「残業100時間で過労死は情けない」教授処分の是非
メディアゴン / 2016年10月13日 7時40分
茂木健一郎[脳科学者]
* * *
武蔵野大学の長谷川秀夫教授が、「残業100時間で過労死は情けない」というコメントを書かれて批判されたことに対して、武蔵野大学が「処分」を検討しているという。このニュースを読んで、大学の対応に強い違和感を覚えた。
長谷川先生のご発言が、適切でないことは当然として、言論の是非は言論の中で決着をつけるべきであって、それを「処分」という形で対応することが「言論の自由」という視点からみて疑問、というのがまずひとつ。
さらに、「組織文化」の問題である。「残業100時間」を強いる企業があったとしたら、そのような組織文化、体質が問題なのであって、そのことを是正する、というのが正しい理路であろう。
【参考】<ブラック企業の条件?>大量募集と退職強要・使い捨て・パワハラ/セクハラ
同じことが、武蔵野大学についても言える。長谷川先生の「残業100時間で過労死は情けない」という発言が、個人の言論として批判されるのは当然として、より本質的に問われるのは、果たして、そのような方が教授をされている武蔵野大学は、学問の府として大丈夫なのか、ということだろう。
すべての学問は、人間の本質を理解することにつながる。現代における学問のあり方として、「残業100時間」を正当化するような発想は、あり得ない。だとすれば、「残業100時間」と発言された長谷川先生、そして武蔵野大学の「学問」の質が問われることになる。
武蔵野大学として、本当にやるべきことなのは、大学として、「残業100時間」を当然とするような文化が、自分たちの中にないかどうか、働き方や多様性などに関する価値観は大丈夫か、という自己点検、改善への取り組みだろう。教授一人を処分しても、大学としての質の担保にはつながらない。
日本の組織は、ほんとうに「処分」が好きだが、多くの場合、意味がない。「処分」で前提になっているのは、処分する組織側が「正しく」、無謬ですらあるということだが、そのような仮定は多くの場合成立しない。とりわけ、働き方などの文化においては。
「残業100時間」を強いる組織だって、その社員を「処分」したりすることだろう。ほんとうに大切なのは、個人を「処分」して組織を守ることではなく、組織自体のあり方を自省することだ。武蔵野大学が、「処分」すべきなのは、長谷川先生個人ではなく、むしろ大学組織としての自分自身である。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
株式会社DOU、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学生を対象に「キャリアパスポート」の発行をスタート
PR TIMES / 2024年6月29日 22時40分
-
安易な国粋主義を戒めた「日本主義」哲学者の気概 九鬼周造の生き方に見る「媚態」と「やせ我慢」
東洋経済オンライン / 2024年6月25日 10時30分
-
第2の「セクシー田中さん」が生まれるだけ…「芦原さんの死は日テレのせい」という安易な決めつけが危険な理由
プレジデントオンライン / 2024年6月21日 16時15分
-
50歳で無職。14年間、仕事を求めて放浪…そんな孔子が書いた『論語』の世界観が、今の日本人に必要なワケ【明治大学教授・齋藤孝氏が助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月15日 10時0分
-
SNSにおける教養は「人を殴るための棒」...民衆に殺される時代に「ジャーナリズムの未来」はあるのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月12日 9時0分
ランキング
-
1NYで人脈構築の小室圭さん、対照的な生活の眞子さんは「ほとんど外出せず」紀子さまが抱える“複数”の不安
週刊女性PRIME / 2024年7月4日 7時0分
-
2実刑判決で「頭が真っ白に」 法廷に両親の涙 静岡バス置き去り死
毎日新聞 / 2024年7月4日 20時58分
-
3「紅麹」サプリ問題、調査中の死亡事例81人に…先月末から5人増
読売新聞 / 2024年7月4日 20時59分
-
4「魚民」の大量閉店は“大正解”か。運営企業「モンテローザ」の“稼ぐ力”は他社を圧倒
日刊SPA! / 2024年7月4日 8時53分
-
5新潟上越市でマンホール点検中の男性死亡 夕方になっても帰社せず捜索、マンホール内で意識不明の状態で発見
新潟日報 / 2024年7月4日 23時40分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください