2019年最大世界経済リスクとしてのトランプ -植草一秀
メディアゴン / 2019年5月15日 4時25分
![2019年最大世界経済リスクとしてのトランプ -植草一秀](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/mediagong/mediagong_28164_0-small.jpg)
植草一秀[経済評論家]
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米中通商交渉が決裂の危機に直面して世界の金融市場の動揺が拡大している。トランプ大統領は2020年の大統領再選を目指していると見られる。これが最重要目標であり、すべての施策はそのために組み立てられていると考えられる。
中国との交渉において25%の制裁関税発動を宣言したのは、米中交渉を米国に有利なかたちで決着させるための脅し=ブラフであるとの見方が強いが、ゲームの決着は中国の対応によって変わってくる。米中の両国が「相手が折れる」と読んで自己の主張を押し通す姿勢を維持すれば最後はクラッシュになる。
自分が引き下がればクラッシュを免れるが、相手方が利益を得てしまう。相手が引き下がることを期待して強気の姿勢をどこまで貫くか。典型的なチキンゲームの様相を示している。双方共に強気の姿勢を貫けばクラッシュという結末が待っている。そのリスクが表面化し始めている。
米国は中国政府の産業補助金を攻撃しているようだが、産業補助金を米国が批判することは筋違いである。米国も農業などに巨大な産業補助金を投下しているからだ。企業に対する技術移転の強制を法的に禁止する措置を米国が求めることには理があるだろう。中国もこの点については一定の譲歩を示しつつあると考えられる。
いずれにせよ、世界第一位と第二位の大国であるのだから、テーブルについて、両者が一致できる着地点を見出すのが大国としての責務である。自分の要求を呑まなければ25%の制裁関税を適用するというのは、いささか度を超えた乱暴な交渉姿勢である。トランプ大統領は米国が関税率を25%に引き上げた場合、これを負担するのは中国だと主張しているが正しくないだろう。
中国が関税率相当分を値引き販売すれば負担者は中国になるが、そうでない場合、関税率引き上げによる米国内での販売価格上昇分を負担するのは米国の消費者ということになる。また、トランプ大統領は米国が日本からの自動車輸入に対して関税をかけていないと発言したが、これも事実に反する。
安倍首相はトランプ大統領の指摘に対して反論した。安倍首相は日本の対米自動車輸出には2.5%の関税が課せられていると反論したのだ。しかし、これも事実と異なる。普通乗用車の関税率は2.5%だが、ピックアップトラックの関税率は25%である。
売れ筋のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)はピックアップトラックに分類され、25%の関税が課せられている。米国での自動車販売においては、ピックアップトラックの出荷台数が普通乗用車を上回っている。安倍首相はトランプ大統領に対して日本の自動車輸出の多くには25%の関税率が適用されていると声高に反論しなければならなかった。
安倍首相はこの重要事実を認識していなかったのか、知っていたとすれば、トランプ大統領に対してこの重要事実を面前で指摘できなかったのか、のいずれかということになる。どちらにしても、日本の首相の対応としては失格である。
日本はTPP協議に参加するために米国と交渉した。2013年春のことだ。2012年12月の衆院総選挙で、安倍自民党は「TPP断固反対!」と大書きしたポスターを貼りめぐらせた。
ところが、選挙から3ヵ月も経たない2015年3月15日に安倍首相はTPP交渉への参加方針を公表した。しかし、TPP交渉に参加するには米国の承認が必要だった。そのために行われたのが日米事前協議である。
この事前協議で日本はTPP参加のための巨大な入場料を米国に支払った。このなかで、日本の対米自動車輸出関税について取り決められたのだ。その内容は驚愕の一語に尽きる。
25%のピックアップトラック関税を29年間引き下げないこと、
2.5%の普通乗用車関税を14年間引き下げないこと、
が決定された。これはTPP付属文書として決定された。米国がTPPから離脱したから、この付属文書が無効化されたのかというと、そうではない。この文書に記載された内容は、日本政府が自主的に決めたことで、米国のTPP離脱とは無関係に有効であると河野外相が国会で明言したのだ。
でたらめ経済外交を演じているのは米国だけではない。日本の経済外交もでたらめと言わざるを得ない。
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