ゴーン氏事件を考察する4つの視点 -植草一秀
メディアゴン / 2019年3月18日 18時35分
植草一秀[経済評論家]
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巨大資本が支配するマスメディアによって日本の情報空間がコントロールされている人々が真実の情報を入手することが難しくなっている。限られた真実の情報の入手経路が単行本とインターネットの情報空間である。情報空間を支配しようとする大資本は、当然のことながら、単行本の分野、インターネットの情報空間にも積極的な介入を行っている。
しかし、マスメディア情報空間を大資本が独占占拠しているのに対して、単行本とインターネットの情報空間には少なからず風穴が開いている。この風穴を利用するしかない。インターネット上の優良情報の利用を市民が拡大してゆくことが重要だ。
私は人物破壊工作で活動を抑制されてきたが、基本姿勢は不変であり、現在も情報発信を続けている。こうした情報の拡散方法を工夫してゆく必要がある。
1000人の集会を1000回開催して、伝えることのできる人数は100万人である。しかし、全国放送であれば、1%の視聴率で瞬時に100万人に情報を伝えることができる。10%の番組であれば1000万人である。たかが地上波であっても、されど地上波なのだ。
カルロス・ゴーン氏が逮捕され、起訴された事案についての論議がかまびすしい。
カルロス・ゴーン氏は有罪になるのか。日本の人質司法は適正なのか。刑事上の問題と別にカルロス・ゴーン氏の行動に問題はあったのか。カルロス・ゴーン氏事件とJOCの五輪誘致贈賄疑惑事案とのかかわりはあるのか。
さまざまな側面があり、論議は尽きない。
経済論議として注視しておかねばならないことは、カルロス・ゴーン氏が企業の改革=コストカットを強硬に推進した一方で、自分自身の報酬を激増させたという事実だ。これこそ2000年代に入って急拡大している格差問題の核心なのである。ゴーン氏が来日して日産のトップに就任したのは1999年のこと。
この年のサラリーマン川柳の大賞は次の句だった。
「コストダウン 叫ぶあんたが コスト高」
昨年末のゴーン氏逮捕の本質を衝く名句だった。2万人の首を切って、自分の報酬は数十億円に増大させた。こうした企業統治を是とするのか、非とするのか。この問題を徹底的に論議するべきだ。
刑事事件としては法と証拠による判断が下される必要があるが、ゴーン氏の行動が企業経営者の規範倫理に反するものであったことは間違いないだろう。これは刑事事件として責任を問う前に、企業が企業統治の一環として、企業内部で摘出するべき問題である。しかしながら、多くの日本企業で、類似した不適切な行動が広範に存在するのではないか。企業は正規労働を減らし、非正規労働の比率を高め、職場においては、パワハラが横行し、労働者の権利を侵害する「ブラック」な行動が拡大してきた。
その一方で、企業の役員が役員報酬だけを突出して拡大させてきたのではないか。同時に職権を乱用して、企業資産を公私混同で私的に流用する役員が広範に存在する。こうした企業統治の乱れは日産に限った話ではない。刑事事件として告発する前に、企業が企業内部の問題として不適切な行為を排除できなかったとするなら、それは、企業統治の不完全性を批判されてもやむを得ない。日本の人質司法手法に重大な問題があることは、かねてより指摘されてきた問題だ。ゴーン氏によって始まった問題ではない。
しかし、今回の日本の司法判断を見ると、ダブルスタンダードがくっきりと浮かび上がる。ゴーン氏だったから釈放された。こう見るほかない。ゴーン氏は東京拘置所内でベッドのある部屋に移動している。この措置に関する合理的な説明すら明確に示されない。江戸時代以降の不平等条約の状況はいまなお変わっていない。欧米に弱い日本という側面が鮮明に浮かび上がっているのだ。
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