AI時代の脳の鍛錬はオリンピックにおけるアスリートの躍動に似ている[茂木健一郎]
メディアゴン / 2016年9月2日 7時40分
茂木健一郎[脳科学者]
* * *
リオ五輪は、ほんとうに面白かったが、今回の面白さには、なんだか時代のタイムリーさもあったような気がする。というのも、それぞれの競技で身体を鍛えているアスリートたちには、これからの人類の象徴のような意味合いがあったからだ。
人工知能の発達により、今後、知性において人類はコンピュータやロボットにかなわなくなる。計算や記憶はもちろん、膨大なデータに基づく判断や、論理的な思考においても、人間はAIにはかなわない。
医療診断においても、生身の人間の医師よりも、ワトソンのような人工知能の方が便りになるだろう。法律の判断においても、弁護士よりもAIの方が精度において上回る。そのような時代に、人間の存在意義がどうなるかは、これからじっくり考えなければならない。
【参考】<コレジャナイ>東京五輪公式アニメグッズの絶望的なダサさ
AI時代に鍵となるのは、人間の知性自体はコモディティ化して、それ自体には価値がなくなる、という事実であろう。計算や記憶能力において、もはや人間の能力自体には価値がないのと同じように、人類の知性のさまざまなモジュール自体に価値はなくなる。
100メートルで速い選手を見て、運送会社の社長が「いいね! 彼に働いてもらえば、荷物を速く運べる!」と言わないのと同じように、「彼は賢いね! あの知性が我が社に必要だ!」とはならなくなる。そのような時代に、人間の存在意義は、どうなるのだろうか。
知性を鍛えるということは、オリンピックのアスリートたちと同じような意味合いになってくるだろう。100メートルを速く走るということ自体には経済的価値はないが、そのように身体を鍛えることに意義があるのと同じように、知性自体の経済的価値よりも、その鍛錬の過程、結果に意義がある。
そうなると、三段跳びの織田幹雄さんが、かつて、「跳躍すること」自体の歓びを語ったように、たとえ人工知能が凌駕していても、生身の人間が脳を鍛えること自体に、生命の躍動の歓びが宿る。碁や将棋はすでにそうなりつつあるが、広い分野に、この感覚が広がっていくことになるだろう。
結局、人工知能時代における脳の鍛錬は、オリンピックにおけるアスリートの躍動に似たものになるということになる。それはそれで、一つの黄金時代の到来ということになるのかもしれない。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
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