<渡辺徹座長・文学座コント部>旗揚げ公演『おもしろいやつ』出色は助川嘉隆
メディアゴン / 2017年3月12日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
杉村春子の文学座である。
北村和夫の文学座である。荒木道子の文学座である。加藤武の文学座である。芥川比呂志がいた文学座である。加藤治子がいた文学座である。仲谷昇がいた文学座である。
小池朝雄がいた文学座である。岸田今日子がいた文学座である。岸田今日子がいた文学座である。神山繁がいた文学座である。三谷昇がいた文学座である。名古屋章がいた文学座である。山崎努がいた文学座である。北村総一朗がいた文学座である。
徳川夢声がいた文学座である。宮口精二がいた文学座である。樹木希林がいた文学座である。岸田森がいた文学座である。金子信雄がいた文学座である。大泉滉がいた文学座である。小川眞由美がいた文学座である。橋爪功がいた文学座である。
石立鉄男がいた文学座である。細川俊之がいた文学座である。加藤嘉がいた文学座である。下川辰平がいた文学座である。宇都宮雅代がいた文学座である。西岡徳馬がいた文学座である。村野武範がいた文学座である。
松田優作がいた文学座である。中村雅俊がいた文学座である。田中裕子がいた文学座である。寺島しのぶがいた文学座である。研究所では小林千登勢、寺田農、樹木希林、黒柳徹子、宮本信子、中山仁、吉田日出子、串田和美、原田大二郎、峰岸徹、市毛良枝、滝田栄、桃井かおり、阿川泰子、内藤剛志、鈴木砂羽までいて稽古していた文学座である。それに……もういいか。
でもひとつだけ。筆者が演出部の試験を受けて落ちた文学座である。
【参考】小津安二郎『東京物語』に見る「結局、人生はひとりぼっち」
その文学座が渡辺徹を座長に文学座コント部公演『おもしろいやつ』をやるという。文学座のコント。これは必見である。
何しろ筆者は自分が腹案として考えている連載ドラマの役者を探しているのである。この役者は「コントのように書かれたセリフを芸人のコントっぽくはなく芝居っぽくはなく普通に演じる技量が必要」なのである。しかも、セリフのくすぐりで笑わせるのではなく体技で笑いがとれる役者を探しているのである。
冒頭、渡辺徹の存在感はさすがとしか言いようがない。有名人だと,ただおもしろそうなだけで,本当はおもしろくなくても笑いが来てしまうという現象が起こるが、そこは渡辺、きちんと禁欲的に演じている。
ただ設定が、勇者(渡辺)がケガをして「俺をおいて先に行け」と息子(大野香織)に言うと、ホントは待って欲しいのに言葉通り行ってしまうという、コントの世界では何万回も繰り返し演られたありきたりの設定だったので、ちょっと先行きが心配になる。
だが心配はここまでだった。次から繰り出されるのは、よく練られた設定ばかりで、見事に進行して行く。とくに良いのは、役者の手と足の裁きがきちんと出来ているところだ。芸人がコントをやるとこれがおろそかになるので見ていて汚い芝居になってしまう(綺麗な芝居が出来る芸人はインパルスの板倉俊之)。
さすが、杉村春子の文学座、もういいか。稽古がチャンとできている。すばらしい。
この舞台で好きだったコントはアリストパネスとアイスキュロスとエウリピデスとソフォクレスが出てくるコント。こういうのは岸田今日子がいた文学座、もういいか。でしか出来ない。
よほど偉い人が書いたものでない限り、舞台はどれもそうだが,稽古の間にセリフや内容は変わって行く、その変わった内容が固まって、上演台本になるわけだが,コントの場合はその変わり方は激しく、ほとんど原形を留めなくなるときもあるものだ。しかも、コントは生き物だから,舞台上で生のアドリブが加わるはずである。
一体この演技はセリフは? アドリブなのかどうなのか、その辺を考えながら見るのも文学座コント部の楽しみ方であろう。
さて、この舞台で出色の出来だった役者は助川嘉隆である。舞台映えする大きな顔。人の良さそうなキャラクター。誇張しすぎないセリフ回し。体の数カ所のきちんと点の入った演技。実に好もしい。筆者はこの人といつか一緒に仕事がしたいと願っている。
さて、この文学座コント部公演は今後も続けるそうだが、注文をひとつ。たとえば「山崎春乃」のあだ名が「パン祭り」というような言葉のくすぐりは全部止めて、(だって、「パン祭り」というくすぐりを使うために「山崎春乃」という役名にするのは偶然を使いすぎるテレビドラマのようだ)だから願わくばよき設定と芝居だけで作り上げて欲しいものだ。
それにしても文学座のアトリエが使えるとは言え,10人以上出演して2500円。公演時間は1時間というのは潔くて気に入りました。そう長く見るものではないという志や良し。
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