『水曜日のダウンタウン』は笑いではなく人間の醜さをあぶり出すのが目的の番組ではないかと思える説
メディアゴン / 2019年4月6日 6時41分
高橋維新[コラムニスト]
***
2019年2月27日に放映された「水曜日のダウンタウン」の1企画としておぼん・こぼんというベテラン芸人の解散ドッキリが行われていた。これに対して賛否両論巻き起こっているようなので、筆者個人の考えを記しておく。
ドッキリではおぼんの方が仕掛人となり、こぼんにウソの解散話を持ち掛けていた。それに先立って同じ漫才協会に所属するナイツが「2人の仲が現在非常に悪くなっており、8年間私語を交わしていない」というエピソードを紹介して、視聴者の緊張を高めていた。
実際におぼんが解散を持ちかけるとこぼんは喧嘩腰でこれに応じ、両者はエンターテインメットでは扱わないようなマジ喧嘩を始めてしまった(流石に、演技には見えなかった)。本当にそのまま喧嘩別れで解散しかねない勢いであったが、現場でモニタリングしていたナイツが事情の説明に入り、なんとか事なきを得たという展開であった。スタジオの小籔とダウンタウンが必死のフォローを入れてなんとか形にはしたものの、後味の悪さだけが残る映像であった。
はっきり言うが、笑いのコンテンツには全くなっていなかった。そして、「笑い」以外のエンターテインメントになっていたかというと、それも怪しかった。私も、個人的に見ているのが辛いレベルの映像であった。
ただ、お互い嫌い合って喧嘩をする人間たちの「醜さ」というものは存分に出せていたとは思う。そして「水曜日のダウンタウン」という番組(と、藤井健太郎という作り手)は、笑いを提供することを第一目標とはしておらず、人間の弱さ・汚さ・醜さを画面上に析出させることを第一目標にしている節がある。クロちゃんの醜さがこれでもかと炙り出され、プレゼンターのたむけんも「ほぼホラー」と評していた『MONSTER HOUSE』や、大トニーが絶叫してスタッフに悪態をつくという「禁じ手」をやってしまった「ジョジョの鉄塔」企画なんぞはその最たるものであろう。藤井氏が以前に手掛けた「カイジ」という番組も「人間の醜さを炙り出す」という趣旨で作られた企画だと思われる。笑いは、あくまでその中で副次的に生み出されるものに過ぎない。
筆者は笑いを分析する物差しは持っているが、それ以外の表現を分析する物差しは大したものを持っていない。だから「醜さを出せていたか」という観点からの詳細な分析はできない。「十分出ていたとは思う」とは記したが、それ以上に中身のあることは言えない。「笑い」がどれぐらいできていたかの分析は(ある程度)できるので実行するのだが、それ以外の分野については物差しがない以上あまり無責任な評論もできないし、するつもりもない。
この番組が主題として取り扱っている(と思われる)「人間の醜い部分」がエンターテインメントになるかというと、私はならないと思う。人間の弱さ・汚さ・醜さを前面に出されても、基本的には正視に堪えない映像ができ上がってしまう。「自分もこうなのではないか」と身につまされる部分があると視聴者に自己嫌悪の感情も出てきてしまうため、尚更見ていられなくなるだろう。ただ、テレビ局が作っているテレビ番組という商品(もっと正確に言うと、「テレビ番組の合間に広告を出す権利」という商品だが)の買い手はあくまで視聴者ではなくてスポンサーなので、それを買ってくれるスポンサーがいる限り番組は成立し、存続する。そこはわざわざ止めるようなことではないと思う。
確かに私個人も、クロちゃんや今回のおぼん・こぼんのように、具体的現象として立ち現れた人間の醜さをまじまじと眺めるのは苦手である。とはいえ私も人間は所詮弱くて汚くて醜くて徹頭徹尾自分自身のことしか考えていない利己的な動物だということは確信しており、その点については知的興味もあるので、折に触れて自分のウェブサイトでもそれを発信しているつもりである。
他方で今回の企画を「おもしろい」「素晴らしい」と称賛する声も少なくないようであるが、注意して中身を吟味した方がいい。水曜日のダウンタウンはこれまでに独創的な企画やおもしろい企画を数々世に送り出してきた番組であるため、現存しているテレビ番組の中で(「ほぼ唯一」と言っていいほどの)絶対的な権威を獲得している。今回の企画も、その「権威」がやったことだから無意識に擁護されてしまっている面は大いにあると考えられる。タレントや番組制作者が擁護意見を言っている場合は、もっと注意した方がいい。彼ら彼女らは「水曜日のダウンタウン」関係で仕事をもらえればお金になるため、むやみに番組を非難するのは難しい。すなわち、擁護意見を言うもっと直接的な動機があるのである。
ただそうやって権威や多数派やお金の出どこに無意識にすり寄ってしまうのも、まさに番組が伝えたがっている人間の弱くて、汚くて、醜い習性である。そういう反応を炙り出すことをも狙ってのOAだったというのは、考え過ぎか。
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