<安倍首相のトランプ詣>対米ロ外交の危うさに控えめな大手メディア
メディアゴン / 2016年11月28日 7時30分
上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]
* * *
先進国の首脳としては「世界一番乗り」と意気込んでドナルド・トランプ次期米大統領と会談した安倍晋三首相の外交戦略がその後、何やらぎくしゃくしている。
安倍首相との会談からわずか数日後、トランプ氏は大統領選挙中に強調していたTPP(環太平洋経済連携協定)からの米国の脱退をあらためて宣言し、今国会でのTPP承認を目指す安倍政権は見事に梯子を外されてしまった。
さらに、トランプ氏の影響はロシアのプーチン大統領にも及んでいるとされ、12月の日ロ首脳会談に向け高まっていた北方領土返還ムードがここへきて一気に後退している。内閣支持率は依然高いものの、米ロ両大国との関係では危うさものぞかせており、安倍政権の外交力と、それを報じるメディアの分析力が問われている。
<「世界一番乗り」で次期米大統領にゴマすり>
安倍首相は、大統領就任前のトランプ氏をニューヨークの自宅に現地時間11月17日に訪れ、異例の会談を行った。
官邸や外務省は各国首脳に先駆けた「一番乗り」の会談と喧伝しているが、米大統領選の期間中に安倍首相がヒラリー・クリントン候補とだけ会談し、トランプ氏とは会わなかった外交上の「失点」を回復するためのなりふり構わぬ「トランプ詣」であることは明らか。
安倍首相は、両者の会談の内容は一切明らかにせず、トランプ氏を「信頼できる指導者」と語ったが、「信頼できる」理由は全く説明していない。
【参考】<トランプというネタ>「ガチ」が「ネタ」に敗北した米大統領選
このため野党からは「朝貢外交」との揶揄も聞かれる。また、オバマ現政権の頭越しの「トランプ詣で」だけに、諸外国からも、対米追随のあからさまなゴマすり宣言と映ったかもしれない。
<TPPでは日本側の懇願むなしく改めて脱退を明言>
もともと日本とアメリカには、日米安保条約や、それと一体の日米地位協定があり、米軍基地の治外法権などが象徴するように、いわば親分・子分の関係にある。
そんな中で、安倍首相が、はっきりした根拠も示さず、トランプ氏を持ち上げているようでは、トランプ氏の持論である「思いやり予算」(米軍駐留経費)の負担増の要求を本当にはね返すことができるのか心もとない。
また、トランプ氏は安倍首相との会談から数日過ぎた11月21日、TPPからの離脱を予告どおり明言し、安倍政権は冷や水を浴びせられた形だ。
<トランプ氏の影?日ロ交渉も一気に後退ムード>
一方、安倍首相がもう一つ力を入れる12月の日ロ首脳会談は、5月と9月には北方領土返還交渉に「手ごたえ」表明した安倍首相が、先日のペルーでのプーチン大統領との会談後、「そう簡単な課題ではない」と一気にトーンダウン。
そんな中で、日ロ関係に水を差すようにこの11月22日には、ロシアが国後・択捉両島へのミサイル配備を完了したという報道まで流れたが、このミサイル配備は、首脳会談とは無関係の動きとされている。
ただ、トランプ、プーチン両氏の急接近ぶりが日ロ関係にも影響を与え、経済協力を受けるロシアに有利だが、北方領土返還にはマイナスに働いているとの見方が強いのは確かだ。
いずれにせよ、こうした日本の米ロ外交の危うさにメスを入れるべき大手メディアの論調が総じて控えめで、安倍政権の顔色を窺っているような姿勢が気になる。
【あわせて読みたい】
・<トランプというネタ>「ガチ」が「ネタ」に敗北した米大統領選
・トランプ氏の大統領当選は「既存メディアの敗北」
・反グローバリズムがトランプ新大統領を誕生させた[植草一秀]
・アメリカに有利なTPPに反対する「アメリカ・ファースト」のクリントン
・大衆迎合主義に騙されてトランプを選んだ白人の中低所得貧困層
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