<東海テレビ「さよならテレビ」>東京キー局では絶対放送されない衝撃作
メディアゴン / 2018年11月30日 9時12分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
名古屋の東海テレビ開局60周年記念ドキュメンタリー『さよならテレビ』が9月2日に90分番組として放送された。この番組に対しては、よくぞ撮った、よくぞ放送した。とにかく讃えておきたい。
放送エリアは、愛知、岐阜、三重、東海エリアに限ってのローカル放送である。東京のネット局はフジテレビであるが、フジテレビでは今後も決して放送されることはないだろう。テレビ局内部の公然の秘密をえぐっているからだ。
東海テレビの報道局内部に1年半に渡ってカメラを向けた。撮ったのはヤクザに基本的人権はないのかを堂々と問うた(筆者が思うテーマ)名作『ヤクザと憲法』を撮った監督で、東海テレビの社員ディレクターである土方宏史氏である。ノーナレーション、効果音なし、最小限のテロップだ。
ドキュメントに登場する印象に残った3人の報道記者がいる。一人は、ニュース番組のキャスターに抜擢された入社16年目の男性アナ。報道部長から「お前を売り出したい」と言われ、局の正面玄関には、このアナの顔写真ポスターがデカデカと掲げられる。選ばれてあることの恍惚と不安。
もう一人は、職歴2年目の24歳の男性W君。制作会社からの派遣社員である。見るからに口下手、自信なさげで頼りなく映る。新人記者なら誰もが命じられるいわゆる街録。W君は、花見を楽しむ人たちに感想のインタビューを取ろうとしてにマイクを向け断られる。それ以上押すことができない。控えめでいいやつなのだ。ニュース原稿にふりがなをつける仕事でおかすミス。藤田嗣治はなんと読むのか。
そして、3人目が記者歴25年のやはり契約社員である外部スタッフ記者S氏。「権力の監視」がもっとも重要なジャーリストの役目であると考えるS氏は、自分自身のその思いと報道部の姿勢とのギャップ、そして(おそらく)社員記者と、外部記者である身分のギャップに身につまされながら、仕事をしている。
【参考】日テレ「笑ってはいけない」浜田の黒塗りメイクの是非
映像の対象となった人物のうち2人が、社員ではなく外部スタッフであることが、すでに現在のテレビ界の本質を映し出している。今、テレビ局外部スタッフなしでは成り立たない。記者クラブを牙城のように守って、昔は社員でないとクラブ員になれなかったが、いまは、それではやって行けない。記者=社員、記者=テレビ局員ではなくなっているから、記者=責任が少し揺らいでいる側面もある。
男性アナは社員だが、出役(出演者)である。出役はテレビ局内では、記者とは区別される別種の人間である。この3人が絡んで、話は進む。
男性アナは1年間番組を担当したものの視聴率が上がらず「卒業」という言葉で降板を言い渡される。新人W君にも、容赦はない。社員なら容易に切ることはできないが、派遣なら切れる。
報道部長「W君が一年間でしたが、本当にみんなに愛されて、寂しいんですが、とりあえず、卒業と・・・」
そして、W君の挨拶。
W君「ここで学んだことを次の場所でも活かせるように頑張っていけたらなあと思います。一年間、ありがとうございました」
この場に居合わせたS記者がカメラに分かるようにつぶやいた一言。
S記者「卒業なんていう、そんなオブラートに包んだような言葉で、くくれるんですかね」
その夜、W君を、もつ鍋屋に誘って一緒に帰っていくS記者。
報道は「第四の権力」と言われる。しかし、この権力は誰が認めて与えたものでもない。民主主義が与えたものではもちろんない。難関の試験を突破してテレビ局や新聞社の報道局員になった人に与えられたものでもない。権力の監視人ながら派遣切りは行う報道。ネットを使えば誰でも権力になれる時代。
「さよならテレビ」は、報道に携わっていない大多数の人間にとっては、報道の現実の一端を垣間見ることのできる稀有な番組であった
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