テレビがオーディション番組を放送するのは誰のため?
メディアゴン / 2017年12月8日 7時30分
メディアゴン編集部
* * *
様々な異論もあるだろうが、テレビ局がテレビ番組をつくる目的とは、究極的には以下の2つに大別される。
(1)視聴者に興味関心のある番組をつくり、その興味関心を満足させるため。
(2)視聴率を最大化してテレビ局の利潤をあげるため。
後者のみであると主張する人々はネット界隈に多いが、それだけではないことを痛いほど知っている関係者も多い。前者によって番組をつくろうとしているテレビマンたちは今でも少なくないと信じたい。
しかしながら、前者と後者の目的が共にかなえられればこんな幸福なことはないが、時としてこれは相反する。なぜなら、テレビ局という会社には2種類の顧客がいるからである。すなわち、視聴者とスポンサーである。視聴者とスポンサーの利害が相反する時があることは容易に想像できるであろう。
ここまでの前提を理解して頂いた上で、テレビ局がオーディション番組を放送するのはなぜだろうか考えてみる。
今テレビで花盛りなのは、笑いに関するオーディション番組である。『M-1グランプリ』(テレビ朝日系・主催は吉本興業)、『キングオブコント』(TBS系・主催はキングオブコント事務局と同テレビ)、『R-1ぐらんぷり』(関西テレビ系・主催は吉本興業)などが著名である。キングオブコント事務局の構成は詳しく知らないが2017年の場合、決勝進出者は10組の内、4組が吉本興業である。
こうしてみると、この3番組はすべて吉本興業の影響下にあることが分かる。つまり、上記3番組は吉本興業の所属者からスターを作ることに大きな貢献をしていると言うことが出来る。もちろんコンテストだから吉本以外の人がチャンピオンになることはある。審査の公平性は担保されていると信じたい。
【参考】テレビ界から消えた「キラキラ光る」才能を持った作り手たち
吉本興業はかつて現在の東京証券取引所の一部上場であったが、その後TOBで上場廃止され、主要株主は在京・在阪の民放キー局、京楽産業.電通、博報堂、ヤフー、松竹、KDDI 、KADOKAWA、タカラトミーなどである。
『M-1グランプリ』に関しては企画の提案者である島田紳助の「漫才界を興隆させる」という高邁な思想を本人から聞いたが、今でもそうなっているだろうか。
番組は漫才の新しいスターを輩出はするが、それによって優勝者「とろサーモン」を核にした新番組をつくる気配はない。テレビ局にとって必要なのは漫才が出来る人ではなく、フリートークが出来てひな壇に座れる人や、奇異なキャラクターを瞬間的に消費できる人である。『キングオブコント』でも優勝者「かまいたち」より「にゃんこスター」のほうが使い出がある。『R-1ぐらんぷり』ではアキラ100%である。
和牛、かまいたち、ミキといった人たちを集めて笑いの新バラエティを作ってテレビ界の財産にしようとしよう動きは見えてこない。ただ消費するのみである。芸人にとっては厳しい現状である。
【参考】<板尾創路不倫騒動>「ラブホで映画を見ただけ」はありうるか?
テレビがオーディション番組を放送する意義をもう一度考える。
かつて明確な意図を持ってつくられたオーディション番組があった。日本テレビの視聴者参加型歌手オーディション番組『スター誕生!』(1971年10月〜1983年9月)である。
当時、日本テレビのキャスティングはすべて渡辺プロダクションに牛耳られていた。その異常な状態に反旗を翻したのが井原高忠プロデユーサーである。井原は渡辺プロダクションとの、ねじれた関係を根絶やしにしようとした。
それに対して当時の渡辺プロダクションは「所属タレントを一切日本テレビには出さない」と井原に通告した。ならば、スターは自分たちでつくれば良いとして始めたのが『スター誕生!』だったのである。
森昌子、桜田淳子、山口百恵、伊藤咲子、片平なぎさ、岩崎宏美、新沼謙治、ピンク・レディー、石野真子、柏原芳恵、小泉今日子、中森明菜、松本明子 、岡田有希子、本田美奈子、徳永英明、日野美歌ら時代を彩った数々のスターを排出した。
この番組でデビューしたタレントの活躍は、芸能界の地図を塗り替えた。「ナベプロ王国」と称されテレビを牛耳った渡辺プロダクションはその絶対的な地位を失ったが、その後ホリプロ、サンミュージック、田辺エージェンシーなどが力をつけ、それら新興プロダクションへのタレント供給源となった。
井原の反旗はすばらしいが、結局、他のプロダクションがテレビのキャスティングを牛耳るようになってしまったのはテレビマン井原にとって本意ではなかったはずだ。
そして惜しむらくは、今、テレビ界には井原高忠のような人はいないということだ。
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