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<テレビが活気づくチャンス?>放送法「政治的公平」規制撤廃の検討が始まった

メディアゴン / 2018年3月27日 7時30分

<テレビが活気づくチャンス?>放送法「政治的公平」規制撤廃の検討が始まった

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

テレビがジリ貧である。そのテレビを活気づかせるであろうと筆者が考えるニュースが飛び込んできた、そのニュースを他メディアに先駆けてスクープしたのは3月15日木曜日の「共同通信」である。以下引用する。

(以下、引用)政治的公平の放送法条文撤廃 党派色強い局可能に 安倍政権の放送制度改革方針案のポイント

安倍政権が検討している放送制度改革の方針案が15日、明らかになった。テレビ、ラジオ番組の政治的公平を求めた放送法の条文を撤廃するなど、規制を緩和し自由な放送を可能にすることで、新規参入を促す構え。放送局が増えて、より多様な番組が流通することが期待される一方、党派色の強い局が登場する恐れもあり、論議を呼ぶのは必至だ。(以上、共同通信より引用)

このニュースに大騒ぎしたのは民放各局である。一体どの点について民放は狂騒に陥ったのか。「政治的公平」の撤廃はあまり問題ではない。むしろ「規制を緩和し自由な放送を可能にすることで、新規参入を促す構え。放送局が増えて、より多様な番組が流通する」という点であろう。

これまで護送船団方式(放送局は許認可事業であり、勝手な新規参入はできない)で守られていた民放に、これからライバルが続々と出現すると言うことだ。放送局の利権である電波の独占的利用を犯されてはたまらないというのが民放各社の本音だろうと筆者は思う。

ここで、放送法第4条を確認しておく。

(放送法第4条1項)「放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。一  公安及び善良な風俗を害しないこと。 二  政治的に公平であること。 三  報道は事実をまげないですること。 四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」

この法を単なる倫理規定(努力義務)と考えればこれに反する行為があったとしても処分はできない。だが、高市元総務大臣や安倍政権の論理は以下のようなものである。

「放送法4条1項に違反した場合は、電波法76条に定める総務大臣の権限として停波を命じることができる」

これは放送への政治介入の根拠となる。日本国憲法 21条の保障する報道の自由を疎外する由々しき事態が発生しかねない。ならば、放送法第4条の撤廃は放送局にとって喜ばしきことなのではないのか。ところがことはそう簡単ではないのである。

「一  公安及び善良な風俗を害しないこと。二  政治的に公平であること。三  報道は事実をまげないですること。四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」

このあたりまえのことのように思える各条項をきちんと守るには、実は多くの手間と人手がかかるのである。事実かどうかいくつもの裏を取り、様々な角度から見た異なる意見をバランス良く取材するには時間も金もかかる。

つまり、これまで通り放送法第4条をきちんと守り、放送業界に参入するには実に高い壁があるのである。ライバルは現れず既存のテレビは安穏としていられるのである。ところが放送法第4条に縛られないとなれば、参入障壁は低くなるのである。既得権が危ない。

【参考】<印象操作をするテレビ報道>メディアは「事実」を重んじなければ信用されない

一方、政権側はなぜ、こんなことを言い出したのか。『民放の中には「反政権」に偏っている局がある。それが我慢ならない、ならば「親政権」の放送局もドンドン出現するようにしてやろう。生意気なテレビ局の鼻をへし折ってやれ』と考えたのではないか。実に思慮のない短絡的な考えであると思わざるを得ない。

3月24日(土)の朝日新聞が続報を報じている。

(以下、引用)日本民間放送連盟内からは「極端に政治的に偏った局ができる可能性がある」といった懸念の声が出ている。野田聖子総務大臣は「4条は非常に重要で、多くの国民が今こそ求めているのではないか。(4条が)なくなった場合、公序良俗を害する番組や事実に基づかない報道が増加する可能性が考えられる」と述べるなど政府内にも異論(以上、朝日新聞引用)

上記引用のなかで、日本民間放送連盟の「極端に政治的に偏った局ができる可能性がある」は、そのとおりだろうが、むしろ本音はライバル局が雨後の竹の子のように出現するのは困る、という点ではないかと筆者は思う。

その「極端に政治的に偏った局」の例として水島宏明氏(上智大学文学部新聞学科教授・放送批評懇談会「GALAC」編集長)が挙げるのが以下の番組である。

(以下、引用)たとえば、2017年1月にTOKYO MX テレビが放送した「ニュース女子」という持ち込み番組(※筆者註・制作はDHCテレビジョン)で、沖縄の米軍基地反対派の人たちが「外国人の勢力にお金で雇われたような動員された活動家ばかりで救急車の通行も妨害している」というようなデマが放送されたことが大きな社会問題になりました。この番組は当時、CSチャンネルやインターネットでも配信されましたが、地上波放送のTOKYO MXで放送されたことで問題化しました。放送番組の倫理をチェックする放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、は担当者にヒアリングをしたり、現地調査まで行った上に「重大な放送倫理違反」があったという判断を示しました。(以上、Yahoo!ニュース個人「規制撤廃でテレビはすべて「ニュース女子」化する!?」より引用)

おそらく放送法4条が撤廃された直後は「ニュース女子」のような番組がたくさん生まれるだろう。そのこと自体を筆者はテレビが活気づくととらえて、いいではないかと思うし、その上で、規制撤廃でテレビがすべて「ニュース女子」化するというような状態は生まれないと考える。

なぜなら、見る方はそんなにバカではないからである。公安及び善良な風俗を害しており、事実をまげた報道がなされており、少数意見を無視するような放送局は視聴者によって淘汰されていくからである。

アメリカでは大統領選挙の時にテレビ局ごとに「トランプ候補を支持」とか「クリントン候補を支持」と主張し「政治的公平」は放送局を縛らない。だからといって、アメリカの放送局の信頼が落ちているということはない。

今回アメリカの民主主義は誤ってトランプ大統領を選んでしまったようだが、誤ったとなれば、かつて支持していた局もトランプ大統領を容赦なく叩く。民主主義が機能しているということだ。筆者はまだまだ、日本の民主主義を信用している。日本の民主主義は悪いテレビ局を淘汰する力を持っている。

【参考】<東京都が3000万円で制作>結婚と五輪を連動させた動画の絶望的センスの悪さ

さて最後に「政治的公平」を気にしなくていいテレビの利点も書いておこう。

まず、痛烈な風刺を込めたエンタテインメント番組が出来るようになる。イギリスには人形劇を用いて、英国マーガレット・サッチャー首相やジョン・メージャー首相などの政治家、米国ロナルド・レーガン大統領、イギリス王室一家などの人形が登場する「スピッティング・イメージ」という大人気番組がある。

選挙報道もおもしろくなる。明かな泡沫候補を無視してその時間を有力候補に絞って使う選挙報道が出来る。筆者20年ほど前に「原発反対アンケートクイズ」という企画を作り上げて放送しようとしたら、直前にカットになった。政権が原発推進だったからである。これは「政治的公平」を欠くと。

「政治的公平」をとり除けば、バラエティ番組の幅は大きく広がるだろう、バラエティ系のエンターテインメントがおもしろくなると言うことはテレビ自体が活気づくことにつながる。

この際だからこの放送法4条が、依然として適用されるNHK以外の民放が集まって「テレビ局に政治的公平は必要か大討論会」でも開いたらどうだろう。若いテレビマンなら乗るかも知れない。しかし悲しいかな、そういう勇気もないほど政治に対して幹部が萎縮しているのが、今のテレビなのである。

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