構成のし過ぎが興趣を削いでいる『ブラタモリ』
メディアゴン / 2019年12月16日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
***
2019年11月30日(土)放送の『ブラタモリ』(NHK)は、テーマが「岡山~岡山といえば桃太郎なのはナゼ?~」であった。興味深い話が続いたが、一点、構成のし過ぎが気になった。
筆者は放送の構成作家である。その構成とは何をする仕事かと言うと、誤解を恐れずに言い切れば、見て貰う人に、興味が途切れないように、番組の内容の順番を決めることである。ときに、構成のし過ぎは、興趣を削ぐ結果を招く。
『ブラタモリ』は、地学、岩石学、地形学、文化人類学、歴史学、伝承・民俗学など、あまり陽の当たらない学問分野を軸に据えて、日本各地を回る、稀有な番組である。言ってみれば、わかる人にはより深く、わからない人にもより興味が持続するように、構成の妙が必要とされる番組だ。あまり構成臭くなく、つまり、製作者の作為が感じられないように見せるのが演出の腕になる。
ところが、ここ最近、余計な構成が入るようになった。今回も、
*桃から生まれた桃太郎が、
*きびだんごを与えて犬猿雉を家来にし、
*鬼退治に行って、大活躍する。
という桃太郎説話を冒頭で再確認し、それにまつわる、各地域を回ってゆくのだが、ここまでは、ごく自然な構成で素晴らしい。だが、各地域を回った結果、
*なぜ桃から生まれたのか?
*犬猿雉が家来の期限は?
*鬼とは何を象徴するのか?
などの論拠の確認をするたびに、ボードに「済マーク」のシールを貼ってゆくのである。この「済マークのシールを貼る」構成は全くいらない。まるで子供相手の番組になってしまったように感じる。はっきり言えば、余計なことをするなと感じるのである。
[参考]NHK「ブラタモリ」が今も「ときどき面白い」理由
こういう変化は、たいてい新しくやってきたプロデューサーなどが「もっとわかりやすくしようよ」などと、一見もっともらしい自分の存在を主張したいだけのつまらない提案をし、必要ないという意見の旧スタッフに押しのけて始まってしまう、というのが筆者の経験則である。「わかりやすく」はテレビ屋にとって、魔法の言葉だが、こんなマジックで番組は面白くなりはしない。
「済マークのシールを貼る」などという、小賢しい演出に割く時間があるのなら、今回の放送では割愛されているやってほしいことはまだまだあった。例えば以下のようなものだ。
*桃太郎が、最後に、鬼のもとから宝物を持ってきたエピソードのルーツ。
桃太郎のモデルとされるヤマト政権の天皇の子・吉備津彦命(きびつひこのみこと)が鉄をつくる吉備の民族から、良質な鉄を持ち帰ったのではないか。その証拠に、番組では、吉備の民族は鉄のノミで当時最先端の岩石彫刻を作っていたことが紹介されていた。
*なぜ、名が桃太郎なのか。
中国伝来の桃の種(あるいは桃そのもの)が儀式で使われた痕跡は、「桃源郷」を意味するのではないか。桃太郎は、桃源郷から来た太郎[子供]を意味するのではないか。
時間の都合での割愛はしょうがないと思うが、筆者ら『ブラタモリ』ファンの視聴者はそんなことつぶやきながら、熱心に番組を見ているのである。
番組は、岡山では桃太郎側(ヤマト政権)も、鬼側(吉備の民)もともに大切されている証拠として、主祭神の吉備津彦命とともに、鬼が祀られている吉備津神社の神殿を訪ねて、結びにしていた。
放送の順番でいうと、この吉備津神社は番組開始早々すでに訪ねている。こういう番組は出演者の気持ちの流れを途切れさせないように順撮り(出来上がりの構成順に撮影していくこと)が望ましい。番組ではあらためて結びで訪れたような構成にはしていたが、「最初に行ったときに、まとめって撮ったんじゃないの。そのほうがロケ時間も短くてすむし」などと、余計な邪推をして林田理沙アナのリアクショを見ながら白けてしまうのである。
それもこれも「済マークのシールを貼る」構成のしすぎに端を発しているのであった。
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