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NHK「ブラタモリ」が今も「ときどき面白い」理由

メディアゴン / 2019年5月22日 7時30分

NHK「ブラタモリ」が今も「ときどき面白い」理由

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

タモリは、現代の芸能界では大変特異なタレントである。

その理由はいろいろな人が様々な視点から語っているが、筆者は、次の点を一つだけあげておきたい。

「タモリは、スタッフが面白い企画を用意しないと、そのまま面白くなくやってしまっても平気な人である」

この論点は、少し解説が必要だろう。たいていある程度の地位になった芸能人は、テレビで企画を与えられ、自分では面白いと思えないと、口を極めて、つまらなさを指摘し、提案したスタッフはたじたじとなる。スタッフが面白いと信じて提案した企画の場合は、スタッフ側も頑張るが、たいていは折れて芸能人の言うことを聞いてしまう。

いっぽう、面白いと判断できない企画でも、何も言わずやる芸人も居る。心ある芸人は、つまらなくても企画は受け入れるが自分の能力で絶対笑いを取ろうと奮闘する。「笑いを取るまでは絶対に板を降りないぞ」と決めている芸人である。板とは舞台のことである。このタイプの芸人は大阪の吉本に多いが、代表は明石家さんまである。

この2つのタイプとはタモリは全く違う。面白くなくても企画は受け入れるが、そのまま、面白くなくやってしまう。結果面白くないわけだが、それでも全く気にしないのである。誤解をおそれずに言うと蛭子能収に似ている。タモリは芸能界に居続けることには興味がなく、ただただ運があって芸能界に居る事ができ続けているのだと思っているフシがある。それが、何度かタモリと一緒に番組をやった筆者の感じるところであった。

そのタモリが、どうやら「気に入ってやっているな」と思える番組がNHK「ブラタモリ」であった。ところが最近見ていて、タモリが番組企画に飽きているなと思うことが続いた。タモリが面白くなく、結果、番組が白けているのである。

ところが、である。タモリは飽きていなかったのだ。

2019年5月18日放送の「大阪ミナミ~なぜミナミは日本一のお笑いの街になった?~」は、面白かった。タモリがいい番組内でいい企画を受け取って、タモリなりに嬉しそうに躍動しているのである。道頓堀川を挟んで、川側に並ぶ小さな間口の店、道路を挟んでその向かい側に在るとてつもなく広い間内の敷地に立つビル。この構造は、ミナミに人を呼ぶための施設があった名残なのだが。この質問が(企画が)タモリを惹きつけた。

その答え。

川側は、船宿で茶屋、向かいの大きな敷地には数々の芝居小屋が立っていたのである。道頓堀川を船でやってきた客(ここが勘違いしやすいところだが江戸明治は船が多くの乗り物より速いし、快適だ)は茶屋に降りて酒を飲んだ(番組では言っていなかったが、芸者を呼んでいかがわしい遊びもしたことだろう)いい気分になって、芝居小屋に行く。歌舞伎や、大神楽、手妻、水芸、フリークス、ありとあらゆる見世物が客をひきつけた。(番組では言っていなかったが、役者と客の醜聞スキャンダル、恋愛沙汰もあったろう)このことにタモリは食いついていたのである。企画に食いつきさえすればタモリは面白い。

いっぽう、食いついていなかったのは、吉本の本社もある劇場、なんばグランド花月の資料館に行ったときである。旧態依然とした芸能を横山エンタツ・花菱アチャコがモダンなスーツ姿で演じるしゃべくり漫才に変えた。という話である。タモリは漫才に興味がない。

タモリが、たいていの芸人なら一度は行ったことのある、なんばグランド花月を尋ねるのは初めてのことであった。言い換えれば、タモリが芸能人人生で一度も行く必要がなかったのが芸人王国吉本の牙城なんばグランド花月だったのである。実はそのあたりが、タモリを使うときの肝でも在ると思う。タモリは吉本の芸人となじまないわけでもない。明石家さんまとタモリの雑談コーナー「日本一の最低男」は「笑っていいとも!」のなかで最も面白かったが、ある時スタッフがここに投稿はがきを入れたらとたんにつまらなくなったことがあった。

いっぽう、ダウンタウンも1989年から4年もレギュラー出演していたが、タモリの方はダウンタウンに興味がなかったようだ。さんまが先に降板した松本に電話して「どないしたらいいとも辞められるねん?」と聞いた話は虚実含めて有名である。

「笑っていいとも!」は、融通無碍な芸風のタモリ面目躍如の番組だったわけでだ。フジテレビの凋落がはじまる、その大きな原因の一つはこの「笑っていいとも!」を、止めたことにあると思う。タモリのギャラがいくら高くなっても、視聴率が取れなくなっても、止めてはいけなかった。浅草寺の雷門の提灯を外すようなことをフジテレビはやってしまったのだ。

視聴率が悪くなったのはタモリに気を引く企画を提示できなくなったからであり、スタッフが変わって新しい企画が提示できたり、知らない血が入ったりすれば、「笑っていいとも!」は長い目で見れば復活したはずである。

と、「笑っていいとも!」の話になってしまったが「ブラタモリ」である。この番組はタモリの気を引くのは、どんな企画かを精査しながらやっていけば、タモリが歩けなくなるまで続けられるだろう。

そこで、考えておいたほうがいいと思うのは、タモリがジヤズ出身のヴォードヴィリアンだということである。草創期のテレビマンはジャズ界からやってきた人が大変多かったが、今は、タモリしかいない。大阪吉本芸人の笑いでもなく、東京浅草の軽演劇の笑いでもなく、東京落語の笑いでもなく、見ている人からは、一生懸命さがあまり見えない芸。それがタモリだ、とおもう。

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