<キンコン西野が収録退席>不快発言ディレクターの低すぎるレベル
メディアゴン / 2017年5月8日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
* * *
キングコング・西野亮廣氏が、大阪の情報番組でのインタビュー撮影中に、担当ディレクターから不快な質問を連発されたことで、収録を途中で退席したことが話題になっている。
西野氏が途中退席したことに対する見方は同じ芸能人の中でも様々だ。ダウンタウン・松本人志氏のように、西野氏の感覚を理解して擁護している人もいれば、大人気ないと批判な人もいる。意見にはそれぞれあり、ここではあえてその是非は論じない。
それでも今回の問題では、「大したことを言われていない(から西野は我慢すべきだ)」といった論調は小さくない。しかし、多くの人が非常に重要な「不快発言の悪質さ」のことを忘れていように思うので、本稿ではあえてそれについて書きてみたい。
まず、西野氏が不快感を覚えたというディレクターの発言として、以下のようなものが挙げられている。
「今日の服装は意識高い系ですかぁ?」
「なんで炎上させるんですか、もしかして目立ちたいんですか?」
「ていうか、返し普通ですね」
罵倒されたり、差別発言をされているわけではないので、字面だけ読めば「大したことない」ように感じる。しかし、(ちゃんとした)インタビューの場面で、初対面のインタビュアーや現場責任者から、突然言われている状況を考えてみてほしい。意図的であろうがなかろうが、非常に不愉快な発言になるはずだ。罵倒や差別、人格否定でないだけに、さらに悪質だ。
もちろん、芸能人、特にお笑い芸人である以上、多少の過激な「演出」に我慢が必要になることもあるだろう。しかし、今回は状況が異なるように思う。当該ディレクターは西野氏の相方でも、芸人でもない。しかも、際どく攻める「演出」が前提になったインタビューでもなさそうで、真剣に答えようとしている西野氏からすれば、妙な空気が流れてしまう。
そういうツマらないことに意識を取られてしまい、本来言おうと思っていた話もできなくなってしまう。その結果、全体的にツマらない、イケてないインタビューになってしまうことは想像に難くない。それこそ芸人としては致命的だ。今後の芸人生命にも関わりかねない、営業妨害ですらある。
その文言だけでは「大したことない」と感じてしまいがちで、気づいていない人は多いが、このディレクターの発言内容は、分かりきったことを質問し、どう回答しても西野氏がマイナスになるように安直に仕組まれており、極めて悪質だ。
【参考】キンコン西野「制作者の頑張りなど客には無関係」結果で語れ(http://mediagong.jp/?p=18908)
3つの質問内容をそれぞれ見てみたい。
質問1「今日の服装は意識高い系ですかぁ?」
このちょっとした「イジリ」に読めてしまう質問は非常に意図的であり、この上なく不快で悪質である。筆者が知る限り、舞台出演以外、ここ数年来、西野氏はほぼ同じ路線の服装であるはずだ。オプションで帽子かメガネが加わるぐらいで、基本的には何年も同じような服装である。ディレクターとて、それは十分に知っているはずだ。
それに対して「意識高い系ですか?」という質問は、「はい」と答えれば「西野は意識高い系です」という痛いセリフを自ら言わせるようなものだ。「いいえ」と答えれば、「じゃ、何系ですか?」といった、さして面白くもない「今日の服の説明」をさせられることになる。こういったやりとりは、恐ろしくつまらない(ダサい)ので、西野氏のような路線の芸人にとっては致命的にマイナスだ。
質問2「なんで炎上させるんですか、もしかして目立ちたいんですか?」
一番愚かな質問である。そもそも、目立ちたくない芸能人なんて存在するのだろうか? もちろん、「目立ちたくありません」と答えれば芸人として嘘になる。しかし、「はい、目立ちたいです」と答えれば、本人が意図的に炎上商法をしているような文脈になってしまい、「なんだ、西野は結局『炎上商法』か」と残念な印象づけをされてしまう。どちらに回答しても西野氏にはマイナス効果しかない。
芸人なら面白く切り返せるはずだ、といった指摘もあるが、それが発揮できるのは、こういった場面ではない。少なくとも、田代まさしなど、真剣に答えねばならない場面で「ギャグでごまかし」を図ろうとして、タレント生命を失った芸能人は少なくない。
質問3「ていうか、返し普通ですね」
当該ディレクターはいったい何を期待していたのだろうか? また、どういった回答を撮りたくてした質問なのか、台本や企画書を読んでみたくなる。「返しが普通」なのは、単にそのインタビューが「普通のインタビューだから」ではないのか。西野氏の場合、雑誌などでの堅めのインタビューを受けていることも多い。しかし、そのような時に奇をてらった『芸人返し』ばかりしていたら、どうだろうか? 逆に「不謹慎」「痛い奴」などとその人間的ダサさを批判されるはずだ。
状況に応じて対応を使い分けるという正常な判断をしているから、普通なのだろう。今回も奇をてらった回答をしたらしたで「意外とつまらないですね」とツマらないツッコミがされたであろうことも安易に想像できる。
むしろ、「普通ではない返し」が欲しければ、事前にその意図を伝え、方向性を共有した上で、普通ではない返しがくるような質問をすれば良いだけなのだ。そのディレクターが無能かどうかはここでは論じないが、どう考えても今回は有能な差配ではない。
いずれにせよ、上記3つの質問に関して言えば、意図的であれ、無意識であれ、レベルの低い強烈な不快感を感じる。その不快感とは、西野氏の芸人生命にも影響しかねない、非常に悪質なものであるように思う。
少なくともそれを回避しようとした西野氏の意識は間違っていない。もちろん、途中退席という対応には賛否両論はあるのだろうが、少なくとも「自分にとってマイナスの映像がテレビで流される」という状況の回避という意味では、芸人の危機管理、自己防衛として極めて正常な判断だ。
近年、若者のテレビ離れが加速し、大きな問題となっている。ネットによる娯楽メディアの多様化による若者の価値観と環境の変容が大きな要因である。もちろん、番組のクオリティ低下もジャンルを超えて指摘されている。
その中には、このディレクターのような作り手が制作の現場にいて、コンテンツであるタレントさんたちに現場で接してしまうことで、タレントのポテンシャルを引き下げ、番組のクオリティ低下を誘発させてしまう事例もあるのではないか。
芸人であっても、人間であり、感情もあれば目指す方向性もある。夢や希望もあるだろう。作り手の一方的な思い込みでコンテンツを壊したり、本来出せるはずのクオリティを出せないようにしてしまうことは、苦境にある現在のテレビにとっては最大のマイナスだ。
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