<上田晋也、最後の1分20秒>「サタデージャーナル」打ち切りの理由?
メディアゴン / 2019年7月12日 7時30分
両角敏明[元テレビプロデューサー]
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2019年6月29日土曜日はG20最大の焦点である米中会談の日です。その朝、5時30分放送のTBSテレビ『上田晋也のサタデージャーナル』は報道番組でありながら、ただのひとこともG20には触れませんでした。取り上げたテーマは「忖度」。
自治省から鳥取県知事をつとめた早稲田大学教授の片山善博と元TBS政治部長で流通経済大学教授の龍崎孝、タレントのミッツ・マングローブとともに、安倍一強を憂い、「なんでも官邸団」とまで揶揄される強引な官邸主導による官僚の劣化、自民党内に権力闘争のない弊害など、45分間をとおして安倍一強のマイナス面に警鐘を鳴らすことに徹しました。この日は2年3ヶ月続いたこの番組の最終回でした。
テレビでは毎年数百の新番組が誕生し、数百の番組が終了します。その始まる理由も終わる理由も様々です。終わる理由として低視聴率がよく言われますが、編成上の理由、営業上の理由、そのほかいろんな理由があります。筆者が23時台の極めてマジメな番組を担当している時に突然打ち切られたことがあります。スポンサーの社長が放送時間が遅くて眠いからもう視ない、だから止めろと言ったからとのことでした。
世間では『上田晋也のサタデージャーナル』の打ち切りは政治的圧力と考える方が少なくありません。長年制作会社スタッフとして、ワイドショーや報道番組など様々な番組にかかわってきた筆者ですが、放送内容について永田町方面からの苦情や抗議があったことは経験したものの、そのために番組が打ち切られたという確たる事実を知っているわけではありません。
『上田晋也のサタデージャーナル』が打ち切られることに上田やスタッフが不本意であったのかどうかの事実はわかりません。しかし、「安倍一強政治への憂慮」に徹した最終回の番組内容は上田をはじめとする番組側の意地のようにも受け取れ、番組打ち切りには何らかの不本意な理由が存在したのかもしれないと窺わせました。
というのも、ここのところTBSでは「時事放談」、ラジオの「荒川強啓デイ・キャッチ」が打ち切られています。一部には、これらの番組は強力な政治圧力を躱すための「生け贄」と言う人もいるようです。まさかとは思いますが、もしそうならば、権力が気に入らない番組を打ち切ったら、その分だけどこかでこっそり物言う番組を再生産すれば良いのかもしれません。打ち切られた番組に取り組んできたスタッフ、キャストには忸怩たるものが残るかもしれませんが。
『上田晋也のサタデージャーナル』では、さんま、タモリ、たけしのスリートップをはじめ、多くの芸能人が時代の空気を読んでか政治評的発言には慎重な中で、次の芸能界トップレースを走る上田晋也が政治に対し、疑問は疑問、批判は批判として識者やゲストとともに論じてきました。その『上田晋也のサタデージャーナル』が打ち切りにあたり、あえて「G20」よりも「忖度」をテーマとし、死に際に見せたその意地と思いを記憶に残したいと思います。
その意味で、この番組終了に当たって上田が視聴者に語ったラストコメント1分20秒をノーカットで再録しておきます。
(以下、番組より引用)『この番組、今日が最終回ということになりました。世の中の様々なことについて視聴者のみなさまにほんの少しでも問題提起が出来ればいいなという思いで毎週お送りしてきました。あくまで私個人の考えになりますけれど、いま世界がいい方向へ向かっているとは残念ながら私には思えません。よりよい世の中にするために今まで以上にひとりひとりが問題意識を持ち考えそして行動に移す、これが非常に重要な時代ではないかなと思います。そして今後生まれてくる子どもたちに良い時代に生まれてきたねと言える世の中を作る使命があると思っています。私はこの番組においていつもごくごく当たり前のことを言ってきたつもりです。しかしながら一方ではその当たり前のことを言いづらい世の中になりつつあるのではないかなと危惧する部分もあります。もしそうであるとするならば、それは健全な世の中とは言えないのではないでしょうか。最後にまた当たり前のことを言わせていただこうと思いますが、私は政治そして世の中を変えるのは政治家だとは思っていません。政治、世の中を変えるのは我々ひとりひとりの意識だと思っています。みなさんどうもありがとうございました。』(以上、番組より引用)
上田は、「当たり前のことを言いづらい世の中」と番組打ち切りとの間に「健全な世の中とは言えない」関係があるのではと感じているのかもしれません。ならばこそ、上田にはまた、どこかで当たり前のことを言う番組を始めて欲しいと願います。たぶんテレビはしたたかで、そのチャンスは必ずあるはずです。
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