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<書籍「アルビノの話をしよう」>当事者が書くアルビノの現実

メディアゴン / 2018年3月5日 7時0分

<書籍「アルビノの話をしよう」>当事者が書くアルビノの現実

小林春彦[コラムニスト]

* * *

「アルビノの話をしよう( 石井更幸 編・解放出版社)」は、正しい知識を持っておくことの大切さを教えてくれる本です。第6回(2017年度)日本医学ジャーナリスト協会による書籍部門・優秀賞に、小さな出版社から上梓されたクリーム色の表紙の、この一冊が選ばれました。

アルビノ(眼皮膚白皮症)という言葉や存在は、以前よりも世間で広く認知されてきた印象があります。ライトノベルには「オッドアイ(虹彩異色症)」や「アルビノ」設定のキャラクターが飽和状態ですし、アフリカでは謎の迷信に基づく「アルビノ狩り」という非人道的行為があるとも報道されました。

しかし未だに誤解も多く、「眼が綺麗で全身真っ白で」といった見た目のイメージばかりが先行している実情を憂える当事
者も少なからずいるようです。一方、肌や髪の色が濃い(メラニン色素が多い)当事者の中には、自分がアルビノだと自覚なく日常を過ごされている方も多からずおられ・・・。そんな白とも黒とも言えないアルビノワールドに踏み込む一助となるのが、本書「アルビノの話をしよう」です。

本書は当事者を始め、アルビノの子を産み育ててきた親、アルビノ特有の症状であるロービジョンケアや紫外線対策に携わる支援者、医学の専門家たちが、アルビノにまつわる体験や知見を語ったものを、物柔らかにまとめあげた書物となっています。

編者はアルビノ当事者であられる石井信幸氏(45歳)。正しい知識がない時代に、悩み多き青年期を過ごされました。白かった髪は生まれてすぐ染められ、生え際が白くなる度に身内から「髪の毛は染めろ」と言われることが、子どもながら複雑だったそうです。同級生に「なぜ白いのか」と訊かれても、当時は調べる手立てが無く、自分も両親も答えに詰まることが続くと、「自分は何物なのか」と不安におちいることもしばしばだったとか。

「自分がアルビノである」という事実にたどり着いたのは26歳のとき。医師の診断も受け「これからはもう髪は染めない。本当の自分の姿で生きていく」

と家族に告げました。会社の同僚が認めてくれたことも自信に繋がったそうです。氏はその頃を回顧して「世界が変わった」と語ります。

これをきっかけに、石井氏はアルビノ当事者や親御さんのためにWEBサイトを開設したり、交流会も主催するようになりました。活動は多くの関心を集め、10年目の記念交流会には全国から100人近くの参加があったそうです。氏は2010年の青年版国民栄誉賞の人間力大賞において、会頭特別賞を受賞した実績もあります。

そんな石井さんですが、実は私は出版前から付き合いがあります。今回の出版にあたり、改めてお話をうかがうと、困難を乗り越えてきた人間の持つ優しさと強さを備えた物腰低い御仁でありました。ちょっと天然なところはありますが、そこもまた魅力で、愛され上手といいますか。本書には、遠距離恋愛の末に結ばれた石井さんと奥様のノロケ話も数ページを割いて描かれてまして、こちらも味わい深いものとなっています。

本書の印象的なキーワードの一つに「遺伝」があります。

たとえばアルビノの方が子供をもうけた場合、必ずしもアルビノになるわけではありません。本書にも、アルビノ当事者の女性の出産した男児が「真っ白な赤ちゃん」ではなく黒い髪をしていた、というエピソードがありました。その子は見かけ上は健常者寄りですが、アルビノ保因者(アルビノの原因となる遺伝子の変異の片方のみを受け継いでいる)であるとのことです。「息子の人生のハンデにならないか」と思い悩む母親の「正しい情報が広く共有される未来を願って」という想いが、強く心を揺さぶります。

【参考】「障害は個性だ」なんて口が裂けても言えない

遺伝子の変異については、先祖代々延々と受け継がれてきたものなのは確かですが、あまりに遠い昔から受け継がれたものなので、「特定の家系」の問題ではなく、人類全体が共有しているものであり、少なくない人数がこの変異の片方を受け継いでいるものです(突然変異もありえる)。これは生物にとって正常かつ基本的なサイクルであり、決して「幸運をもたらす種・前世のカルマ」といった迷信じみたものでもありません。目に見える形で表面化しないだけで、昨今話題の「行動遺伝学」のテーマにも通ずる、人間の遺伝のもつ性質であります。

本書は、こういった繊細な点にいたるまで問題提起や話題が及ぶほど、幅広い情報を収めています。それでいてフルカラーのページに始まって全部で90ページ程度と薄く、書体にはユニバーサルデザイン(UD)が採用され、横書きで読みやすいのも特徴的です。こうした本を完成させるのは並大低のことでなく、編者の苦労は十分に察せられるところです。

そんな私も夢中になる石井氏ですが、この本の優秀賞の授賞式当日も海外旅行に出掛けていて、アルビノ非当事者の奥様が授賞を受けちゃったというオチがついていました。授賞式の様子を中継で海外から眺めている氏の姿を、私は日本でSNS越しに見ている、という謎の当日を迎えておりました。

正しい知識に辿り着けないがために苦労のあった過去への反省と見えない未来への課題をきちんと提起しつつ、現在ある相談窓口・当事者団体、症状への対策などの役立つ情報も整理し充実した好著となっています。

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