<利権の祭典・東京五輪>今後の推移に厳正な監視を -植草一秀
メディアゴン / 2019年1月21日 16時31分
植草一秀[経済評論家]
***
確定している事実と確定していない事実をはっきりしておこう。
ことの発端は、2016年5月12日に、フランス検察当局が、日本の銀行から2013年7月と10月に、2020年東京オリンピック招致の名目で、国際陸上競技連盟(IAAF)前会長のラミン・ディアク氏の息子に関係するシンガポールの銀行口座に約2億2300万円の送金があったことを把握したとの声明を発表したことである。
招致委員会はシンガポールの「ブラックタイディングス社」にコンサルタント費名目で約2億2300万円を支払った。IOCが東京招致を決定した総会は、2013年9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた。日本では、2013年4月に猪瀬直樹都知事(当時)が「イスラム諸国はけんかばかり」と発言してイスラム諸国の反発を招いた。
7月には東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発の汚染水漏れが海外に伝わった。2013年8月にモスクワで陸上世界選手権が開催され、陸上関係者を中心にIOC委員が集まった。招致委員会は電通に照会をかけ、タン氏が2015年北京世界選手権招致で実績があることを確認してタン氏のブラック社と契約を締結した。「ブラックタイディングス社」代表のイアン・タン氏が招致委員会に売り込みをかけてきたとも伝えられている。
招致委員会はこれらの事実を認めた。しかし、「招致委員会は正式な業務契約に基づく対価として支払った」として問題がないとしてきた。しかし、これだけでは疑惑を晴らす弁明にはなっていない。
フランス検察当局が問題にしたのは、招致委員会の送金先がIAAF前会長の息子に関係する会社の銀行口座であり、IOCによる2020年五輪開催地決定の直前で、開催地決定に影響力を持つIOC委員を買収する目的で行われた不正な送金である疑いがあることなのだ。
ペーパーカンパニーとも言える企業に2億2300万円の資金を入金したのなら、その資金が何にどのように使われるのかについての認識を説明することが必要である。弁護士の郷原信郎氏が指摘するように、問題発覚後にJOCが設置した調査チームは、この点について、説得力のある説明をしていない。調査チームが公表した報告書には、
「招致委員会がコンサルタントに対して支払った金額には妥当性があるため、不正な支払いとは認められない」
と記述されたが、「妥当性」に関する客観的な資料が何も示されていないのだ。フランス検察当局は、この送金がIOC委員等の買収資金となった可能性を疑っている。この点を明確に否定する根拠が何も示されていない。他方で、フランス検察当局が提起している疑惑を裏付ける重大な事案がすでに表面化している。
郷原氏の記述からの引用になるが、2016年10月5日に、リオデジャネイロオリンピックの招致をめぐって、ブラジルの捜査当局が、開催都市を決める投票権を持つ委員の票の買収に関与した疑いが強まったとして、ブラジル・オリンピック委員会(BOC)のカルロス・ヌズマン会長を逮捕したのだ。
当時のNHK報道は、ブラジルの捜査当局が、リオデジャネイロへの招致が決まった2009年のIOC総会の直前に、IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子の会社と息子名義の2つの口座に、ブラジル人の有力な実業家の関連会社から合わせて200万ドルが振り込まれていたと発表したことを伝えた。
このことについて、郷原氏は、
「BOC会長が逮捕された容疑は、リオオリンピック招致をめぐって、「IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子の会社と息子名義の口座に、約200万ドルが振り込まれていた」というもので、東京オリンピック招致をめぐる疑惑と全く同じ構図で、金額までほぼ同じだ」
と指摘していた。「ブラックタイディングス社」による「売り込み」とは、この実績に関する「売り込み」だったのではないか。
郷原氏は、
「フランス当局が捜査の対象としている「IOCの委員の買収」は、公務員に対する贈賄ではなく、日本の刑法の贈賄罪には該当しないが、「外国の公務員等」に対する贈賄として外国公務員贈賄罪に該当する可能性はあるし、招致委員会の理事長が資金を不正の目的で支出したということであれば、一般社団法人法の特別背任等の犯罪が成立する可能性もある」
と指摘している。招致委員会の活動費用には東京都の公金が投入されている。つまり、国民の税金が投入されているのだ。その税金が、賄賂資金に使われることも許されることではない。利権の祭典である東京五輪開催が中止になるなら、歓迎すべきである。今後の推移に対する厳正な監視が求められている。
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