NHK「ノーナレ」が証明するテレビのナレーション過剰
メディアゴン / 2018年1月24日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
テレビ番組「ノーナレ」が証明したのは「ドキュメンタリにナレーションは必要がない」ということである。
2018年1月8日にNHK総合で放送された「ノーナレ」を見た。気になっていた番組だかこれまで見たことがなかった。
この日に取り上げた取材対象は「北陸の寿司おとこ」。寿司屋を営む夫婦2人を丹念に取材した30分である。全く飽きずに、全く情報不足を感じることなく、見終えることができた。何よりも寿司のおいしさを煽るナレーションがないのが心地よい。
字幕スーパーも説明のためには一切用いていない。ただ、効果音楽は付いている。この効果音楽に関する筆者の考えは後述する。
さて、この番組「ノーナレ」が証明したことを、もう少し詳しく説明しておくと「取材さえ行き届いていれば、ドキュメンタリにナレーションは必要がない」ということだ。逆に言えば、取材が行き届いていない作品にはナレーションが必要だと言うことでもある。
ナレーションが付いてしまうと害となる事例をいくつか挙げてみる。
*見る者の自由な考えををナレーションが限定してしまう。
*稚拙なナレーションが氾濫しているので興味を削ぐ。
*説明ばかりになる。
*ナレーションで処理すればいいという安易な考えが生まれて取材がおろそかになる。
*取材対象者が、たとえば「楽しい」と考えていないのに、ナレーションで「その日、彼らは楽しかった」と書いて嘘を伝えることが出来る。
*ドキュメンタリは対象の内面を伝えるものであるべきなのに説明的な物になってしまう。
NHKエデュケーショナルのディレクター佐々木健一氏も「『画をそのまま、なぞっただけの語り』や『出演者の感情まで、まるで当事者のように読み上げるナレーション』は珍しくない」と述べている。こういった風潮に反旗を翻したのが「ノーナレ」なのである。
【参考】テレビ東京「池の水ぜんぶ抜く」不定期放送でもネタ切れ?
「ナレーションがないと画(え)が持たない。視聴率が取れない」と主張する人がいるが、それは持たないのではなく持たせる工夫をして画(え)を撮っていない自分の無能を表明しているだけだ。
「ナレーションが無いと、情報量が少なすぎる」と主張をする人もいる。だが、
<以下、佐々木氏の意見引用>それと同時に、観客が受け取る情報は「ナレーションで読まれた文章(に付随する映像)」に限定されてしまう恐れがあるのだ。だから、ナレーションという手法は、下手なやり方だとかえって(観客が受け取る)情報量を減らし、作品の質の低下を招くのである。<以上、引用>(日経トレンディ「佐々木健一『TVクリエイターのミカタ!』2017年9月25日)
さらに文字情報や音声情報より映像情報のほうがデータ量が多いのは日常データをネット上でやりとりしている人なら、感覚的にも直ぐ理解できるだろう、インスタグラムのほうが情報は多いのだ。
<以下、佐々木氏の意見引用>語られる言葉だけでなく、皺(しわ)の入った表情やその人物を物語る背景など、音声以外の豊富な情報も重要な要素だ。<以上、引用>(同上)
そのとおりである。よくインタビュー映像に他のインサート画像を入れてインタビュー中の顔を潰してしまう編集をする人がいるが原則的にこれはいけない。
インタビューが長いからインサートを入れたという主張も単なる言い訳だ、インタビューを短く編集する技術を持っていないだけだ。話している顔の中にこそ、表情にこそ情報があるのだ。
筆者はもちろん、ナレーションの有用性も分かっている。昔、筆者は「世界まるごとHOWマッチ」(TBS)という番組で、海外取材VTRに付ける小倉智昭のナレーションを書いていたが、小倉の滑舌は明晰で3分のVTRに3000字が入る。これを活かすのが番組の売りだった。
明確な企画意図の元にナレーションを付けているのは他の番組でもある。たとえば「朝ズバッ!」(TBS)では、映像上に写っているすべてのことをナレーションにした。「映像を見てわかることでも、ナレーションで読んだ」のである。それはこの時間帯はテレビをラジオのように聞いている人も多いからだ。ちゃんとテレビに向かって番組を見ている人は、きっとうるさかっただろう。
自分のつくったドキュメンタリにナレーションを付けようと思った人は、ナレーションを削ることから考えた方が良いと思う。
さて、後述すると言った効果音楽のことである。実は言葉よりも音楽のほうが見ている人の感情をミスリードする。緊迫音も、衝撃音も、悲しい音楽も見る者の心を無駄に波立たせるのである。
筆者の見た「ノーナレ」では効果音楽を使っていたが、出来ればこれもやめて欲しいものである。
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