「エンタの神様」特番はレギュラー時代よりも進歩したか?
メディアゴン / 2017年10月3日 7時40分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
筆者はレギュラーで放送されていた頃の「エンタの神様」(2003-2010、日本テレビ)という番組が好きではなかった。理由は芸人への愛がないと感じたからである。
スタジオ客入れの公開で披露されるネタはすべて素材扱いで、無残に切り刻まれる。芸人が工夫したフリも何もあったものではない。笑いが来たところだけをまるで瞬間芸のように摘まんで、ただただ繋ぐ。
最終的な編集権を持っている人はテレビや視聴率は好きなのかも知れないが、笑いは特に好きな人ではないだろうという気がしていた。この番組はただ芸人を消費する番組だ、そう思ったのである。
2017年9月30日に放送された「エンタの神様」の特番を見る気になったのは、その編集方針が、そのままなのか、それとも変わったのかを確かめるためでもあった。
結論から言ってしまえば、編集方針は変わっていた。芸人任せにせず、稽古をして、スタッフ側の知恵が入っていることが分かった。一組ごとの芸人のネタ尺は長尺になり、フリもきちんと入っている。
ところが、別の問題点も見えてしまったのは残念だ。フリをきちんと見せる編集になったせいで、芸人が不必要な説明ゼリフのフリを多用していることまでバレてしまったからだ。こういうフリは短く2行目のセリフは既に笑いがとれるようになっていることが必要だ。
【参考】「ENGEIグランドスラム」の古臭い設定と下手すぎる芝居
筆者はコントの放送作家であるから、以下、特にコントについて書いてみたい。
コントは設定とセリフと演技と時に音楽を用いた短い芝居である。もちろんこの範疇を超えたものがあっても良いのだが、今まで筆者はこれを超えたものは見たことがない。中で、最も大切なのは設定である。設定があればセリフは自然に付いてくる。芝居は稽古をしなければ出来ないが、これも設定の付属品だ。
【ジャングルポケット】交番に女が「痴漢しそうなタイプの顔をして立っている男がいた。逮捕して下さい」と、男を引きずって、やってくる。設定は新しいし良い。でもこの不条理な設定で乗り切っていこうとする工夫がない。小ギャグで誤魔化さなければ良いコントになったのに。
【我が家】フリが長すぎる。容疑者を若い刑事が取り調べているところに上役の刑事が来て「詐欺まがいのことをして、金品を貢がせている男はどこだ」という、長い説明セリフを言う。冒頭で容疑者を若い刑事が取り調べているのだから、これは説明セリフにならないように、ここで処理できる。
【ロッチ】ブティックでよく店員に間違えられる客という設定。なぜ間違えられるのか、間違えられなくしなさい。ということでストーリーで乗り切るべきだ。
【陣内智則】これはコントではないが、この人は説明セリフをずっと言い続けるのでイライラしてしまう。
【パンサー】しゃべくりをコントのような物にしているだけだ。
【アンジャッシュ】手練れなのに「人を殺してしまった」と勘違いしている2人の男をエキストラを入れてやる。彼らならエキストラなしで2人だけで出来るはずだ。
【東京03】コントの定型を守っているがそれだけだ。
【インパルス】筆者はずっと注目しており、ライブも時に見にいく。板倉俊之の書くコントは知性があって好きだ。今回は引きこもり当事者の役。堤下敦はキャスターで、彼のやっている報道番組に出た板倉は曇りガラスの向こうにいる。設定は「ひきこもりだって目立ちたいんだ」というものだが、この設定を守り切れない。それは堤下が喋りすぎるからだ。地のセリフを言い過ぎるからだ。堤下は役のセリフを言うだけに留めればいいコントになるのに。もう板倉俊之は39歳、堤下敦は40歳になった。
最後に全体について。ナレーションで進行するなら、福澤朗、白石美帆の司会は必要ない。これは多くの人が思っているだろう。
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