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<障害者差別解消法って何?>障害者が「配慮する側」にも「配慮される側」にもなる

メディアゴン / 2016年9月18日 7時30分

小林春彦[コラムニスト]

* * *

今年は、障害者がなにかとメディアを騒がす年のようです。障害者の不貞行為が性介助の問題に転じたり、障害者施設での残忍な殺傷事件が起きたり、「お涙」を誘う障害者を扱った民法テレビ番組の対抗馬として公共放送では障害を「笑い」にしようという番組が放送されたことが話題になったり・・・。

筆者が障害のある当事者であるということを差し引いても、とりわけ今年は世間で「障害」というデリケートなキーワードに関心が集まっていたように思います。

【参考】<24時間テレビ>清く正しく美しい障害者を創る「感動ポルノ」という嘘

そんな2016年ではありますが、今年度から施行されている「障害者差別解消法」をご存知でしょうか。

障害者が健常者と共に勉強したり労働したりする機会は、昔より増えてきましたが、依然として障害者の社会進出は十分とはいえない状況があります。そこで、障害者が社会で活動しやすいようにしようと制定されたのがこの法律です。

正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といい、障害を理由に差別や権利の侵害を行ってはいけないことを定めています。もちろん「差別的かどうか」ということは、相手が不愉快に思うかどうかではなく、証拠によって法に触れて合理的に説明できるかどうかで判別されます。

この「障害者差別解消法」の施行から半年が経ち、筆者には気になることがあります。それは法律の施行と障害者の社会進出によって、平等を主張する障害者が、「配慮される側」だけでなく「配慮する側」にも立つことを理解しているのだろうか、ということです。

職場での例を考えてみましょう。

今回の「障害者差別解消法」の施行に伴い「障害者雇用促進法」も改正され、そこでは障害者を雇用する事業主に職場内での合理的配慮が義務付けられました。

たとえば、職場で車椅子ユーザーのAさんが働いているとします。そこに、統合失調症のために復職してきたBさんが配属されたとします。この場合、事業主はAさんとBさん、どちらに対しても合理的配慮をしなければなりません。

一方、法律では労働者同士の合理的配慮の提供が義務付けられているわけではありませんが、同じ職場に障害者が働く際に、一緒に働く労働者にも合理的配慮に対する理解と協力が求められることになるでしょう。

これはつまり、先ほどの例でいうと身体障害のAさんと精神障害のBさんはお互いに、同僚の障害の合理的配慮に対して理解と協力をしなければなりません。こうしたケースでは当然、お互い「配慮される側」にもなれば「配慮する側」にもなります。

Aさんは車椅子に乗っているからBさんへの配慮は難しい。あるいはBさんは精神的に不安手だからAさんへの配慮は難しい。このようにそれぞれが感じるかもしれません。もちろん障害の種別や程度によって合理的配慮が難しい場面は生じる思います。しかし、それと「配慮をしない(同僚に配慮の態度を示さない)」というのは法的に別問題です。

【参考】<感動ポルノ?>障害者を笑い飛ばせる社会を目指す過ち

はっきり言ってしまえばAさんもBさんも、自分が「配慮する側」になる際は、自分の障害はそこで本質的に関係のない話なのです。

考えてみれば、健常者、企業、教育機関という立場にある人々にしたって、障害者を「配慮する」と一口にいっても、リソースが限られている場合が多いのが現実です。自分が障害者だからと言って、思い通りにならないことを何でも「差別だ」と傲慢になってはいけませんし、健常者にとって過度な負担をかけることもできません。

種別こそ違えど障害者同士、そして障害者と健常者、このように双方が障害の有無や種別に関係なく限界を抱えている現場において、どこにお互いが弱者の可能性を発揮するために合理的な妥協点を見つけて配慮のあり方を調整していくのか。

筆者は「元健常者」でかつ高次脳機能障害という「見えない障害」を抱えており、障害者の中でもグレー、障害者とも健常者とも言えないボーダー、というところにいることを自認しています。ですから、この制度の施行で学んだり働いたりする現場はどうなっていくのだろうかと、様々な立場にいる人々に想いを馳せてしまいます。

近年よく使われる「多様性」という言葉はマジョリティ・マイノリティと二分したうえで用いるのではなく、障害者のなかにも多様性がありますし、健常者のなかにも多様性があるものだと考えています。

この閉塞した現代社会の中で、社会の少数派と多数派がどのように互いを、そして自分とは異なる障害者同志をも思いやれるのか。障害者差別解消法がそのようなことについて考えるきっかけとなることで我々の暮らす社会が一つ成熟したものになることを筆者は願っています。

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