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早大演劇博物館の意欲的試み「落語とメディア」

メディアゴン / 2016年12月7日 7時40分

齋藤祐子[神奈川県内公立劇場勤務]

* * *

落語という芸能がメディアとのかかわりの中でどのように変遷してきたことを探る意欲的な展示「落語とメディア」(早稲田大学演劇博物館)を見に行く。だいぶ前からチェックしていたのだが、ようやく見に行った時には図録が売り切れ。

雲田はるこの人気漫画「昭和元禄落語心中」のイラストをはじめ、柳家喬太郎のインタビューやらあれこれとフックが多かったのか、はたまた今の落語ブームを反映して入場者が多かったのか。地味な企画のはずだが図録が会期中に完売とは盛況で喜ばしいが、買えないとなると、それはそれで悔しい。

展示は、かつて歩いていける範囲にひとつはあったという、ラジオもテレビもない時代の庶民の娯楽の王道だったころの小さな寄席を再現するコーナーにはじまる。座敷で聞くこういう小さな会場での会がやはり落語という芸能にはあっているのだろうが、演者の息使いまで手に取るように感じられて(その演者の個性が合わない時などは特に)目のやり場にも困るようなところがある。とはいえ贔屓の会をこんな空間で聞ければ僥倖ではあるのだが。

続いて圓朝の名演が速記本になって出版され、また新聞連載で好評を博すなど、文章にされて複製されることになった「活字化」のコーナー。このことで、限られた1回のライブ(寄席)の観客の数百倍の人達にリーチし、活き活きとした速記本から、多くの人たちが自分の好きな時に名演家の落語の語りを楽しむことができるようになった。

【参考】<人間国宝・噺家・学者・人気者>資料的な価値の高い著作を遺した桂米朝のスゴさ

複製という点では、その後、レコードなどの録音、後のCD、DVDにまでつながっていく。新しい複製メディアがでるごとに、落語はそれを取り入れ、その都度新しい需要を開拓していったといえるのだろうか。とはいえ、飛躍的に鑑賞者の数を増やした、ということからすると、最初の速記本と最先端のYOUTUBEというメディアが双璧ともいえ、大きなインパクトをもたらしたといえるかもしれない。

そして、ラジオ、テレビでの落語番組やバラエティ番組への落語家の出演。テレビ向けの落語は高座とは違う、などという名人上手の言葉を引きながらも、落語の大衆的な要素はどちらのメディアとも相性がよく、全国区の知名度と人気を獲得するにはうってつけのメディアであった。

そして、昨今の落語ブームに関連する、落語を題材とした小説、エッセイ、また漫画やそのアニメーション化、TVドラマのコーナー。それぞれに、落語あるいは落語家の修業時代や師弟関係などに絡めて、共感を呼ぶ普遍的な物語として人気を博している。

その結果、そんな魅力的なら落語会にいってみよう、そこから落語にはまったなら、その先は様々な場所で、気楽な若手の落語会から名人の高座までいろいろな受け皿がある幸せな時代である。趣味が高じて、落語という芸能を理解してみようと思えば、昔の録音やDVDにもこと欠かず興味さえあればいろいろな情報にリーチできる。興味の赴くまま、それぞれに合ったやり方で落語に関われるというわけである。

まさにこの展覧でいう、先験的にメディアとかかわり、多くのメディアと多層的にかかわる中で独自に発展してきた芸能ゆえのことだろう。

展示室自体は小さなものだが、多くの貴重な資料をはじめ内容の濃い展示である。落語に興味がなくても、昨今の落語ブームが気になっている向きには一度足を運ぶことをお勧めする。(早稲田演劇博物館にて、2017年1月18日まで開催)

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