おぎやはぎ「ブスのヌード企画」を炎上させるメンタルブス
メディアゴン / 2019年9月14日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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ネット放送「AbemaTV」で9月9日に配信された『おぎやはぎの「ブス」テレビ』での企画「ブスリサーチ! ブスはいくらで脱いじゃうのか?」が批判され、炎上しているという。番組内容はタイトルそのままで、「ブス(という設定の出演者)に雑誌のヌード撮影をオファーしたらいくらで脱ぐのか」を調査するというドッキリも交えた検証企画である。
番組はスタジオに10名ほどの「ブス」として設定された素人(あるいは素人に限りなく近い芸能人)がひな壇に並び、ゲストのタレント(美人)たちを交えてトークする、というものだ。
9日の配信では、ゲストの元AKB48小林香菜が「10回以上整形している」「整形に120万円かけた」等と隠すことなく語り、整形前の写真を紹介しつつ、あっけらかんとトークする構成になっており、「ブス」「整形」などが暗い話題、恥ずかしい話題にはなっていない。もちろん「特定の対象」をバカにしたり、貶めることで笑いを取るような番組づくりにもなってはいない。タイトリングに過激さは感じるが、ネットコンテンツならでは「釣りタイトル」の範囲には収まっている。
実際に番組を見ればわかることだが、ひな壇の「ブス設定」の出演者自体、必ずしも「ブス」と言い切れるような人は出ていないように感じる。テレビの出演者として「本人の同意がったとしても笑いに変えられないようなブス」はいないと思う。感性もよるとは思うが、個人的には美人とは言えないものの愛嬌のある、キャラクターの立っているユニークな人たちを「ブス」という設定で登場させている、という印象だ。ブス/ブサイクキャラで人気のあるタレントやお笑い芸人は多いが、そういった流れと同様だ。
今日のメディアでは、「ブス」などの外見に優劣をつけた話題をエンターテインメントとして利用することはタブーになっているものの、一方で芸能界では外見的なインパクトが個性として「大きな武器」になるケースも多い。だからこそ、番組に「美人ゲスト」として登場した小林香菜が自身の整形について惜しげもなく語るのだ。整形を笑いと話題にすることも、彼女のブランディングやキャラ作りの一つになっているはずだ。
テレビ業界のコンプライアンス意識の高まりによって、テレビ番組が健全化していった一方で、それを事前に回避しようとする自主規制が、今日のテレビ番組づくり全体を「つまらなくする」という逆説的な状態を生み出している。「過激なコンテンツ=面白いコンテンツ」「挑戦的な企画=魅力的な企画」はことごとく低クオリティなネット動画に奪われてしまっている。しかし、これはインターネットの成長によるメディアの多様化であり、テレビによる独裁状態だったメディアが、その役割を多様化させていると考えれば、視聴者にしてみれば選択肢の拡大であり、かならずしも悪いことや残念なことではない。
そもそもネットメディアの番組は、テレビをつければ自動的に映し出されるといったものではない。見ている人は、自分の意志でURLを入力したり番組名を検索し、自分の意志で再生ボタンを押し、視聴している。「見たくないのに目に入る」ということはあり得ない。
そして、視聴者もそういったテレビとネットのあり方と現状を理解した上で、メディアを使い分けている。もちろん、本当に人を侮辱したような内容や明らかな差別的なコンテンツ、あるいは度を過ぎた過激化や犯罪性を帯びるようなものであればネットコンテンツとしても規制されるべきであろうが、今回の番組の内容自体がそれに当てはまるとは思えない。作る方も見る方も、今回の企画が「ネットコンテンツである」ということを相互理解できているはずだ。
「AbemaTV」はネットメディアとして大手ではあっても、本質的にはYoutubeやニコニコ生放送と同様の「動画配信」だ。この番組を批判するのであれば、ニコニコ生放送やYoutubeで星の数ほど配信されている、特定の対象をバカにしたり、冷やかしたり、揶揄したり、時にデマのようなことを流布さえしている番組やYoutuberたちへも批判を展開しなければならない。
「影響力の違い」という指摘もあるかもしれないが、AbemaTVよりもYoutubeの方が影響力もユーザー数も大きい。司会の「おぎやはぎ」よりも影響力のある悪質なコンテンツを配信しているYoutuberだって数え切れないほどいる。
だからこそ、BPO(放送倫理・番組向上機構)もインターネット番組に対しては審査の対象外にしているのだ。それは当然の話である。それはBPOが劇場映画の内容を審査しない/できないのと同じだ。
今回の番組批判・炎上のケースは、実際の番組を見ることもなく、タイトルやSNSなどでの批判投稿を見て、動物的な反射神経で「差別だ」「悪質だ」「バカにしている」「人権侵害」と騒ぎ、批判を展開しているフシを強く感じる。そしてそういった「不謹慎狩り」に勤しむネット自警団たちが求めているのは、「倫理的に問題のあると思しきコンテンツを発見し、批判し、出演者や製作者を謝罪させたり番組中止に追い込む」というエンターテインメントなのだろう。
一見、正論に見える立ち位置から、あらゆるエンターテイメントの粗探しをして、社会問題化しようとする「不謹慎狩り」を楽しむその精神性は、いわば「メンタルブス(心のブス)」だ。ブス企画のバラエティ動画よりもそのメンタルブスの楽しみ方がはるかに低俗であるように感じる。エンターテインメントなどは、真剣・厳密にチェックをすれば、どんなコンテンツにだって、1つや2つは問題化できるような箇所は見つかる。しかし、それを含めて楽しめることが、エンターテインメントを成立させ、豊かにするのだ。
もちろん、そういった意図がない上で批判をしているケースもあるだろう。だとすればそれは完全にテレビとネットコンテンツを混同させてしまっているだけで、批判の体をなしていない。サッカーゲームの内容の不満を理由に、サッカー協会を批判しているようなものだ。
ブス(をテーマにした)企画、バカ(をテーマにした)企画は、テレビ業界では古典的なエンターテインメントコンテンツであったが、今ではそういったわかりやすい企画は実現しづらい。しかし、ブス、美人、バカ、天才、金持ち、貧乏、アダルトなどのテーマは、「8割の人が8割ぐらい興味を持つ」といういわば「大衆性の高い鉄板コンテンツ」でもある。それを「80年代型のテレビバラエティ」と批判的に片付けることは容易だが、そんな80年代がテレビ黄金期を作り出し、コンテンツ大国・日本を牽引していったことを忘れてはならない。
今日、テレビから失われたこれら鉄板コンテンツは、今やネットコンテンツの十八番になった。それはそれでメディアの多様化として良いことであるとも思う。しかし、不謹慎狩りを楽しむ「メンタルブス」たちの勢力的な活動は、今度はネットからもこれらコンテンツを失わせようとしているように思えてならない。
「ブスのヌード企画」の是非はさておき、メンタルブスたちの「メディア破壊という娯楽」の悪質性についても改めて考えてほしい。
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