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素人参加の奇妙な事例「NHK杯 輝け!!全日本大失敗選手権」

メディアゴン / 2019年2月11日 19時8分

素人参加の奇妙な事例「NHK杯 輝け!!全日本大失敗選手権」

高橋秀樹[放送作家]

・・・

それは実に不思議な番組視聴体験だった。少し限定して言うなら、これまで40年以上テレビ番組制作にあたってきた放送作家として、ありえない、稀有な、番組視聴体験だった。

2月6日(水)夜8時から放送された「第2回NHK杯 輝け!!全日本大失敗選手権大会 ~みんながでるテレビ~」である。あまりに不思議なので筆者は45分間(CMの入る民放なら、1時間番組のサイズである)全部、テレビに正対して見てしまった。

どこが不思議なのか。

まず、本稿の読者であるあなた自身が、NHKの偉い人で、番組企画を採用する権限を持つ編成局の偉い人だと仮定してほしい。そこにこんな企画書が持ち込まれた。(以下HPより引用)

「誰にでも出演のチャンスがあるという視聴者参加型の特集番組。老若男女、誰でも(中略)人生を左右するマジな大失敗から、ちょっと心がほっこりするカワイイ大失敗まで大募集(中略)その中から選りすぐりの人たちが、NHKの特設ステージで(筆者注・若い女性中心の客が80人ほど入っている)とっておきの大失敗エピソードを披露する。選考基準は、たった一つ、面白いかどうか。もちろん、優勝者にはNHK杯のトロフィーが贈られる。」

あなたは、この企画を通すだろうか。筆者は通さないし、言下にボツにするだろう。「こんな企画持ってくるな」と怒るかもしれない。企画の提出者か過去に優れた番組の製作者であれば、「なぜ、このような企画を出したか」などを突っ込んだ質問をするだろう。なぜならこの企画は骨子だけ取れば、「素人がしゃべる失敗談をみんなで聞く番組」だからだ。そんなものが面白いはずがないことは、素人相手の番組を作ってきたテレビマンはたいてい身にしみて知っている。

筆者がNHKの偉い人=企画の決定権者であればするであろういくつかの質問と、想定できる答えは以下だ。

(Q1)司会は誰か。

(A1)関ジャニの村上信五と、東野幸治を予定しています。確約はありません。

どんなバカ企画でもMCが大物なら決まってしまうという悪例がある。ほんの少し前のSMAP 、今ならダウンタウンか。このMCが素人をきちんと扱える人の場合、素人話を何倍にも面白くする可能性があるからだ。明石家さんまがそうだ。「明石家サンタ史上最大のクリスマスプレゼントショー」が、似た形式だが、これでさえ素人は直接スタジオには来ない。電話という表情の見えないトーク方法をとっているのは見えないところを面白くするためだ。

(Q2)素人の失敗談は再現VTRにしたりするのか?

(A2)若干フォローする程度でほとんどしません。素人さんにフリから落ちまで全部トークしてもらいます。

(Q3)素人が、これは面白いよと狙ってする話はたいてい面白くないよね。わざとらしいフリ、置きに行く感じのオチ。見ていて嫌じゃないか。

(A3)話す人を厳選します。

筆者は、こういう素人を「悪い素人」と呼んで自分がやるテレビからは排除してきた。自分が面白いと勘違いしている素人のことだ。こういう素人はタレントを無視して自分からネタを喋りに来る。いい素人は受けのトークをする素人だ。

明石家さんまはそういう意味で「山形県にいい素人が多い」という意見を持っているが、山形人を最初に推薦したのは筆者である。山形の人は引っこみ思案なので、考えこむ間だけ一泊返事が遅れる、それがおかしさを醸し出す。

(Q4)話す話題と人を厳選すると言っても、それは並大抵な努力じゃないと思われるが。1000人オーディションして、1人合格するくらいの稀な人探しだと思うが。どうか?

この質問にはどう答えるのだろう。6人の素人話者がいたが、これを選ぶのに6000人オーディションしていたとしたら頭が下がるばかりだ。

(Q5)素人の話が面白いかどうかは、誰が判断するのか?

(A5)『NHKのど自慢』の秋山気清さんが鐘を鳴らします。

『NHKのど自慢』と言えば、1946年の放送開始以来、約70年放送されて続けている国内随一の長寿番組。秋山さんはあるインタビューでこう答えている。

「知らないかたも多いと思うんですが、私は別の審査室からイヤホンを通して送られてくる指令に従って鐘を叩いているだけで、合否の判定をしているわけではないんですよ。ただ、『えっ? 今の人が鐘2つ?』とか『今のは3つあげてもいいでしょう』とか思うことはあるので、そこはリズムを少しずらしたり、ちょっと反抗的な叩き方をしているときはあります(笑い)」

この番組でも客の反応を見てディレクターが秋山さん指示を出すのだろう。ところで、歌ならそれでいいが、人生をかけて話すトークに対してはそれでいいのだろうか。

(Q6)ここまで質問して考えたが、のど自慢を歌以外でやることはできないのか、という発想で生まれたのがこの企画なのではないか?

この問いのはどう答えるのだろうか。『NHKのど自慢』は素人参加番組の原型で、テレビ屋なら皆、これを超える素人参加番組はできないかと考えてきた。でも、思いつけなかった。歌の代わりに笑い話の参加者を募るという企画は誰もが考えて、そして考えに詰まった企画だった。この企画を運営しているのはフジテレビの傘下プロダクション共同テレビ。大ヒット番組『チコちゃんに叱られる!』の企画提案社である。ああ、ならば・・・とも思う。この番組は制作会社を信じる人によって発注されたのだろう。

宣伝に出場した「失敗さん」として次の人々が並んでいる。

「除雪車並みのいびきで失敗した」渡部 史帆さん(北海道)

「バイクで崖から落ちた」小林 るり江さん(兵庫県)

「ニンニクづくりで失敗し続けた」河野 公明さん(広島県)

「尾崎豊に憧れて自分から告白した」小野寺 真さん (宮城県)

「きゅうりとヘチマを間違えた」桜井 正美 さん(埼玉県)

「腎臓破裂をあの日と勘違いした」鈴木 真弥 さん(北海道)

やはりこれだけでは番組を見ようと思う人はいないように思う。少なくとも筆者が視聴者であれば見ない。

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