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<映画『ケアニン』監督インタビュー>介護士と認知症の老人とその家族の心の交流を描く

メディアゴン / 2017年5月29日 7時40分

6月17日(土)から、全国で順次公開になる話題の映画『ケアニン(鈴木浩介監督)』を一足先に観た。涙滂沱である。温かい気持ちにもなった。

ひとりの新人介護士の成長と認知症の老婦人のもどかしき心の交流を描くこの映画を鈴木浩介監督はどのような思いで制作したのか。メディアゴン編集部が伺った。

* * *

[メディアゴン編集部(以下、編集部)]介護士と、介護施設に入居する認知症の老人、託す家族の心の交流を描くこの映画『ケアニン』を、制作しようと思った一番の動機はなんですか。

[鈴木浩介監督(以下、鈴木監督)]プロデューサーの山国さんとの出会いが全てだと思います。まさに運命ですかね。年を重ね、両親への感謝の気持ちが改めて感じれる歳になった頃にこの企画と出会え、本当に感謝しています。

僕自身、テレビ業界に入って35年になるのですが、そのきっかけを作ってくれたのが両親でした。幼少期からテレビを見るのが大好きだった僕を咎めることなく見させてくれました。おかげで大人が見るようなドラマやバラエティ番組に、母が好きだった洋画の吹き替え版もたくさん見ました。

そして小学校5年生の時、NHK放送センターの見学で、歌番組の収録を見た時の衝撃は今でも忘れません。数台のカメラが歌手を撮影し、その画像がテレビモニターに映し出され、カットがチェンジしていく様は感動そのものでした。

その思いが心に沁みたおかげで、卒業文集に将来はテレビディレクターになりたいと書いたほどでした。ですが、高校卒業の頃、担任にテレビ局に努めたいと言ったら、何バカなこと言ってんだと一蹴され、しょうがなく就職しました。確かにテレビ局に入るのはそれなりの学歴が必要だったのは言うまでもなく、当時の僕は工業高校機械科でしたので、全くご縁がない世界だったのです。

そして就職した僕は、テレビ業界への夢も薄れ始めた頃、住んでいる町に映画の撮影隊が突如現れ、そこら中で撮影したのです。僕は有休が貯まっていたので、ちょこちょこ照明の後ろで現場を見ていました。

そこで顔見知りになった制作さんから名刺をいただきました。「君好きだねー、よかったらスタジオ遊びにおいで。」心弾む思いで帰宅し、父に名刺を見せたところ、「お前は、テレビが好きだろ。」と言い、新聞広告にあった専門学校の募集記事を見せてくれました。

とそこには、「放送制作芸術科」と書かれており、「お前がここに来年から行けば、2年で卒業だろ。同い年の大学生と同じタイミングで社会に出るんだから、引け目も感じずいけるんじゃないか」

【参考】NHK大型企画「発達障害プロジェクト」は当事者が待ち望んだ番組だ(http://mediagong.jp/?p=22978)

実はそこそこ安定した就職先だったのですが、何日も見学しているうちに、あの頃抱いた「夢」への気持ちが沸々と音を立て始めていました。結果、専門学校に進み、なんとかテレビ業界に潜り込め、あっという間の35年を迎えることができました。

あの時父が後押ししてくれなかったら、今の僕は業界にはいなかったでしょう。月日は流れ、父が14年前に他界し、母も8年前に。二人とも僕が作った番組や映画をたくさん見てくれました。時には辛口批評も。

母は晩年、病を患い介護を受けなければ生活もままならない状態でした。その時、デイサービスで撮った一枚の写真が、とてつもなく嬉しそうな笑顔でした。こんな笑顔をここ数年見ていなかった。家族以外にここまで心を開いている表情を見せる母。本当に素敵な時間を過ごせたんだろうなーと思いました。

僕自身も50歳を超え、人生の終わり方向を意識し始めていた矢先、今回の「ケアニン」のお話をいただきました。小規模多機能施設で働く新人介護士の奮闘記。そしてモデルとなった藤沢の「あおいけあ」に見学をさせてもらった時に、利用者さんの笑顔が素晴らしかったんです。母の笑顔の写真。こう言う空気感だったんです。僕はこの空気感を何としても日本国中の方にも見てもらいたい。感じてもらいたいと強く思い、この映画の監督をさせていただきました。

そして映画のラスト。素敵な笑顔の写真がちりばめられています。是非ご堪能ください。

[編集部]新人介護士を演ずる戸塚純貴くんのまっすぐさ。認知症の老婦人を演じる水野久美さんの清明な演技に、大変、こころ打たれました。おふたりと監督は演技プランについてどんなお話をなされたのですか。

[鈴木監督]介護監修の方が細かくご指導してくれたので、所作とかはお任せしましたが、個の芝居に関しては、特別何をしてほしいということはお話ししなかったです。脚本がすばらしかったので、役者の皆さんがしっかり読み込んでくれさえすれば、ブレずに行けると思い、日々寄り添うことしかしませんでした。

[編集部]ストーリーを進めるに当たってオレンジ(みかん)が重要な小道具になっています。これには何か監督の思いがあるのですか。

[鈴木監督]母方の祖母が亡くなる前に、かなり危篤状態だったのですが、もしかしたら匂いとか音は感じてくれるかもと思い、九州から桜を手配し、疎開先で流行していた盆踊りの音頭の音源を取り寄せたのですが、どちらも間に合わず、桜は棺の中に入れ、音頭を流して出棺したことがあります。
もしかしたら、脚本作りでこんな話もしたかもしれません。

[編集部]『ケアニン』の中で、監督が一番お気に入りのセリフとお気に入りのシーンを教えて下さい。

[鈴木監督]圭子先生がピアノを弾くシーンです。撮影場所の近所の子供たちの協力もすごく嬉しかったです。どのセリフというよりは、セリフを言う時の出演者の笑顔がとても好きですね。

[編集部]最後のシーンで新人介護士が、担当の認知症の老婦人が書いた「おおもりけいさん、しんせつ」のメモを手にするところで、編集子は、涙が止まらなくなりました。このシーンのあとに老婦人を預けた息子と、施設園長のセリフがさらにつづきますが、その意図を教えて下さい。

[鈴木監督]昨今、若い人たちは、上司や先輩方との関わりを嫌い、同世代のコミュニティーを作りたがりますが、やはり寄り添ってくれる大人の存在が必要だと思っています。誰かが背中を少し押してあげることで、一歩前に進む力をもらえると信じ、社長の言葉や息子さんの感謝の言葉は、圭にとってとても尊い言葉だと思っています。

[編集部]鈴木監督はテレビドラマも撮っていらっしゃいます。テレビと映画の違いを端的に言うと、なんでしょうか。

[鈴木監督]僕は区別していません。企画を考えたプロデューサーの想いを感じ、ベストを尽くすだけです。なので、監督色を出すというよりは、企画の本質を吟味し、カット割りや演出方法も変えるようにしています。

[編集部]最後に、この映画『ケアニン』に興味を持って下さった皆さんに、監督から一言お願いします。

[鈴木監督]人生80年でどんな生き方をするのかは人それぞれです。ですが、どなたも誰かと出会い、誰かを助け、誰かに助けられ、誰かと共に生きているはずです。その中で、人が人を支える気持ちがあれば、優しい気持ちさえあれば、素敵なことが連鎖すると信じています。僕自身も素敵な方たちと出会うことができて本当に感謝しています。

この物語は特別なものではありません。人と人のつながりの一片を描きました。観終わった時に、大切な誰かのことを思っていただければなによりです。

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