<県民の意思は反映されてる?>全員自民党の福井県は超個性派ぞろい
メディアゴン / 2017年2月1日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
昨年暮れ、日テレのニュースで、カジノ法案(IR推進法案)についての世論調査の結果を『国民の73%が反対』と伝えていました。
国民のほとんどがカジノ法案に反対というニュースです。この法案を選挙の時に主な政策として挙げたのはごく一部の政党だけで自民党は選挙の論点としていませんでした。
政府はこれを具体的な内容は後日の別法案に寄るプログラム(スケジュール)法案だとしてギャンブル依存症問題をはじめとする具体的な議論にまったく応じず、衆議院委員会審議をたったの6時間で採決するなど、会期末のドサクサで強引に押し切りました。国民大多数の意志は国会の意志と完全に相反し、無視されました。
ここで突然ですが福井県選出の国会議員に目を向けます。(議員名は敬称を略させていただきます)
福井県は衆議院小選挙区選出が稲田朋美、高木毅で、北信越比例が山本拓です。参議院の選挙区は滝波宏文、助田重義で、衆参国会議員5人をすべて自民党が独占しています。仮に福井県で自民党の支持率が50%あったとしても、残り50%の県民の意志は国会において無視されかねないことになります。
いささか横道ですが、福井選出の各議員、とりわけ衆議院のセンセイ方は個性豊かです。
高木毅は復興大臣の時に、ご存じ下着ドロボー逮捕疑惑を週刊誌に書かれパンツ大臣と言われた方です。このほど30年ぶりに福井県連が事件を調べ直して『逮捕は事実』と発表したのですからびっくりです。ご本人は相変わらず全否定ですが、もし事実となると高木は国務大臣として国会で大嘘答弁をくりかえしていたことになるので、これも大きな問題です。
【参考】麻生元首相「みぞうゆう」の上を行く安倍首相「でんでん」
この調査をした福井県連の会長が山本拓。高市総務大臣の夫です。このご夫妻については赤坂に新議員宿舎ができた際に夫婦でふたつの部屋を占有、一方は高市の弟夫妻に貸していたと書かれた件を思い出します。
今回のパンツ泥再調査も、30年も昔の話を、国会で騒がれている時期を過ぎて今さらのように発表したのは高木・山本間の選挙区公認争いが念頭にあってのことではないかと言われています。山本は自殺した松岡利勝・元農水大臣の事務所費問題について、「芸者の花代を事務所費で払ったと聞いた」と発言したこともあります。
トリは防衛大臣の稲田朋美。ミニスカート、網タイツ、黒縁メガネでネットでは「トモチン」と呼ばれているそうですが、自民党の中でも名うてのタカ派、核武装検討論者であります。
安倍さんに重用され防衛大臣にまで上り詰めていますが、そのたたずまいには一抹の不安を覚えます。野党の質問にうろたえては涙を浮かべ、未熟な答弁では再三安倍総理が助け船、靖国参拝にこだわった対応の悪さも指摘され、さらに沖縄でオスプレイが不時着した時のぶる下がり会見では心細げな発言の後に記者やカメラの面前で大きなため息をつくなど、「トモチン」は時として様子がおかしくなります。
自衛官の生死にかかわる命令権者としての判断を正しく下せるのかどうか、言動の不安定さとその能力を危惧する報道もあります。稲田防衛大臣は近々トランプ大統領の意を受けたマティス国防長官と重要な会談が予定されています。尖閣問題、一つの中国問題、アメリカ軍駐留経費の負担増要求など、豪腕と言われるマティス国防長官とタフな交渉をする日本代表が「トモチン」で大丈夫かと危惧する声もあるようです。
こうして見ると自民党が3つの衆議院議席を独占するほど優れたセンセイの顔ぶれかどうか。一方の参議院議員も、滝波宏文の主張は原発賛成、9条改正、自衛隊の国防軍化、核武装検討。助田重義は憲法改正、原発推進です。
このように福井県は選出された国会議員は全員が自民党で、助田以外は神道政治連盟に名を連ね、助田と高木以外はいま注目の日本会議の国会議員懇談会に属しています。自民党の中でハトよりタカのセンセイ方がそろっています。
福井県はもともと保守王国で、日本で最も原発が多い県ですから経済的影響もあり再稼働賛成の方が多いことは理解できます。だからといって議員全員が自民党では、福井は集団的自衛権、安保法制、憲法改正、原発再稼働、ついでにカジノ法案も県民の100%が賛成という意志表示になってしまいます。
制度上当然とは言え、国会では福井県民の多くの意志が正しく反映されていないとも言えそうです。福井を一例として、国民の意志と国会の意志の相違については、日本は少しおかしなことになっています。
【参考】「政策選択選挙」の争点は戦争・原発・格差拡大
国民の意志と、選挙結果あるいは国会や内閣の方向性が矛盾するのは選挙制度に問題があるのかもしれませんが、一方で選挙で国民の審判を受ける側の誠実とは言えない「戦術」がこのような事態を招いているひとつの要因なのではないでしょうか。
「報道ステーション」でコメンテーターの後藤謙次氏も何度か言及していますが、安倍総理はこれまでの選挙では集団的自衛権・安保法制も憲法改正も選挙の主たる争点としませんでした。原発再稼働推進、カジノ法案も同様です。
要は国民の多くが反対しそうなことは、たとえ重要であっても選挙の主な争点からはずしてきたのです。そうやって選挙に勝ち、数を得るや選挙で審判を受けていない重要問題を国会に持ち出し、強引に押し通してきました。こうした安倍さんによる「戦術」が国民の意志と国会の間に矛盾を生むのは当然です。
安倍総理は国会審議においても似たような「戦術」を使います。
プログラム法案であるとして具体的議論を避けたまま強行したカジノ法案と同様に、憲法改正問題でもいまなぜ憲法を改正すべきなのか理由を明言せず、自民党の憲法草案や具体的な改正条項についても語らないまま、数の力と「戦術」で憲法改正の雰囲気を醸しだし、改正手順へ突っ走ろうとしています。これは内閣が憲法という最高法規の改正に取り組む姿勢としてはいかにも不誠実です。
しかしながら一方で、まだアベノミクスに期待があるのか、なにかの魅力や可能性を感じているのか、代わりが見つからないからか、安倍政権の支持率が50%を優に超えていることも事実です。
世界では、イギリスEU離脱、トランプ大統領と、いずれも結果が出た後で『えっ!まさか!?』という声が聞こえます。EU離脱派もトランプ大統領も勝利の要因はその「戦術」にあったと言います。「戦術」次第では、本音では多くの人が望んでいなかったまさかの事態が実現してしまう時代です。
日本でも、必ずしも国民の意志とシンクロしない結果を生む選挙制度や、これを巧妙に利用する安倍さんの「戦術」に目をつぶり、結果として生じた国民の意志と国会の意志との相反を甘く見ていると、本音では多くの人が望んでいなかったまさかの事態、が実現してしまうことになります。
安倍さんはもはや大宰相と言われるべき存在なのだそうです。ならば不誠実というか姑息なテクニックによって政策を実現したのでは将来の汚点となりかねません。姑息な「戦術」によらず、誠実に国民に問い、語り、納得させることで政策を実現させるならば、本音では多くの人が望んでいなかったまさかの事態、などはけっして起こりえません。
そして、安倍さんは真の大宰相として歴史に名を残すことになるのですが。
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