<たけしは広告塔?>NHK「コントの日」が残念
メディアゴン / 2018年11月6日 7時30分
高橋維新[弁護士/コラムニスト]
* * *
2018年11月3日放映の「コントの日」という番組を見ました。 番組自体は2時間半の特番で、ビートたけしを中心に据え、別々に撮った独立の短編コントを集めた内容になっていました。それも、NHKの番組なのです。NHKのコント番組というと、私が以前ボロクソに書いた「LIFE」(こちらは、内村中心のコント番組)が思い出されます。
本来この番組のように最初から「コント」と名乗ってやるコント番組は、スタート地点から大きなハンディを抱えています。視聴者が「おもしろいものが見られるのではないか」と考えて勝手にハードルを上げてしまうからです。めちゃイケやガキのようにドキュメンタリーを装うとか、タレント名鑑の芸能人検索ワード連想クイズみたいに普通のクイズを装うとかいったことをして、仮面を被せてやるのが現在のテレビの一般的な手法になっています。
よほどの自信か別の強みがなければ、コントと名乗ってコントをやることはできません。「今から爆笑漫才をやります」と宣言してから漫才を始めるようなものなんですよ。
このようなハンディの存在を考えた時に、この番組が押している「強み」は明らかに「たけし」でした。普通の視聴者は「NHKで往年のタケちゃんマンや27時間テレビの火薬田ドンのようなコントが見られるのではないか」と期待するでしょう。 しかし、LIFEの内村がちゃんと数々のコントにガッツリと出演していたのとは異なり、2時間半の番組でたけしが実際に出てきたコントは3本の短編だけでした。
たけしは番組の主役ではなく広告塔に過ぎなかったのです。これじゃあ、羊頭狗肉もいいところです。もっと強い言葉を使うと、詐欺的なやり口です。 そしてこの3本のコントも、大した出来ではありませんでした。たけしの強みは、しょうもない台本でも何となくおもしろくなってしまうような彼自身の芸人としての華(「フラ」と言ってもいい)です。
それが存分に出ていたのは彼が火薬田ドンよろしく水に漬けられる恐怖の大王のコントでした。水に落ちるだけであそこまでおかしみを出せるのは、たけしならではです。ただ他の2本は、たけしを活かしきれていませんでした。1本は、たけしが単なる脇役でした(ボケの主役は、ゲイらしき人物に扮した富澤でした)。
そしてもう1本はたけしが記者会見に臨む官房長官に扮し、彼自身がテレビでよく見せるフリップ大喜利のように平成に続く新元号(のボケ)を次々と発表していくというものでしたが、これは正直たけしの良さが活きない手法だと思います。本人が好きだからこそテレビで何回も披露しているのでしょうが、今の滑舌が良くないたけしにしゃべらせると何を言っているのかがよく分かりません。そのうえボケ後のたけしの補足説明が押しなべてそんなにおもしろくないので、テンポが悪いのです。見ている方としてはもっとポンポンとボケだけを披露していって欲しいのです。
【参考】ビートたけしNHK「コントの日」に足りなかったモノ?
たけしが出たコントですらこの有様なので、たけしが出ていないコントは、何をか言わんや、という状況です。台本がしょうもないのに、ロッチみたいに演技力が伴っていない演者もいて、見るのが辛くなります。そのくせNHKのコントは先述のLIFEのようにこのしょうもない台本をガチガチに守らせようとしてくるので、笑いが頭打ちになっているのです。それも、かなり低い位置で、です。
台本をガチガチに守らせようとしているのは、フリでの不自然な説明セリフの多さや、BGMや、SEや、カメラが演者を抜くタイミングがバッチリと合っていく映像展開を見ていれば一目瞭然です。演者がアドリブを入れる「隙」も僅かにしか存在しないため、笑いで大事な裏切りは生じる余地がほとんどありません。
そのうえ演者の「台本を守らなければならない」という緊張感が見ているこっちにも伝わってしまい、笑っていいものか面食らってしまいます。本来、この緊張感が出ないように自然な芝居ができる芸人もいる(そして、芸人であるからにはそのような自然な芝居ができないといけないはず)のですが、1人でもダメな人がいるとそれがコント全体に波及していまいます。
何でNHKはこんなにガチガチにやろうとするんでしょうか。思えばこの局は紅白歌合戦でもミニコントをちょいちょい挟んでくるのですが、あれも台本ガチガチなのです。生放送で尺を守らなければならない歌番組だからこそガチガチにやらなければならないというのは分かるのですが、そのような悪条件下ではおもしろいものは作りようがないのだから、余計なことをしなければいいのにと毎年思います。歌番組で視聴者が見たいのは歌なんじゃないですか?
