<自閉症スペクトラム誤診の理由>実は一番伝わるエンタメ系情報?
メディアゴン / 2019年8月10日 9時32分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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自閉症スペクトラム誤診の理由とはなにか。『うつと発達障害』(岩波明著・青春出版社)を読んで考えた。著者の岩波明氏は、日本の発達障害診断における最高の権威のひとつである昭和大学精神医学講座主任教授であり、もちろん医師である。
一方、筆者は発達障害研究者を名乗ってはいるが、大学院在籍の勤勉ではない研究者であり、普通の人よりは論文や書籍を読んではいるものの、発達障害当事者同士のサポート施設に関わっている程度である。もちろん、バラエティやコントを専門とする放送作家であるので、医療系バラエティが花盛りの昨今、番組の企画やアイデア出しのために、学術以外の医療系情報は常日頃収集しているし、それなりに知っているつもりではある。
発達障害は、注意欠如/多動性障害・LD、自閉症スペクトラム障害・ASD、学習障害・LDなどに分類される。これら障害の集合は互いに重なっていることが多いとされる。この発達障害を診断し、障害名をつけることができるのは、医師の国家試験に合格したものだけである。
2015年に成立した心理職国家資格である公認心理師(とりあえずはかつての臨床心理士だと理解していただいてよい。ちなみに筆者はこの心の専門家の国家資格化に反対の立場である)も、大学所属の心理学者も、診断名をつけることができないのが日本の決まりである。だから、かんたんな気持ちで『あの子。発達障害よね』『じゃねえの』などと、ただのレッテル貼りをすることは厳に慎まねばならない。
さて、レッテル貼りしかできない筆者が、著名な精神科医である岩波先生の著書に愚見を申し上げる気になったのは、読んでいささか気になる点があったからである。お断りしておくが、岩波先生の著書は良書である。現在、発達障害に関する著作は、玉石混交である。先生がおっしゃるように自閉症の原因が冷たい母親の(冷蔵庫マザーと言う)養育に起因するという、今では完全に否定されている論を主張するものさえある。
そんな状況のなか、岩波先生が一般読者向けに書いた正しい情報『うつと発達障害』の意味は大きい。通常、世の中の人は学術論文など読まないから、情報はこういった一般向けの著作や、エンタメ系のドラマ・バラエティから得た知識をベースに広まっていくからである。良い意味でも悪い意味でも、テレビドラマやバラエティ番組に取り上げられた医学・医療のテーマがいきなり知られるようになるケースは多い。
例えば、岩波先生は「新型うつ」や「アダルトチルドレン」をただの流行で、認められたものではないと切り捨てている。製薬会社が作った「うつはこころの風邪」という絶妙なコピーで、うつは大したものでなくて薬を飲めば治るという誤った概念を広めた罪は大きいと筆者は考える。
話が少し横道にそれた。発達障害の話に戻る。
発達障害の分類にアスペルガー症候群と言う名がないことを訝った人もいると思う。それは最新版のアメリ精神医学会よる精神疾患の診断・統計マニュアルDSM-5で、自閉症は知的障害のある重度の自閉症から、それが見られないアスペルガー症候群までをスペクトラム(連続体)として診断することにしたからである。自閉症を健常者まで含めたグラデーションで捉えることだと筆者は理解している。健常者にも「限られたこだわり」や「コミュニケーションが苦手」という側面はあるのだ。アスペルガー障害は「アスペ」と略称され、近年ブームのように広がった概念だがこれが抑えられたことはよいことだと思う。
厚労省は、WHOの国際疾病分類ICD-10を採用しているので発達障害支援法などには、アスペルガー症候群の名は残っている。筆者はアスペルガー症候群という診断名は残したほうがよいと考えている。重度の自閉症と、ちょっと話したくらいでは判断できないアスペルガー症候群の人たちでは根は同じでも、悩みの質が全く違うことが多いのは容易に判断できるだろう。
発達障害誤診の話である。理由のひとつに発達障害が自閉症のを研究する医師によって始まったことから、自閉症よりの判断になってしまい、ADHDなど他の障害に考えが及ばないことにあるのではないかと岩波先生はおっしゃる。岩波先生はADHDの専門家だが、当事者の間では、昭和大学は診断が出にくくなっているという話が出回っている。
1940年代に自閉症が発見されてからも、日本の精神科医は統合失調症(当時は精神分裂病)や、うつ、そして、認知症の治療が主で、そもそも自閉症自体を正しく診断できる医師がいなかったのである。今はだいぶ改善されたが、発達障害の専門医はまだまだ少ない。それも大きな原因だ。
誤診や、診断が出ないことは当事者にとって大きな問題だ。特に診断は精神障害者保健福祉手帳の取得に関わってくるからだ。厚労省は従来より発達障害は精神障害の範疇としているためにこういう名の手帳になっているが、これは本来、発達障害者保健福祉手帳として独立させるべきである。
この手帳の申請には医師の診断が必要である。診断が出ないと、特例子会社への就労が困難になり、自立したい発達障害者には大きなハザードとなるのである。診断書を書いてくれそうな医師を探してドクターショッピングも行われるのが現実だ。
発達障害は、まだまだわからないことだらけの障害である。ADHDがすべてうつ及び発達障害の背景にあるという主張の先生もいる。ADHDの治療薬であるコンサータが全てに効果があると、これまでの臨床を通じて感じているからだいう。なるほど、とおもう。
岩波先生はトラウマによって自閉症スペクトラムが出現することはないとおっしゃるが、幼小児期の虐待が自閉症スペクトラム発現スイッチを押す、という研究者もいる。あるかもな、とおもう。愛情ホルモンなどとメディアで紹介されたオキシトシンに効果があるという。
東大で治験者を募っていたがどうなったのだろう。行動療法や精神分析は効果がないばかりか有害で、認知行動療法もダメとも聞く。EMDRという技法が自閉症のこだわりに何らかの効果が・・・当事者や当事者家族は治療方法のない発達障害情報に一喜一憂している。
一番いけないのはこの一喜一憂かもしれない
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