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<強引な展開に辟易>NHK「ヘミングウェーの初恋」の陳腐感

メディアゴン / 2017年2月12日 7時30分

柴川淳一[著述業]

* * *

NHK-BSプレミアムで文豪アーネスト・ヘミングウェイのドキュメンタリードラマ「シリーズ恋物語 ヘミングウェーの初恋」(初回放送2007)を見た。

取材風景とスタジオの評論屋によるコメントと外タレによる陳腐なドラマが交互に写し出される。「誰がために鐘は鳴る」、「武器よさらば」、「日はまた昇る」、「老人と海」の作者にして狩猟家、カジキ鮪などの釣家であり、アメリカの黄金時代の象徴的作家の生涯とその愛を追って行くと言う構成。

だが、その強引な展開に嫌気がさしてしかたなかった。「嫌なら見ない」は視聴者の権利だが、「ああ、嫌だった」と感想を述べる権利はある。

まず、米人が「パパ・ヘミングウェイ」と強く大きなアメリカの象徴と尊敬して止まないヘミングウェイの四度の結婚歴について、これでもか、これでもかと三流ゴシップ週刊誌の如く畳み掛ける。そして、ヘミングウェイには根強い女性不信があったとする。

大抵6、7歳年上の女性に好意を持ち婚姻に至るケースが多かったと断ずる。それはヘミングウェイが19歳の頃、ヨーロッパ戦線に従軍記者として参加し、負傷入院した時、治療に当たった看護師と叶わぬ恋に落ちたけれども思いは遂げられなかった事が原因だと結論付ける。

これがエビデンス(証拠)だとばかり、近年発見されたという「ヘミングウェイの初恋の女性」なる人の日記と、ヘミングウェイ宛ての彼女からの膨大な量の手紙を示す。その内容を逐一開示していく。

【参考】<ドラマはなぜ10回〜11回なのか>日本のテレビドラマは「ガラパゴス化」している

笑止千万なのはヘミングウェイから彼女宛ての手紙はただの一通も示されなかった事だ。

彼女はヘミングウェイと別れた後、結婚したが夫がヘミングウェイからの手紙をすべて焼却処分したと言うのである。日記については完璧すぎる形で発見されたとして、かつ、その内容たるや、まるで後から捏造されたとは言わないが、それだけで完全な恋愛小説として成立する程の完成度の高さであった。

そしてこの珍妙なドキュメンタリー風番組はいよいよ最終盤で、だめ押しとばかりに関係者証言者とする人物の画像を出してくる。その人物の証言とは以下の如くだ。

 「私の母は晩年のアーネスト・ヘミングウェイの世話をしていた事がある。母がある時、知り合いの図書館司書の老女にヘミングウェイの事を話したら彼女は『アーニーによろしく』と言ったんだ。普通のアメリカ人なら、アメリカの父『パパ・ヘミングウェイ』とか、『ミスター・アーネスト・ヘミングウェイ』と呼ぶだろう。彼女こそがミスター・ヘミングウェイの初恋の女性だったんだよ。」

筆者は大変面白くこの番組を拝見した。そして、その内容にあちこちで引っ掛かりっぱなしで辟易した。世界中に何百人のヘミングウェイ研究家がいるかわからないが彼らが見たら何と言うだろか? 怒り出すんじゃなかろうか?

筆者が面白かったのはテレビ番組とは製作者の意識で白を黒とでも言える。どんな形にでも作り変える事が可能なのだと言う一点についてである。

 「誰がためにテレビはある」

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