※ちなみに、番組のウェブサイトで各演者のコメントが紹介されているのですが、NHKのガチガチ加減を指摘してしまっている人がいるので以下に引用しておきます。演者が自認しちゃってるんですね。
<以下、引用>
ビートたけしさん
NHKさんの方から、『コントの日』というのをやりたいというご連絡をいただいたときは、内心「縛りがきついんだろうな」とか「どうせ好きなコントはやらせてくれないだろう」と嫌な予感がしたんですよ(後略)
劇団ひとりさん
正直言って、NHKのバラエティー番組はリハーサルも長いし、段取りもすごく細くて面倒くさいなあと思うことがあるんですよ(後略)
<以上、引用>
とはいえ、台本のしょうもなさをあまり指摘しすぎるのもかわいそうな面があります。もう、大体のコントはやり尽くされている感があるからです。どんな設定も、どんなボケも、カッチリしたコントにしてしまえば既視感が拭えません。逆にだからこそ、いくら事前に台本をうんうん唸りながら考えてもしょうもないものしかでき上がらないからこそ、演者のアドリブにもっと任せて欲しいのです。だって、同じボケでもその場でアドリブで思いついたように言った方がおもしろいのは明白じゃないですか。そっちの方が、ウケ狙い感が減るし、視聴者は「そんなおもしろいことをこの場で思いつけたのか」と感じてくれるのでズレや裏切り感も大きくなるんですよ。
だから、人工のコントで一番おもしろいのは「アドリブ大喜利コント」だと筆者は信じています。番組のコントの中でこの片鱗が僅かに見えたのが「だるまさんがころんだ」というコントでした。居酒屋でブス(渡辺直美)と美女(新川優愛)が話している中で、美女が思わせぶりな発言をするたびに周りの男性(店員や他の客)がテンションを上げて美女に近付いていこうとする、という設定のコントです。
テンションの上げ方や美女へのアプローチのしかた、ブスが話に戻ってきた時の誤魔化し方やテンションの下げ方でいくらでも自分なりのボケが出せます。明確なツッコミ役はいませんでしたが、筆者には逆にそのシュールさがおもしろかったです。どうせなら、もっと長くダラダラとやってもらって、直美や周りの男役に色々なパターンを見せて欲しかったです。
まとめると、コント番組を名乗るコント番組の欠点は以下の二つです。そしてこれは、致命的な欠点です。 (1)「コント」と名乗ることでお客さんが勝手にハードルを上げてしまう。 (2)台本通りにやってもしょうもないものしかできない。 これに対する対策も、はっきりしています。 (1)コントであることを隠す。 (2)アドリブを多めにして裏切りを盛り込む(こうすれば演者の天然も引き出せる)。 とはいえ、今回のような「コントと名乗った台本ガチガチのコント」が好きな方も一定数いるのでしょう(特に、作り手側に)。
【参考】<やっぱり面白くない?>芸人が書いたネタを役者が演じる「笑×演」
先ほど引用した番組のウェブサイトにも「いま減少の一途をたどっている『コント番組』の灯を絶やさぬよう、2時間半の大型コント番組『コントの日』の放送が決定しました!」という文言が踊っています。ただ、上記の2つの欠点が致命的だからこそ今の地上波から「初めからコント番組だと謳っているコント番組」は駆逐されてしまったわけです。同じボケでもその場でアドリブで思いついたように言った方がおもしろいのは明白だし、人工ボケより天然の方がおもしろいのは明白じゃないですか。
今のテレビのバラエティは、この2つとこれらを装ったものに支配されています。アドリブと天然の強みを捨て去ったガチガチコントがおもしろくないのは、コント明けにスタジオに帰ってきたときに常に仏頂面だったたけしに如実に表れていました。まあ、実際にあのスタジオでコントを見ているかどうかはよく分からないのですが、たけし本人は笑うフリさえしていませんでしたよ。
とはいえ、ガチガチコントが好きな人がいること自体は否定しません。それはもう個人的な好き嫌いの領域なので、筆者にどうこう言えるものではありません。でもそっちの方が好きだという方はもう物好きの少数派になってしまうと思われるので、やりたければCSでやればいいと思います。そのような「物好き」が地上波でコンスタントにコント番組ができるほどにたくさんいるとは思えません。ほら、CSだったら少数派の趣味人向けのチャンネルがいくつもあるじゃないですか。釣りとか、公営ギャンブルとか、マイナースポーツとか、その類。
やっぱり、作り手の作りたいものと受け手の見たいものの乖離というのは、いつになっても世知辛いですね。
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