<記憶力も読解力も疑問?>トラブルメーカー・稲田防衛相の教育勅語観
メディアゴン / 2017年3月17日 9時27分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
渦中の稲田防衛大臣のように教育勅語を高く評価される方がいます。方々は教育勅語には現代に通じるすばらしいことが書いてあると口をそろえます。すばらしいとする、その内容として挙げられるのは以下の部分であることがほとんどです。
『父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭倹己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ学ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ』(子は親に孝養をつくし、兄弟、姉妹は互いに力を合わせて助け合い、夫婦は仲むつまじく解け合い、友人は胸襟を開いて信じあい、そして自分の言動をつつしみ、すべての人々に愛の手をさしのべ、学問を怠らず、職業に専念し、知識を養い、人格をみがき、[国民道徳協会訳文])
このようなことは取り立てて言うまでもない至極当たり前のことではありませんか。世界中のどの国でも、どの時代でも、例えどこかの独裁国家であっても、ふつうの人々がつねづね心に思っていることでしょう。
日々親が子どもに言って聞かせているほどのことに、なぜ今さら戦前の教育勅語をわざわざ持ち出すのか、不思議でなりません。なにか別の意図があるのかもしれません。そう考えるのは、この文言の直後に注意しなければならない文言があるからです。
『一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ』(非常事態発生の場合は国の平和と安全に奉仕しなければなりません。[国民道徳協会訳文])
よく使われる国民道徳協会の訳文は右寄りの方々が好まれるとされる訳文で、とりわけ「国の平和と安全に奉仕」という部分は意訳が過ぎるという声が多いのですが、この部分の本文を素直に読めば、
『非常事態が発生したら、永遠に続く皇室の運命を助けるために奉仕しなさい』
という意味の文言です。要するに非常事態には臣民は皇室のために一身を捧げなさい、と言っているわけです。
【参考】ウルトラ右翼に手玉に取られた?首相夫妻、財務省、国交省、大阪府
教育勅語は大日本帝国憲法の主権者である朕(天皇)が臣民(天皇に従う人々)に向けて発した勅語ですから「皇運ヲ扶翼スヘシ」となるのは時代的に当然ですが、これは主権在民の現行日本国憲法とはまったく相容れないことはどなたにも異論はないでしょう。
ところが稲田防衛相は国会で
「(教育勅語の)精神の核自体は、道義国家を目指すというのは、目指すべきだと思う」
などと勅語精神の『核』と『道義国家』(註:教育勅語に『道義国家』という言葉はありません。国民道徳協会の訳文にのみある言葉です。また右派団体日本会議の関係者および日本会議に近い人が起草者に名を連ねる、産経新聞の「国民の憲法」要綱(2013年発表)には「独立自存の道義国家」がうたわれています。)というキーワードを繰り返しています。
稲田大臣は教育勅語の『核』は道徳的徳目にあるように語り、『道義国家』という道徳に優れた国家を目指すと言っているかのように聞こえます。しかしこれには安倍総理がお嫌いであり、お得意でもある「印象操作」のニオイがします。
通常の日本語読解力を持つ人が勅語全体を素直に読めば、この勅語により明治天皇が臣民に求めた『核』が「道徳的であること」だと理解する人はいないでしょう。明治天皇が臣民に求めた全文を貫く『核』は、天皇および皇室への忠誠、であることは明快です。
そうなると、稲田大臣が取り戻すべきと国会で発言している教育勅語の『核』は天皇および皇室への忠誠であり、そして目指すべき『道義国家』とは、天皇への忠誠を国民に求める国となります。要は大日本帝国憲法下のような国を目指していると受け取られかねない発言を稲田大臣は国会で繰り返しているのです。
【参考】<総理は辞めると啖呵?>「安倍晋三記念小学校」国有地払い下げ問題
人はどんな国家像を求めようと日本国憲法が定める思想信条の自由です。しかし憲法遵守義務のある国会議員、とりわけ国務大臣が国会という公の場で、天皇を神格化し天皇への忠誠を求めるかのような国家像を目指すと公言しているとしたら、それはいかがなものでしょうか。
稲田防衛大臣はおそらく、自分が取り戻したい国家像はそんなものではないと言うのでしょう。しかし、稲田大臣が
「(教育勅語の)精神の核自体は、道義国家を目指すというのは、目指すべきだと思う」
という限り、教育勅語の『核』が天皇への忠誠である以上、稲田大臣は『道義国家』=天皇への忠誠国家、を目指していると公言しているのと同じではないかという疑問は消えません。
1948年(昭和23年)、教育勅語は国会で排除や無効確認の決議がなされました。時の衆議院は、
「これらの詔勅の根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は、明らかに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる」
と言明しました。ならば、2017年、主権在民の日本国憲法下の国会で、稲田防衛大臣がたびたび発言してきた内容に問題はないのでしょうか。23万人の自衛隊員の命をあずかる防衛大臣が、臣民は天皇の赤子だから命を捧げ靖国の神となれと言った時代の国家像を目指しているとしたら許せますか。
稲田大臣はその記憶力に最大限の疑問符のついた方ですが、教育勅語の全文をお読みになって、それでも勅語の『核』は単純に道徳律にあると断言されるとしたら、記憶力ばかりか読解力にも最大限の疑問符が着きます。
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