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<NHKクロ現>「超プレゼン術の極意」取りあげかたが残念

メディアゴン / 2020年1月25日 7時30分

<NHKクロ現>「超プレゼン術の極意」取りあげかたが残念

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

2020年1月22日放送NHK『クローズアップ現代プラス』「あなたの仕事が変わる〜超プレゼン術の極意」を見た。残念ながら、これは放送番組として、何の工夫も施されていない「最悪の番組」であった。冒頭からダメだ。おそらく後半になんらかのアイディアがあるかと思い、最後まで期待して見たが、なかった。見終わって、徒労感に襲われた。

番組はプレゼンの達人として、ふたりの人物を生出演させた。ひとりは、「ジャパネットたかた」の創業者で、同社の初代社長・高田明氏。言わずと知れたテレビショッピングのカリスマ・デモンストレーターである。もうひとりはNHKを代表するアナウンサーで当該番組のキャスターでもある、武田真一氏。

このふたりに番組のダメさの責任はない。むしろ、高田氏のキャスティングはなかなか攻めたもので、CMとは縁のない(はずの)NHKとしては冒険的で好ましいと言えるだろう。ジャパネットは2021年度に、吉本興業、松竹と東京急行電鉄の合弁会社とともに、新しくBS放送に参入することが決まっており、競合するチャンネルにも頓着しないという態度は、さすがNHKだとも思う。

番組冒頭は安直に短時間で仕上げたと思しき高田氏の密着取材を軸に進む。高田氏の講演会は空席が目立っていたが、そこに陣取った解説員兼務だという番組ディレクター・片岡利文氏が高田氏の講演ぶりが如何に巧みなプレゼン技法を使っているかの分析を加えて行く。

ディレクター氏曰く、

*原稿を使わない。

*身振りを交え、顔に注目させる。

*キーフレーズを何度も繰り返す。

*観客に呼びかけて、リアクションをとる。

などであるが、これらはあたりまえすぎて発見がない。これも、高田氏に責任があるわけではなく、分析するディレクターが新しい発見が出来ていないだけである。このディレクターは会話分析の専門家ではないので説得力もない。筆者は、何も権威(者・専門家)を使えば説得力が増すと言っているわけではなく、素人が素人の範疇を出ない行為を行っても番組として商品になっていないということを言っているのである。分析でなくただのヨイショ(おべんちゃら)である。

[参考]<NHK歌会始>氏と名の間に「の」を入れるのが気になってしょうがない

高田氏はこうして素人の分析に褒めあげられても、悪照れせず臆するところがない。筆者は、そのあたりが、高田氏のプレゼン強者であることの肝だと思うのだが、そこには全く触れない。これでは物足りない。

高田氏はプレゼンの極意として、「『伝えた』と『伝わった』は違う」と主張する。これも肝のひとつだが、掘り下げない。ふだんの『クロ現』なら、「伝えた」と「伝わった」の差異を実験で可視化して見せてくれたりするのだが、それもない。番組予算はあるだろうに、筆者は「受信料返せ」と、N国党のようなことを思う。払っている金にはシビアなのである。

武田アナはプレゼンの極意として次のようなことをおっしゃる。

「太字ゴシック体の声を使う。例えばですね。『Uターンラッシュで大渋滞です』とお伝えしたとします。そうなんだと思うだけじゃないですか。そうじゃなくて、『Uターンラッシュで大渋滞です』というふうに、声を張るだけじゃなくて、難しいんですけど、太字のゴシック体で声をくっきりさせながら伝えると振り向いてくれるんじゃないかとかですね。ニュースの原稿を読みながら、いろんなそういう工夫したことがあるんですけれども、いかがですかね」

と、あくまで控えめであるが、筆者は実はNHKのアナウンサーが太字ゴシック体を使うのに反対である。ニュース原稿はフラットな文体で明朝体で読んでもらわないと間違って「伝わってしまう」危険がある、判断は見る者に任せて欲しいと思うからである。おそらく、武田アナは太字ゴシック体と明朝体を使い分けているだろうが、このあたりの論争も行って欲しいのに、番組全体がべんちゃらモードになっているのでそこまで発展しようもない。

さて、超プレゼン術の極意をなぜ、クロ現のテーマとして取り上げるのか、片岡ディレクターは企画意図として次のようなデータを示した。経団連の調査では、企業が新卒採用のときに何をいちばん重視するのは、16年連続で「コミュニケーション能力」が1位とのデータだ。

片岡ディレクターは「これだけ「コミュニケーション能力」が重視されてるにもかかわらず、就職を控えた大学生のコミュニケーション能力を調べてみると、男女ともに半数以上は、自分はコミュニケーションが苦手だという意識を持っている」だから、超プレゼン術の極意を放送するのだ、と。

これもまた、企業側に踊らされた実に浅はかな論理である。

若い人のあいだで「コミュ障」という言葉が流行っている。略称でないコミュニケーション障害は学会も存在する程の確立した疾病概念であるが、「コミュ障」のほうは、自虐的に、あるいはちょっとだけ引っ込み思案な人を「コミュ障」と揶揄するためのただのスラングである。ただのスラングであるが、これだけ広まると、その闇は深い。

そもそも、コミュニケーションとは、相手が存在して成り立つものであり、ひとりでは成り立たない。つまり、その能力は個人の資質のみに依存するものではない。部長と平社員のふたりで成り立つコミュニケーション。コミュニケーション能力は若手社員だけに求められるものではい。コミュニケーションは人と人、2者が存在してこそ成り立つものであるから、個人の能力とするのはふさわしいことではない。そこで、大変示唆に富むのがプレゼンにおいて高田氏の『「伝えた」と「伝わった」は違う』と言う意見である。

「伝えた」と「伝わった」はなにが違うのか、そこまで踏み込んで、検証するくらいの苦労と取材ががあってしかるべきなのが、NHKの老舗番組『クローズアップ現代』のなのではないか。今回は志のない番組だったと言わざるをえない、。

だから、筆者は「超プレゼン術の極意」という軽薄なタイトルを冠して、コミュニケーションテクニックらしきものを、さも現代の必須技術のように歌い上げる今回の『クローズアップ現代プラス』を、ダメな番組だと断言しておきたいのである。

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