<もはや話芸?> 実に面白い「あたりまえの政治を取りもどす 1.30シンポジウム」
メディアゴン / 2018年2月5日 7時30分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
筆者が「シンポジウム」などというものに接した機会がそう多くないからでしょうか、これほど面白いシンポジウムは初めての経験でした。「面白い」という言葉には様々な意味がありますが、「興味深い」「意味ある」「愉快」「笑える」など、どの意味からも筆者にとっては実に「面白い」シンポジウムでありました。
動画サイトで視たこのシンポジウムは、市民連合が主催した『あたりまえの政治を取りもどす 1.30シンポジウム』。司会は法政大学の山口二郎教授、パネラーとしては前文科事務次官・前川喜平氏、東京新聞社会部・望月衣塑子記者、元文部官僚・寺脇研氏のお三方揃い踏みですから、語られる内容の傾向はたやすく想像がつきます。よって、安倍総理の政治が大好きな方々や、かなり「右」と言われる方々にとっては「面白くもなんともない」ということになります。
しかし、特別「右」とも言われず、安倍さんが大好きというほどでもない方ならきっと楽しむことができると思います。なぜ楽しめるか? それは語られる主張傾向ばかりでなく、「話術」に優れているからです。大げさに過ぎるとのお叱りを承知で褒めれば、お三方のお話は下手な落語家のマクラや若手芸人の語りなどを凌駕して、もはや「話芸」とさえ言えるのではないかと思えるほどだったのです。
司会者の紹介により最初に話を始めたのは前川喜平氏でした。肩に力の入らぬ自然体で自身が体験されたこと、自身が想像すること、自身が考えること、を明快に峻別しながら、聴衆の興味のポイントをはずさず、さらに所々で笑いを誘いつつ30分ほどを語りきり、会場大拍手となりました。筆者は前川氏がこれほど面白く話をすると、後の望月、寺脇両氏はさぞかしやりにくかろうと心配になったほどです。
続く望月衣塑子記者の出だしは早口ではあるものの堅調でした。しかし語られる事実の面白さに聴衆が引きつけられると、望月氏のしゃべりの勢いはますます高まり、やがて早口でたたみかけると場内爆笑も度々で、またまた言い過ぎとお叱りを受けるでしょうが、不覚にも若い頃のビート・たけしの切れの良いたたみ込みをうっすら思い出すほどでした。
【参考】<TBS「NEWSな2人」>政治家が出演するバラエティ番組の裏側
おそらく前川氏よりかなり長く話してマイクを置いたとき、場内大拍手も前川氏以上で、これに続く寺脇氏はさぞかしやりにくかろうと気の毒に思えました。
しかし、寺脇氏もただ者ではありませんでした。前川氏をオーソドックスなボクサーに例えるなら、望月氏は前へ前へのプルファイター、そして寺脇氏はまさに手練れのカウンターパンチャーでした。
文科省の優れた後輩である前川氏のマネージャー役になってしまったなどと笑いを取りながら誠実性を浮き彫りにし、望月氏の話も巧妙に取り込みつつ自己の主張を展開し、十分に笑いも取って会場の反応はけっして前川、望月にひけを取らないものでした。
結果として、3人のパネラーの組合わせは絶妙なコンビネーションとなって成立し、会場の方々のほとんどは、この日が相当に面白い話を聞くことができた特別な日であることを知ったのではないでしょうか。
実は相当に危うい日本の現状を彼らは語ったのですが、それを声高に主張するのではなく、事実にたっぷりのユーモアを添えて語ったのでした。彼らのユーモアにより多くの笑いに包まれたこのシンポジウムの終わりに、主宰者として教育学者で学習院大学・佐藤学教授が挨拶に立ちました。この方も肩肘張らない話で笑いを取ったあと、こんな言葉で挨拶をしめました。
『「ユーモアの根っこには悲しみがある」というのはマーク・トゥエインの言葉です。今日もう一つ思ってます。「ユーモアの根っこには怒りがある」』
会場の強い拍手は聴衆の立ち去りがたい気持ちの表れで、まるでカーテンコールでもあるのではないかとさえ思わせました。
1月30日東京日暮里サニーホールで開催された『あたりまえの政治を取りもどす 1.30シンポジウム』の模様は動画サイトなどで視ることができます。安倍総理の政治が大好きな方々や、かなり「右」と言われる方々、そういう方々以外のみなさんにはお奨めしておきます。
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