<がんばれ!「ENGEIグランドスラム」>このままではスポンサーにも失礼な番組作りだ
メディアゴン / 2016年9月21日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
あれでは演者が可哀想である。フジテレビ9月17日放送の「ENGEIグランドスラム」のことである。
まず、番組の企画意図が見えない。企画意図などというと、企画書の中では大抵読み飛ばさせる部分であるかもしれない。だが、企画意図が実はいかに大切であるのかは、企画意図を「番組の志」と言い換えれば分かる。「番組の志」というのはプロデューサー・スタッフが視聴者に何を見せたいかと思って作っているかということである。
タイトルが「ENGEIグランドスラム」であることから、その志は「今、最も面白いENGEIを視聴者に見せる」ということだと想像はつく。
しかし、実際の番組はそうなっていない。名は体を表していないので志が見えないのである。
演芸をENGEIとローマ字表記にするのは筆者のようなジジイでさえ古くさいと思うが、演芸、つまり笑える歌舞音曲ならすべて当番組のジャンルにはいると主張しているのかも知れない。歌舞音曲とは、昔ながらの演芸場に行けばすべてを網羅して見られたものだ。
そういう演芸場は今、日本のどこにもない。
「ENGEIグランドスラム」の出演者は皆それなりにがんばっていた。オリエンタル・ラジオの演目は歌舞音の類いだし、曲は本来、手品、マジック、物まね、マンザイなどすべてを包含する概念で落語以外の色物のことである。
色物とは演者の看板が朱筆などの色筆で書かれたことに由来する。落語や講談が本芸でそのほかは色物と考えるのが昭和の昔の時代の倣いだった。
それら色物、特に、マンザイにもすばらしくおかしいものがあるからそれを見せたい、と言うのが往年の番組「THE MANZAI」の志であった。
クールにフレームアップする意図の元に「THE MANZAI」はショウとしてきちんと構成された。ショウというものには現場の客が笑えなければテレビのお客さんにはとうてい伝わらないという根底のポリシーがある。だから、登場順にはものすごく気を遣った。流れるように見ることができて飽きないことが最も重要だ。
ところが「ENGEIグランドスラム」は一人一人の演目が単発単発で終わりになってしまっている。笑いが重層的に積み重なっていかない。その役目の一端はナインティナインが負っているはずなのだが、こちらも全く機能していない。
【参考】三遊亭円楽が「ENGEIグランドスラム」の大トリという謎
こういう単発の見せ方ならYouTubeで拾ってきてみたほうが、途中でトイレ休憩も簡単に取れてラクだ。
誤解を恐れずにショウを定義すれば「途中でトイレに行きたくても期待感でそこを離れられない」というのが、ショウだ。結果的に「ENGEIグランドスラム」はスポンサーにも失礼な作りになっている。次のネタが待ち遠しくて、CMの間もテレビの前を離れられないような作りには、なっていないのだ。
三遊亭円楽の起用にも大きな疑問がある。
この番組のスタッフは笑いが好きなのではなくて、「笑点」と視聴率だけが好きなのかと思ってしまう。まず、登場順。トリを円楽にするなら、その前は、ネタ連発の爆笑問題、話芸で攻める中川家、そして円楽の順番である。
全体に騒々しい(悪口ではない)コント、マンザイが続く中で、落語代表の形になっている位置に円楽を起用したのはなぜだろう。
当代円楽は大師匠である三遊亭圓生のような大人の艶はまだ無いし、直師匠の先代円楽のような居酒屋の無駄に大きい提灯のような明るさもまだ完成していない。その円楽が「猫の茶碗(猫の皿)」のような民話っぽい平板な話をやるのであるから、落ちまで笑いは起こらない。
大体三遊派は笑いを入れるより、うまい演じ方をすることが重要な流派である。おなじ「猫の茶碗(猫の皿)」で柳派の流れである柳家小三治や立川志の輔なら、途中でくすぐりを入れなければ、いらついて自分でもやっていられなくなってしまう話だ。
「ENGEIグランドスラム」で「猫の茶碗(猫の皿)」をやってもらうなら、ここは春風亭昇太しかないだろう・・・というくらいなことなのであるが、スタッフはそこまで考えたのであろうか。
ずっとこの番組を貶してしまったがもちろん、褒めるべき点もある。
一番面白かったネタは岩尾望のコントで、「お父んロボット」が突然「ウィー」と叫びながら「掃除ロボット」になってしまうところ。
番組自体が「偉い」のは、もう6回も続けているところ。ガンバレ!「ENGEIグランドスラム」。
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