<優生思想に利用されかねない現実>新型出生前診断の施設拡大と産前産後のケアの重要性
メディアゴン / 2019年4月17日 14時17分
姫路まさのり[放送作家/ライター]
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2012年8月29日、夕刊各紙が「血液でダウン症診断 開始」というニュースを世に伝えた。文中の最後は「3日後には試験的に開始される」と締めくくられており、青天の霹靂とも言える事実を坦々と書き連ねた記事が、日本での「新型出生前診断(NIPT)」開始を告げる始まりの鐘だった。
私は、2015年に『ダウン症って不幸ですか?』という本を書かせて頂いた。本では、芸術に秀でていたり、著名人の子どもでもない、ごく当たり前に毎日を生きている5組のご家族の想いを取り上げると共に、検査の是非を問い掛けた。
それから4年が経過し、日本産科婦人科学会の倫理委員会は、新型出生前診断の要件緩和の指針をまとめた。「施設の拡大ありき」で終始した議論を見る限り、月日は流れても、その本質はまるで変っていないと言わざるを得ない。
障害のある子どもやご家族と接する機会が少ない産科医だけで、十分なカウンセリングが行き届くとは考え難い。言わずもがな、医療機関としては“収入源”でもあり、検査の勧誘が進む可能性も危惧される。
1つ申し上げたいのは、報道で「安易な中絶」という言葉を見聞きするが、安易に中絶を選択する夫婦などいない。新型出生前診断は10週から受ける事が出来るが、人工中絶が許される21週まで時間的余裕はなく、それぞれの夫婦が悩みに悩み抜いて出した結論のはずである。しかしその裏で、悩んだ結果、それでも9割が中絶を選んだという数字が現実として転がっている。
ダウン症の子どもを抱えるママさんブロガーさんに聞くと、寄せられる相談の内、一番多いのは「入院中の相談」だと押しなべて答える。染色体異常を宣告され、藁をもすがる思いで自ら調べた結果、「経験者」の元へ辿り着く。染色体異常や障害が判明した際に、子どもやご家族を支える制度やシステムが、この国にはあまりにも少な過ぎる様相を如実に示している。
新型出生前診断の本来の目的は、染色体異常が判明したご家族の道筋を、いち早く照らしてあげる事が趣旨のはず。産前産後のケアの重要性を今一度考えるタイミングにおいて、この制度が優生思想に利用されかねない現実に、悲しみと落胆を覚える。
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