<お盆、死者の魂はどこに?>終戦記念日・信教の自由と靖国の英霊
メディアゴン / 2016年8月15日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
お盆、迎え火をたき先祖の霊を迎えるとき、ふと疑問が浮かびます。死者の魂はどこにあるのだろうか、と。
迎え火でお迎えするまでは黄泉の国? 日々お祈りしている仏壇のお位牌? お参りするお墓? 命を落とした場所? その方を祀った神社? 死者の霊魂は生きている人間の心の中にいる、と言う人もいます。
どう考えるかは人それぞれで、信じることはできても、それを証明することはできません。
8月15日、終戦記念日がくると国会議員のみなさんが集団となって靖国神社に参拝するニュースが流れます。
それを視るたびに、はたして国に命を捧げた英霊たち、とりわけ太平洋戦争で散った人々の魂がすべて靖国神社に存在するのだろうか、という思いに至ります。
太平洋戦争での戦死者は概ね230万人。うち戦闘死が40%、戦病死が60%と言われています。餓死を含む戦病死が戦闘死を上回る国などほかには存在しないとか。
インパールやガダルカナルなどを例示するまでもなく、武器弾薬はおろか食料、医薬品もろくに準備できない無謀な作戦で、マラリヤなどの感染症などによる病死と、食糧補給がなく「餓死」せざるをえなかった兵士を含む戦病死兵士の数は優に100万を越えると言われます。
さらに、護衛なしの輸送船で易々と敵潜水艦の餌食となり、闘うことすらできず太平洋に沈んだ兵士の数も膨大です。
【参考】<都内最大級の若者スポット「靖国神社」>なぜメディアは靖国神社の盛り上がりを報道しないのか?
戦闘死にしても、アメリカは兵員数だけでも数倍以上、さらに艦船、航空戦力、戦車、各種火器の圧倒的な物量差を勘案すれば数十倍の戦力差の中で、ひたすら精神力に頼る絶望的な戦いを強いられ、手榴弾を胸に敵戦車の下に飛び込むような戦闘、銃弾が尽き銃剣だけを武器に敵陣に飛び込む玉砕戦法など、他国では考えられない自殺的な戦いで命を落とした兵士も多くいます。
日本人は、命をかけてお国のために働こうと意を決して戦地に臨みました。
その結果受けた仕打ちがこのようであった人々は、汝は天皇の赤子であり、死後は靖国の神となると言われても、少なからぬ人々が、貴重な命をあまりに粗末にされた己の運命を嘆き、国は赤子に何を強いたのかと怒りの中で死んでいったのではありますまいか。
8月半ば、そんな方々の魂も靖国にあるのだろうか、あるいは靖国にあることを望んでいるのだろうかと考えざるをえません。
しかしひとたび靖国に祀られると、遺族が望もうとも合祀から除外してはもらえません。キリスト教徒のご遺族などを含め、合祀から外して欲しいといういくつかの裁判がありましたが認められていません。
靖国神社はひとつの宗教法人であり、なにを祀るかはその宗教法人の自由なのだそうです。これも憲法で保障された信教の自由なのでしょう。しかし、一方で靖国に祀られたくない側の信教の自由はどうなるのかという思いも禁じ得ません。
靖国神社は自らを「奉慰顕彰」の施設であるとしています。「奉慰」とは慰霊のことで、「顕彰」とは功績を讃えることです。
日本はポツダム宣言及び東京裁判を受け入れることでサンフランシスコ平和条約を結び国際復帰したわけですから、靖国神社の自由とは言え、A級戦犯をも合祀し、これを「顕彰」するとなると、快く思わぬ国もあるでしょう。
A級戦犯合祀問題を別にしても、「顕彰」となると合祀されている英霊の中にも「慰霊」はともかく、「顕彰」などされたくはないという方もおられるだろうと考えます。餓死させておいて何が「顕彰」かと・・・。
靖国問題は軽々しく語れる問題ではありません。分祀問題にしても、合祀した一本のろうそくの灯から別のロウソクに火を移しても元の火は残る、などという教義の話もあり、難しい問題のようです。
しかし靖国神社ばかりでなく、なん人にも等しく信教の自由は与えられているのですから、ご遺族が望む場合にはせめて合祀名簿から抹消することぐらいはできないのでしょうか。
平成28年8月15日、終戦記念日。今年も国会議員有志のみなさんが集団となって靖国へ参拝されるのでしょう。
その国会議員のみなさんには、靖国が慰霊とともにA級戦犯を含めて「顕彰」する施設であること、および靖国に祀られていることを望まないであろう魂もおられることにも思いを致し、その上で靖国ばかりでなく、千鳥ヶ淵に眠る無縁の戦没者や広島、長崎の原爆および多くの空襲で亡くなった方々を含む靖国に祀られていないすべての戦争で亡くなった方の魂に対しても、等しく慰霊の念を表していただきたいと思います。
八月の空には、戦争さえなければ命を落とすことのなかったすべての方々の無念が満ちているようです。死者の魂が天空にあるとして、それはけっして九段の空だけではありますまい。
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