TBS宇垣美里アナ退社ニュースに感じる違和感
メディアゴン / 2019年2月3日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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TBSの宇垣美里アナがこの3月でTBSを退社するという話題をよく目にする。人気女子アナ(たいがいの女子アナは人気なのだが)がテレビ局を「退社」してフリーアナウンサーに転身すると(と言いつつも、たいがいは芸能プロダクションに入りタレントになる)、その動向がメディアを賑わす。
しかし、このような現象を見ていて多くの人が気になることは、「女子アナって一体なんなんだ」という、その職業自体への疑問ではないだろうか。本来であれば、テレビ局という大企業のOLが「退社」することに、なんのニュース性もないはずだ。
女子アナが「退社」して、純粋に「フリーアナウンサー」「ジャーナリスト」のような仕事をする人も存在はするが、その数は圧倒的に少ない。「フリーアナ」「ジャーナリスト」を名乗りながら、実質、そういった業務をプロとして貫徹できている人は、さらに少ない。寿退社以外の女子アナは、ほとんどがタレントになる。
そう考えれば、彼女らの多くが、もともと「芸能人になりたかった人」なのだろう。「テレビでニュースを伝える専門職」とか「様々な情報をわかりやすく伝えたい」といったような志望動機を語っていたとしても、結局は「芸能人になりたい」が本音のように感じる。
実際、ルックスや舞台度胸の類を見てみれば、芸能人として遜色がない人も多い。強いていえば「たいして面白くない単なる美人」が多い、というぐらいだろう。そう考えれば、女子アナたちの退社、タレント転身という流れは当然なのかもしれない。むしろ「下積みせずに芸能界デビュー、おめでとう!」なのだ。もちろん、女子アナの選抜は、芸能プロダクションのオーディションよりも倍率は高い場合もあろうから、場合によっては普通の芸能人よりも「芸能人になるための努力」を影でしているのかもしれないが。
しかし、一般的な芸能人、タレントと違うところは、女子アナという職業が「高学歴」を求めるということだ。程度の差こそあれ、ほとんどの女子アナがいわゆる「有名私大以上」を卒業している。必ずしも高学歴が求められない芸能界への入り口の一つとして、女子アナという高学歴が必須となった職業が存在することに、個人的には違和感しかない。
女子アナになるために「女子アナを多く輩出している有名私大」を目指している人も多い。「大卒の教養や専門性」が求められているからかもしれないが、テレビに映るアイドル然とした女子アナたちに、大卒でなければ得られない教養も専門性も、そして必要性も感じられない。
タレントや俳優、芸人など、芸能界で活躍する人たちは、誰もが何の補償もない環境の中で、高学歴社会の今日でさえ、義務教育だけの学歴でその世界に身を投じるような人もいる。有名大学、有名高校の学歴や進路を中退などで捨てるようなケースもある。しかし、学歴と芸能人としての人気・実力、学歴と芸能人としての知性はおよそ無関係だ。高学歴な芸能人も少なくないが、「高学歴タレント」という肩書きが注目されるぐらいなので、やはり、まだまだ特殊だ。
そう考えると女子アナを目指す人たちとは、「芸能人としてのリスクを回避している安定した芸能人」という立場が欲しい人なのではないか・・・と、うがった見方をしてしまうのは筆者だけではないはずだ。
しっかりと学歴を確保し、テレビ局という大企業から安定した収入と立場を得つつ、守られながら「女子アナ」という名の芸能活動をする彼女たち。「私たち、芸能人ではありませんよ」といったスマートな印象を持たせつつも、結局やっていることは芸能人。芸能人志望だけど、芸能界に自ら突撃するほどのリスクを負いたくないけど、テレビ局の組織的なパワーで人気芸能人以上の芸能人になることを確約されたい。
見方を変えれば、それは「しっかりしている」というだけなのだろうが、一方で、芸能人としては親近感の持てない「ずる賢さ」も感じる。マツコ・デラックスのように、女子アナ嫌いを公言する著名人もいるが、それが視聴者に受け入れられたり、話題になるのは、彼女たちの芸能人としての中途半端さだけでなく、そこに親近感の持てない「ずる賢さ」を感じる人が多いからではないだろうか。
個人的には、女子アナという存在は、テレビ局が保有すべき人材ではないように感じる。テレビ局が公式に雇用するアナウンサーは「見た目ではなく内容で伝えることのできるプロ」すなわち、しっかりとジャーナリストとしての知見とスキルをもった人であるべきで、日本の「女子アナ」のような存在は、本来は芸能プロダクションの側の役割である。
利便性もあるのだろうが、テレビ局は「女子アナ」のようなOL芸能人の採用枠などは作らず、ジャーナリストや記者としてのスキルや経験、専門性や知見を持つしっかりとした専門職の社員から選び(もちろん、適正やルックスも必要であろうが)、そういった人材を「アナウンサー」になるべく育ててゆくべきではないか。
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