも、局の上層部がこの番組をおもしろがって放映時間を延長するということが起きていたが、もしかしたら上層部はこのままでおもしろいと思っているのかもしれない。
だとすれば、それは、危険な兆候だ。それこそ、単なる「内輪ウケ」でしかないのではないだろうか。
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