<妻夫木聡主演「キッドナップ・ツアー」>夏帆、満島ひかり、八千草薫、脇の女優が光る
メディアゴン / 2016年8月7日 7時40分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
筆者は普段、ドラマは見ないが、今シーズンは何となく気になっていたドラマがあった。
妻夫木聡主演の「キッドナップ・ツアー」(NHK)である。8月2日7時半の放送開始時は、横目で見ていたが、そのうちに目が離せなくなってしまった。
その理由は、物語が小学5年生の少女ハル(豊嶋花 )の心の声のモノローグで進むからである。筆者は子役の芝居が嫌いである。上手でも下手でも嫌いである。
しかし、モノローグなら聞いていられる。セリフ(ダイアローグ)を最小限に押さえて、付けた芝居にモノローグをかぶせる。これなら見ていられる。
話は簡単だ。
ハルは、母と離婚した父(妻夫木聡)に夏休みに誘拐される。仕事もなくグダグダの父との数週間の旅が描かれている。その様子がハルのモノローグで語られる。
【参考】<「とと姉ちゃん」という矛盾>NHKが広告をやらないなんてウソ
父と母の離婚の理由は見る者には知らされない。父は母と何かの取引をするためにハルを連れ出したらしいことだけが分かる。
つまり、最初にドラマ最大の事件が起こって、後は奇妙な父と娘の交流が淡々と描かれているだけなのである。となると描きたいのは父娘の交流であると分かる。
ハル目線のモノローグがますます気になってくる。そして、このドラマの脚本は女性なのか、男性なのか気になって気になってまた目が離せなくなる。普通に考えれば思春期以前のハルの心を書けるのは女性脚本家である。
だがそこに妻夫木聡の父が男目線で絡んでくる、これは男の気持ちが分かる人が書いているように思える。
ハルと父親のユウカイ旅行は取引が成立したことで終わる。ただし、その取引の内容は最後まで明かされない。開かれた結末である。
男が書いたのか女が書いたのか。その疑問はスタッフロールを見て氷解した。ドラマはオリジナルではなく原作がある。作者は角田光代氏。脚色していたのはテレビマンユニオンの岸善幸監督。男も女も書いていたのである。
今やこういう波瀾万丈のないドラマはNHKでしか成立しないだろう。豪華な女優陣がピンポイントで適切に使われているの点もすごい。ハルの年若いおばに夏帆。父の元恋人に満島ひかり。宿坊の老妻に八千草薫。この女性達は皆ハルの将来の姿なのだろう。
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