<森友問題を時系列で全まとめ>8億円値引きに根拠がないという根拠
メディアゴン / 2017年5月21日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
森友学園の前理事長・籠池さんが民進党のヒアリングに応じて新たな情報を提供し続けていますが、一方で西川きよし師匠そっくりの佐川理財局長と野坂昭如氏似の佐藤航空局長のお姿をお見かけすることはめっきり減りました。
国家予算100兆円を扱う財務省にとって8億円の値引き問題は、年収500万円の家庭が40円ほどの問題に煩わされているような話です。キャリア官僚が誰かを守るため必死に無理な理屈を強弁し続けた哀しい数ヶ月が終わろうとしているようです。
しかし、申し上げるまでもなく、問題に納得の行く説明はありません。とりわけ基本である8億円値引きの根拠についての説明は無茶苦茶と言っていい・・・、というよりも「根拠はない」と言うべき状況のままです。
大阪に子育て・生活情報等を発信する「よどきかく」というサイトがあります。ここが森友問題に関する詳細な経過をまとめています。助かるのは時系列の経過に沿って出典表示およびリンクが張ってあることで、容易に情報の原典に当たれます。
これを一助に、これまでの国会質疑をたどり、推測や個人的見解を除いて、国が言ったこと、国が認めたことをもとに「8億円算定には根拠がないという根拠」をあらためて提示しておきます。
【参考】野党・民進党には森友事案解明の意思があるのか(http://mediagong.jp/?p=22380)
国会で国が繰り返し言っていますが、2度の調査により当該用地地表下3m位までに土壌汚染やゴミ(埋設物)があることは分かっていました。
1回目(2010年1月)の調査はレーザー調査や68カ所の掘削をし、地表下3mぐらいまでにゴミがあることを報告しています。(地下構造物状況調査業務報告書)
2回目(2014年12月)は小学校を設計・建設するための資料として敷地内2カ所をボーリングして地層の状態を調査したものです。地表下3mぐらいまでの盛土層には塩ビ片、木片、ビニル片などがあるが、それより下は1万年以上昔からの沖積層、洪積層で当然ながら埋設物などの報告はありません。((仮称)M学園小学校新築工事地盤調査報告書)
小学校建設にあたり国は1回目の調査をもとに地表下3mまでの「浅い部分」について2015年後半に土壌改良と埋設物撤去工事を実施しました。工事は森友学園側が行い、費用は国が有益費として支払いました。籠池氏が立て替え払いしたこの費用を早く弁済して欲しいと鴻池事務所や昭恵夫人側に働きかけた1億3176万円がこれです。
この工事を終え、土地の貸し主である国にとって小学校建設に瑕疵のない土壌になりましたので、2015年12月から学校の建設工事が始まりました。ところが翌2016年3月11日に、森友側から杭打ち工事の過程で「深い部分」から「新たなゴミ(埋設物)」が出てきたと国へ報告があります。3月14日、近畿財務局と大阪航空局は現地を視察し、「新たなゴミ」の撤去費用を大阪航空局が見積もることになります。
見積もりは、建物の建つ部分と運動場の一部が対象で、全敷地の60%とされました。なぜ60%なのか、根拠は不明です。
対象となる深さですが、建物区域のうち杭がうたれる部分が地表下9.9mまで、そのほかの部分を地表下3.8mまでとして体積を計算し、これにゴミ(埋設物)混入率47.1%を乗じた数字が基本です。これに常識的な工事単価および管理費や瑕疵担保責任免責のための金額が合算され総額8億1900万円となった、というのが国の説明です。さてそれらの数字は合理的な根拠に基づいているのでしょうか。
まずは重要なゴミ(埋設物)の混入率です。
47.1%としたのは2010年の1回目の調査で、試掘した68カ所中28カ所に廃材等が確認され、その混入率の平均値が47.1%だったからと説明されています。残り40カ所のゴミ混入率も47.1%で計算され、一部を持って全体とされています。よって47.1%という一見厳密そうな数字に根拠はありません。国たる大阪航空局の「判断」による数字です。
次に地表下3.8mまでの対象区域はどうでしょう。
2015年の有益費による「浅い部分」の埋設物撤去工事を地表下3mまでとしたのは事前にレーザー調査をした結果、3mより深い部分にはほとんど埋設物がなかったからです。では8億円値引きの見積もりで「浅い部分」の深さをなぜ3mでもなく4mでもなく3.8mと設定したのかの根拠は示されていません。これも根拠のある数字ではなく、国たる大阪航空局の「判断」による数字です。
地表下3mまでの「浅い部分」についてです。
ここはすでに土壌汚染処理と埋設物除去の工事を終え、費用は国が有益費として支払っている部分です。ならば新たな8億円の見積もりでこの処理済み部分まで含めて積算されているのは二重計上で不合理です。
ところが国は、3mまでの「浅い部分」は小学校建設に支障のあるコンクリートガラやマンホールなどを撤去したもので、廃材や生活ゴミなどの小学校建設にあたり瑕疵担保責任を問われないゴミは撤去していない、よって二重計上にはあたらないと説明しています。
