<通知表の構造がダメ?>間違いや欠点は学習のための重要な情報
メディアゴン / 2017年1月22日 7時40分
茂木健一郎[脳科学者]
* * *
<間違いは学習にとってのごちそうである>
学習における大事な要素の一つは、「誤差信号」である。正解と自分の出力の間の差をフィードバックする。そして、次の行為においては、その差を小さくするように修正する。これを繰り返していけば、パフォーマンスが向上する。
答案が返ってきたとき、100点満点だったら気持ちがいいだろうが、逆に言えば「誤差信号がゼロ」ということである。点数が悪いということは、それだけ多くの学習機会がそこにあるわけだから、むしろよろこばなければならない!
たとえば、10問中3問しか正解しないで、7問間違っていたとしたら、「しめた!」と思えばいい。7問分の誤差を修正する機会を与えられているからである。そこからは、一つひとつ、ごちそうをたべるように、正解と自分の出力の差を理解し、それを修正できるようにフィードバックしていけばいい。
世間では、往々にして「点数」そのものに重点が置かれているために、間違いが大切な学習機会だという認識がないようである。誤差は学習にとってのごちそうであるという見方を、もっと持ちたい。
学習において誤差信号は大切だから、それは日常的にフィードバックするようにしなければならない。テストの時だけが特別だと思うからいけないのである。ふだんから自分でテスト、採点し、フィードバックを繰り返す学習をしていれば、本番のテストなんて別に大したことがない。
もっとも、以上は正解があり、それを「教師」が教えてくれる「教師あり学習」のメカニズムであり、「教師なし学習」には別のノウハウがあるが、それはまたいずれ解説したい。
<成績のためでなく、学習のフィードバックのための信号としてテストを使うこと>
テストの自己採点などで、自分の欠点がわかったら、それを学習のためのフィードバックに使えばいい。誤差信号を減らす方向に調整すれば、自分のシステムを向上させることができる。それを繰り返しやることで、パフォーマンスを向上させることができる。
誤差信号の減少という教師あり学習は、まさに人工知能がやっていることで、彼らはそれを何千回何万回とくりかえして、機能を高度化している。もともとは人間の脳にインスパイアされたメカニズムなのに、人間の方がかえってそれをできていない。
【参考】自分を必要以上に高く評価する「間違ったプライド」
人間が誤差信号をうまく使えないのは、他人との比較や劣等感といった余計なことを考えるからである。ただ単に、自分のパフォーマンスを上げるために有益な情報だととらえればいいのに、「ダメだ、あいつに負けている」などと解釈し、結果として誤差信号を否定したり無視したりすることもある。
成績の悪い人ほど自分の能力を過大評価する傾向にあるという有名なダニング=クルーガー効果は、まさに誤差信号の虫の結果である。逆に、成績の良い人ほど自分の能力の評価において慎重であるということは、それだけ誤差信号を素直に受け入れる態度を持っていることを意味する。
自分に欠点があったり、足りないところがあるという認識を、劣等感やその裏返しの自信過剰に結びつけるのではなく、学習のための重要な情報としてとらえること。これは、特に初等教育において子どもたちに伝えるべき、とても大切なポイントであるが、それが十分になされていない。
成績や通知表の構造がダメなのである(これは日本だけでなく諸外国でも同じである)。成績で人を「格付け」するのではなく、学習のための情報をフィードバックするという思想でつくれば、成績や通知表の表現方法は変わってくるはずだ。
<理想の自分と現実の自分の間の誤差信号>
「誤差信号」は、通常、個々の課題において与えられる。例えば、英語の穴埋め問題や、計算問題などである。これらの「誤差」を小さくするように修正していくことが、学習において重要なプロセスであることはすでに指摘した通りである。
一方、さらに大きな視野、長い期間にわたる視点から見た「誤差信号」もある。それは、つまりは理想の自分と現在の自分の間の距離のようなものであって、この誤差信号は個々の課題に対するそれに比べると明確には定義されていないが、同じように重要である。
理想の自分のあり方は抽象的なものであるかもしれない。しかし、だからこそ、ありありと鮮明なイメージとして思い浮かべられることもある。自分が目指す自分のあり方(状況)と、現在の状況をイメージとして比較し、その間の距離を縮めるように日々努力すれば良いのである。
【参考】脳科学者が考える「To Do List」を使うべきではない理由
理想の自分のあり方は、一つの生活のスタイルとしてイメージされるかもしれない。あるいは、社会の中でのあり方としてイメージされるかもしれない。あるいは、一つの具体的な目標の達成としてイメージされるかもしれない。
いずれにせよ、自分がこうなりたい、こうありたいということをイメージして、それを現在の自分と比較し、何が違うのか、何が足りないのかを意識化して、それを少しでも縮めるように努力すれば、人は成長することができる。
この場合、誤差信号を縮めるための課題の数はきわめて大きなものになるかもしれないが、それで良い。そのようなかたちで、課題のスペクトラムを俯瞰することも、充実した人生を送る上で大切なことである。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【導入事例&インタビュー】学校向けオンラインスピーキングテスト「SEATS(R)」新規導入校(私立中高一貫校・専門学校)の活用事例とインタビューを公開
PR TIMES / 2024年7月4日 10時45分
-
「偏差値75」なんて海外では通用しない…「学校の成績がすべて」と刷り込む日本の教育の"呪縛"
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 10時15分
-
テストは暗記力を問うだけ、成績は紙で管理…インド出身の公募校長が日本の教育現場で感じた「古臭さ」
プレジデントオンライン / 2024年6月18日 7時15分
-
難関女子中に「仲良しグループ絡みのトラブル」が極端に少ないワケ。“中高一貫マニア”の人気家庭教師に聞いた
女子SPA! / 2024年6月14日 8時45分
-
AIで答案を自動採点 時間が4分の1に短縮 教員の働き方改革 ミス防ぎ指導改善や復習に活用も
沖縄タイムス+プラス / 2024年6月7日 8時18分
ランキング
-
1NYで人脈構築の小室圭さん、対照的な生活の眞子さんは「ほとんど外出せず」紀子さまが抱える“複数”の不安
週刊女性PRIME / 2024年7月4日 7時0分
-
2実刑判決で「頭が真っ白に」 法廷に両親の涙 静岡バス置き去り死
毎日新聞 / 2024年7月4日 20時58分
-
3「紅麹」サプリ問題、調査中の死亡事例81人に…先月末から5人増
読売新聞 / 2024年7月4日 20時59分
-
4新潟上越市でマンホール点検中の男性死亡 夕方になっても帰社せず捜索、マンホール内で意識不明の状態で発見
新潟日報 / 2024年7月4日 23時40分
-
5「魚民」の大量閉店は“大正解”か。運営企業「モンテローザ」の“稼ぐ力”は他社を圧倒
日刊SPA! / 2024年7月4日 8時53分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)