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<沈黙とイビキが評価>映画「皆さま、ごきげんよう」は訳がわからない

メディアゴン / 2017年1月11日 7時40分

保科省吾[コラムニスト]

* * *

オタール・イオセリアーニ監督(81歳)の新作映画『皆さま、ごきげんよう』を見た。日本経済新聞紙上で映画評論家の宇田川幸洋氏が★★★★★を付けていたのが一番の鑑賞動機である。

宇田川氏によれば「歴史に常在する暴力性への諷刺の色がこく」出ている映画なのだそうである。面白いかも知れない。

映画が始まった。パイプをくわえたまま、ギロチンにかかる貴族。はやす民衆の主婦達。落ちた首をまるでスイカのように、前掛けにしたエプロンに包む若い女。

次は現代の戦争の場面。兵士たちは村に火を放ち、略奪を始める。牧師が現れて、兵士たちに洗礼を始める。牧師が軍服に着替えるとからだは入れ墨だらけである。

【参考】北朝鮮に拉致された映画監督が与えられた最高の製作環境?

これは暴力で中欧を蹂躙した十字軍を寓意するものなのか。など考えていると舞台は現代のパリに飛ぶ。ここから先はエピソードを紹介してもこの映画を紹介したことにはなるまい。何しろ、エピソードどおしの繋がりがさっぱり分からないからだ。

寓意(allegory)とか風刺(satire)とかを不覚にも知ってしまったので、それを探そうとするのは間違った見方なのかも知れないなど思っているうちに1時間経ち、周囲からはいびきの音が聞こえてくる。

笑い声は全く聞こえてこないから笑う映画ではないのかも知れない。

そういえばオタール・イオセリアーニという筆者が初めて聞く監督は、フランスの映画監督ジャック・タチを尊敬しているらしいと言う情報も得ていた。タチ監督は『ぼくの伯父さんの休暇』(1953年・モノクロ映画)と言うコメディを撮っていて「これは面白い」と、知らない仲でもないは喜劇俳優の三宅裕司さんがおっしゃるので見てみたが、どこが面白いのかさっぱり分からないのであった。

以来、筆者は『天井桟敷の人々』(マルセル・カルネ監督)と『ぼくの伯父さんの休暇』が面白いという人が薦める映画は見ないことにしていたのだ。

イオセリアーニ監督とタチ監督は、エピソードどおしが繋がりなく編集される点や、映像が様式の美を撮っていると思われるところなどは似ている。さらに最も似ているのは面白そうなだけで面白くはなく分からないところである。

【参考】アニメ映画「聲の形」から考える「感動ポルノ」

意味とか奇想天外な起承転結とかそういうハリウッド映画に慣れてしまった筆者の頭は間違ったほうにいってしまったのかも知れないとも考えてみる。

だが、ダリだって、ピカソだって、ムンクだって、映画ならフェリーニの『サテリコン』だって、ガルシア=マルケスの『族長の秋』だって、アンドレブルトンの『狂気の愛』だって、土方巽の暗黒舞踏だって意味を感じることが出来たのである。

しかるにこのオタール・イオセリアーニ監督の映画『皆さま、ごきげんよう』の何を感じてよいのか。そのわからなさとは何なのか。

「ひとりひとり、どんなことを感じても良いのです」という答えはいりませんから、どなたか教えて欲しいものだ。

2時間1分を見終わった帰りの観客でいっぱいのエレベーターの中は沈黙が支配していた。誰も、ここで感想をつぶやいてはいけないような空気が流れていた。

このエレベーターの中で「この映画、訳わかんないよ。見て損した」と感想を言ったら同意の笑い声が起こるような気もした。・・・この実験、だれか勇気のある人やってみてほしいものだ。

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