<年末年始のテレビが酷い>それでも今年は桂歌丸とナイツに注目
メディアゴン / 2018年1月14日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
年末年始だっていうのにテレビは再放送が増えました。一方でおなじみの定番番組も内容が軒並みパワーダウン。年末年始らしい大型ドラマもなく、特筆すべきノンフィクションもありませんでした。目立つような新企画もなく、紅白歌合戦の衰えが象徴するようにテレビメディア全体の老いが透けて視えた気がする新年でした。
例年ウンザリするほどあったお笑いのネタ番組も今年は少し減ったようです。筆者は以前から勝手に、中川家、博多華丸・大吉、サンドウイッチマン、ナイツを現代の漫才四天王と決めているのですが中川家、博多華丸・大吉、サンドウイッチマン、には共通して一時の勢いがなく、中だるみ状態のようです。
いずれも腕は確かですからどの番組でも達者に笑いを取ってはいるのですが、ネタに新鮮味もキレもなく、天下を取ろうという張りもありませんでした。
ただ一組、ナイツだけは違いました。着実にパワーアップしています。今年に限ったことではありませんが、新ネタ、それもヤホー漫才の変化版ではなく、ビックリするようなオチがある優れた構成のネタを含めて、いくつものスタイルを用意しており、同じネタを視ることがほとんどありません。
いずれのネタも出来が良く、それを確かな技量で演じますから、マンネリ感がなくいつも確実に楽しめます。とりわけツッコミの土屋伸之が面白くなっています。ナイツは今が、花なら見頃、の感があります。
この四天王はいずれも、くりぃむしちゅーやダウンタウンのようにテレビの司会者専業に転身して行くタイプではなく、西川きよし・横山やすしのように漫才で頂点を目指すタイプですから、中川家、博多華丸・大吉、サンドウイッチマンにもいっそうの奮起を期待します。
もうひとり、年末年始のテレビを視ていて、今年はこの人の落語を聴いておこうと思ったのが桂歌丸師匠です。
昔、演芸評論家・川戸貞吉さんが「現代落語家論」で主張された落語四天王は、立川談志、古今亭志ん朝、三遊亭圓楽、月の家圓鏡(当時)でした。談志は1936年生まれ、志ん朝は1938年生まれです。歌丸は談志と同じ1936年生まれですが、新作派で四天王ほどに注目されるような噺家ではありませんでした。
その後も、筆者にとっての桂歌丸とは「笑点」の歌丸であり、せいぜい女性が化粧する姿の形態模写で笑いを取る噺家という印象でした。
しかし、日本テレビで1月3日に放送されたノンフィクション「桂歌丸81歳落語暮らし 密着365日!桂歌丸・・・入退院生活で見せた落語家の執念」を視て印象が変わりました。
81歳の歌丸は肺気腫を患い、その状態も良くありません。入退院を繰り返し、いつも鼻に酸素吸入の管がはずせません。一人で歩くこともままなりません。歌丸は晩年です。落語家の晩年は様々ですが、多くは全盛期の面影を失います。
【参考】<落語は一過性のブーム?>人間国宝・柳家小三治の噺の前にイマイチの構成と残念な客入り
晩年の志ん生の落語を「味」と言う方もいるのですが、やはり脳溢血で倒れる前の面白さを「味」で補うことはできません。談志も晩年は肝心の喉を病みましたから、本人からすれば晩年の高座は納得の行かない気の毒な高座だったろうと思います。
しかしながら、歌丸は少し違うように感じます。つらいであろう病を笑ってしまう噺家の了見を失っていません。鼻に酸素吸入の管をさしたままの高座の枕は、
「鼻にこんな管をさして、たいへんお見苦しいところをご覧に入れまして、なんとも申し訳ありませんが、どうぞ世間には内緒にしておいていただきますようお願いします」
落語に対する強い意欲が、弱った肉体を動かしているようです。数十年来、歌丸の噺を聴いていなかった筆者は驚きました。演ずるのは古典落語、それも他の人があまりやらない噺を掘り起こし、その弱々しい見た目からは信じられないような強い声音とはっきりした口跡で堂々と演じています。多くの噺家に較べても確かな高座です。
落語は一期一会です。
寄席巡りをしていた頃、あまり好きでない噺家に金原亭馬の助がいました。オヤジくさく面白くもないので、トイレに行ったり弁当に手を付けたりする噺家でした。
ところがある日、馬之助の「宮戸川」にハートを鷲づかみにされました。半七、お花という幼なじみが登場する噺なのですが、馬之助の演じるお花に江戸娘らしい愛嬌と可憐さがあって実に魅力的だったのです。馬之助のお花に一目惚れでした。
その後、暇を見つけては馬之助目当てに寄席へ通いました。しかし、同じ馬之助が同じように演じている「宮戸川」なのに二度とお花を魅力的に感じることはありませんでした。不思議ですが、おきゃんで可憐なお花はあの時限りのことでした。
同じ古今亭志ん生の血を引きながら、志ん朝にくらべ兄の馬生は手堅いが面白みのうすい噺家でした。ところがある日の寄席で馬生が演じた「親子酒」は志ん朝がかすむほど見事で面白い「親子酒」で、これに出会えた驚きは数十年後の今も忘れぬ幸福です。
落語は生もので、聴き時があるようです。演じる噺家の時と聴く側の時が一致したとき、たまたまの至高の時に出会うことができます。
桂歌丸は晩年です。しかしまだ最晩年ではありません。それどころか、衰えを円熟と強い意欲で押し返し、噺に向かっています。桂歌丸は、今こそが一期一会の至高の時に出会える「聴き時」なのかもしれません。
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