<開票特番はテレビの腕の見せ所>予測不能ドタバタ衆院選の開票特番を見逃すな
メディアゴン / 2017年10月14日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
開票特番はテレビ屋さんたちの腕の見せ所です。ネット系列ごとの総力戦ですが、今回のようなドタバタ選挙の前例はありませんからとても大変そう。開票特番も「波乱の予感」です。
各局は投票日の8時ジャストに各党の獲得議席予測を発表します。2014年の衆議院選では自民党をNHK275〜306、日テレ294、TBS294、テレ朝298、フジ295、テレ東303と打ちました。最終結果は291でしたから民放各局の誤差は3~12、正解したのはニコニコ動画だけという意外な結果でした。
どれほどの意味があるのかはともかく、8時ジャストに正確な最終議席を予測することと、正確な「当確」を他局より早く打つ当確競争はテレビ局の本能であり、プライドのようなものかもしれません。
衆議院議員の任期は4年ですが実際は平均3年足らずと言われますし、政治の世界は何があってもおかしくないので、各テレビ局は常時選挙担当をおいて備えています。選挙担当者は日頃から議員、候補者、選挙区情勢などを取材し、系列局の担当者や学者などとともに地道な情報収集と分析をしています。
いよいよ選挙が近づくと、様々なデータを基に最終的に各候補者、各党の獲得票を予測し、当確ラインなどを設定します。こうした不断に積み上げたデータに最終的な風向きなどを考慮し、出口調査の数字と照らして「当確」を出します。
当確はあくまで各局が独自の責任で判断した結果です。もし当確ミスがあれば、誤報として放送法の問題になりかねませんし、ミスの責任者は懲戒処分を受けるといわれていますからことは重大です。開局したばかりのローカル局が初めての選挙を迎え、経験もノウハウもないのにどうやって「当確」を打つか困り果てたことがありました。
もし間違って「当確」を打ったら大変です。会議を重ね、堂々巡りの議論の結論は、NHKが当確を打ったら打つ、だったという嘘のようなホントの話があります。
【参考】<選挙時だけの街宣に疑問>いまこそ政治家は「大右翼・赤尾敏」に学べ
しかし、今回の選挙はどのテレビ各局にとってもこれまでの経験値が当てにならない選挙になりそうです。18才以上に選挙権が与えられる初めての選挙であり、この投票動向は初体験の要素です。しかし、それ以上に公示直前に野党第一党が壊れて新たに二つの政党が生まれるなどという事態は前代未聞で、マスコミにとってもまったく不測の事態です。
各局はこれまでなら候補者の基礎データ、政治歴、人物像、背景、支援団体、そのほかの取材をほぼ終えているはずですが、今回は直前になって新たに大量の候補者データの収集が必要となり、どの局もバタバタと慌てているはずです。
そして多くの選挙区で票読みが不可能な状況なのかもしれません。とりわけ希望の党の候補者の中には小池都知事という背後霊がなければ泡沫候補のような存在の方もいます。ところが希望の党に思ったほどの風は吹かずその背後霊の威力が不安定になっています。
小池ウインドの勢いは都議会選挙の時とは明らかに違います。しかし、いまだに小池さんの繰り出すキャッチフレーズを信じる方もいるので、小池ウインドがどれほどの票に結びつくのか判断はかなり微妙です。
そしておそらく各局の選挙担当者を悩ますに違いないのは、3極対決という構図です。希望の党が自民党の保守票を喰うのか、野党票を喰うのか、この塩梅がどうにも読めないと政治のプロが口をそろえています。
当初、各党から攻撃を受けるのは安倍自民党のはずでした。ところがテレビ討論会などでは各党から矛盾を突かれて防戦に追われるのが希望の党という珍現象が生まれています。あるテレビ討論で、希望の党には役職者が小池代表一人だけという党内民主主義について他党から指摘されると、「そんなことは小池さんに聞いてくれ」と言い放つ方までいる有様です。
このように、希望の党が明らかに逆風になりつつある状況では、この先勝負師・小池百合子さんが何を仕掛けてくるのか油断がなりません。座して死を待つはずもなく、小池さんの起死回生の一手は、各局にとってもっとも危険な不確定要素です。
さらに北朝鮮情勢があります。何かあれば、有権者の心理に大きな影響をもたらし、投票行動に影響します。
【参考】<どれも同じ?>都知事選「選挙公報」のキャッチコピーだけ投票先を選べるか
各テレビ局の選挙担当者にとって、今回はこれまでの選挙とあまりに違いすぎて、相当困ったことになっているのではないでしょうか。各局がどう乗り切るか、乗り切り損ねるのか、今回の開票特番は見ものです。
開票特番は超のつくほど膨大なスタッフによる膨大な作業の集積です。報道局はもとより他のセクション、多くの制作会社スタッフ、技術セクション、外部技術会社などが総動員されます。局ばかりか制作会社や技術会社スタッフの中で何度も開票特番を経験し、職人的な技術と独特のノウハウを身につけた者を核に、1秒1秒変わって行く膨大な情報を瞬時的確に取捨選択し、ディレクターとスイッチャー(ディレクターと協力しカメラの選択をはじめ、画面づくりの具体的な操作をする技術者)により画と音に集約されて電波に乗せて行きます。
筆者は生番組のディレクターとして相当の修羅場をくぐってきた経験がありますが、開票特番のサブ(副調整室)をのぞいた時、ディレクターとスイッチャーを中心とした全スタッフの見事な捌きに、「これぞプロ」と感動したことがあります。
彼らが生で処理し続ける情報量はもの凄いものです。今回もおそらく22日夜8時から、怒鳴りあいのごとき喧噪の中でディレクターとスイッチャーは神のような技を繰り出し続けるに違いありません。この光景をみなさんに生中継でご覧いただきたいくらいです。
ここのところ開票特番の視聴率競争では池上彰氏が仕切るテレビ東京が連勝です。これを他局がどう巻き返すかも注目ですが、長年選挙報道の経験を重ね、ノウハウや技術を精緻にくみ上げてきた各テレビ局であっても、今回は少なからぬ不規則場面やハプニングが起きかねない予兆も感じられます。
序盤情勢は自公が300議席も越える予測で安倍さんの高笑いが聞こえるようですが、なにせこれまでとは様相の違う選挙です。投票結果そのものも、各局の開票特番にも何が起こるかわかりません。波乱含みでスリリングな開票特番を見逃す手はありません。
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