47.1%のゴミが混ざった地下3mまでの土を掘り出し、土は汚染されているので浄化処理し、コンクリートガラ等は場外処分しました。しかしそれ以外の多くのゴミは野積みでもしないかぎり、処分せずに浄化した土とともに埋め戻したことになります。8億円見積もりではその結果のゴミ混入率を処理前と同じ47.1%として積算しています。それでは国費1億3千万円をかけたのに、校庭の表土から地下3mまでは今もってゴミ混入率47.1%のゴミ捨て場のような状態という説明になってしまいます。
地下3mまでの「浅い部分」のゴミ混入率が47.1%という数字には根拠がありません。これも国たる大阪航空局の「判断」による数字です。
地表から9.9mまでの「深い部分」はどうでしょう。
この5月16日に籠池氏は民進党のヒアリングで「新しいゴミ」発覚後のボーリング調査で「深い部分」にゴミがなかったことを示すというメールを公開しました。しかし、それ以前から国は「深い部分」にはゴミがないというデータを持っていました。
【参考】籠池喚問で安倍首相「森友辞任」へ事態が急加速(http://mediagong.jp/?p=22330)
前述した2度の国の調査では、ゴミがあるのは地下3mほどの盛土層までで、その下にある沖積層、洪積層は1万年以上前の地層であり当然ながらゴミなどの人工的な埋設物は報告されていません。
しかし2015年3月11日、国は森友学園から9.9mの杭打ちのための掘削工事の過程で大量の廃材等が出てきたこと、また掘削機器の先端に絡みつくようなゴミがあったことを報告されます。「深い部分」から「新たなゴミ」の出現です。国は現地で工事関係者から話を聞き、ゴミ混じりの土の現物や写真などを総合的に考慮し、地表下9.9mまで廃材等のゴミが存在していると「判断」します。
ただし、国職員が現認したゴミが9.9m下にあったものなのか、それより浅いところにあったのかを断定できないことは西川きよし師匠似の理財局長がしぶしぶ認めています。
また、国会で石井国交大臣が基礎杭の工法について説明し、野坂昭如さん似の航空局長さんも追認しているのですが、森友の工事では杭用の穴を掘りそこへ杭を打つのではなく、先端がプロペラ状のものを地中深くさして土を攪拌し、そこへコンクリートを流し込んで土と混ぜ固めて杭とする工法ですから、地中深くのゴミが地表に出てくることはないと国会で議論されています。
このように「深い部分」の「新たなゴミ」の存在は証明されていないのですが、国は、この区域が池や沼だった頃に相当量の廃棄物が蓄積されたと「推察」し、総合的に地下9.9mの深さまで廃材等のゴミが存在していると「判断」しています。
この「推察」は誰かが大金をかけて沖積層以下まで巨大な穴を掘りゴミを投棄したということになるのですが、そんなコストをかけずとも他の場所に捨てればいい話です。
籠池氏のメール話を聞くまでもなく、「深い部分」のデータは2度の調査結果に基づいておらず、9.9mの杭の部分全体に47.1%のゴミがあるという数字に根拠はありません。国自らが「推察」と「判断」と言っているとおりです。
最後に瑕疵担保責任免責のための積算です。
1億3千万円を有益費として支払った地表下3mまでの「浅い部分」の工事では、廃材や生活ゴミなどの埋設物は小学校建設に支障がないので瑕疵担保責任を問われないとして地中に放置しました。
ところが一転して8億円の値引きでは同じ3mまでの埋設物を瑕疵担保責任免責のための積算に含めています。地表下3mまでの放置埋設物については瑕疵担保責任が問われないとし、だからその土壌の上で小学校建設工事が進められていたのですから、国の主張どおりなら地表下3mまでは瑕疵担保責任の対象外で、対象となるのは「深い部分」の「新たなゴミ」だけのはずです。金額はおろか、その対象範囲さえ根拠不明です。
以上が8億円の値引き見積りの根拠となる数値について、マスコミ報道やネットなどでの様々な見解を排除して、国会で明らかになった事実について書いてみたものです。
8億円を算出するための基礎数字のいずれにも根拠はありません。それでも国は8億円値引きを、「適法かつ瑕疵のない手続きであり、問題ないものと承知してございます」などという妙な日本語を連発して凌いでいます。
財務省にしても国交省にしても、値引き額の合理的な根拠などどうでも良く、手続きに不法性や瑕疵がない範囲で、森友側が納得し、誰とは言いませんがとても力のありそうな支援者やそのご家族が喜ぶような結果を出すために知恵を絞り、汗をかいたのでしょう。
数字はそのための「判断」の産物です。国民が納得できようもありませんが、国会で何を言われようが面の皮厚く西川きよしさん似と野坂昭如さん似が頑張れば、いまの野党フリテン状態なら安倍内閣の望みは何でも通ります。
お二方、もう少しで逃げ切れそうですよ。しかし、いつか、何かが明らかになったら、ご自分のキャリアが吹っ飛ぶかもしれません。お役人はつらいですね。
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