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<徳勝龍の発言分析>天性の頭の良さで優勝インタビューでも天下を取った

メディアゴン / 2020年1月28日 7時30分

<徳勝龍の発言分析>天性の頭の良さで優勝インタビューでも天下を取った

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

それは、8分にわたる日本一のスポーツエンターティナーによる、ひとり舞台であった。幕尻での、奈良県出身としては98年ぶりの、と、様々な形容詞のついた2020年初場所の徳勝龍初優勝であったが、その日のクライマックスは優勝インタビューの時に訪れた。以下に全文を掲げながら、その優れた点を挙げて行く。

インタビュアーは、NHK小林陽広アナウンサー。

小林アナ「それでは、インタビューです。初優勝です!徳勝龍関です!おめでとうございます!」

徳勝龍「ありがとうございます。(四方に礼)」

これはある意味での四方拝である。筆者は驚いた。通常ならインタビュアーの背後にあるカメラに向かって礼をするだけであろう。世間はカメラの向こうだけにあるだけではない。自分を支持してくれる最も熱い気持ちを持った人々はこの館内にいる人に違いないと徳勝龍は見ぬいていたのである。これで客の心をつかんだ。(館内、拍手と歓声)

小林アナ「どうですか、今。改めて国技館の四方を見渡しました。この光景を、どう見ていますか」

徳勝龍「自分なんかが優勝して、いいんでしょうか?」(館内、笑いと拍手、歓声)

ここは勝負だ。謙虚にでることが、いやらしさにつながってしまう可能性がある。もちろん、勝負感は冴えていた。

小林アナ「もう皆さん、結びの一番の大関戦。あの相撲内容を見れば、もう、納得の優勝だと思います」(館内拍手と歓声)

徳勝龍「喜んでもらえて、良かったです。」

フォローするのを忘れてはならない。

小林アナ「どうでしょう。今場所、関取は、番付が西の前頭17枚目。幕内では一番下!だったんですね(館内、笑い)(徳勝龍、苦笑い)そんな中で、いま、この場に立っているというのはどうでしょう?」

徳勝龍「自分が一番下なんで、もう、恐いものはないと。思い切っていくだけだと思って、いきました。」(館内拍手)

小林アナ「場所中、だいたい中盤ぐらいでしょうか。徳勝龍関が1敗をずっと守り続けて白星を伸ばして。周りからも、色々と優勝について言われていたと思うんですが、その辺りは?」

徳勝龍「いや、もう、意識、することなく・・・えー・・・ウソです。メッチャ意識してました(笑)」(館内、笑いと拍手)

うまい。これで館内の客の100%をつかんだ。後は少々はずしても笑ってくれる。

小林アナ「そうですか!きのう、正代関を破って単独先頭になっても、意識していないと言っていましたが、あれはウソだったんですか!」(館内、笑い)

徳勝龍「バリバリ、インタビューの練習をしてました(笑)」(館内、笑いと拍手)

練習はしていないとしても、こう発言するのが最適だ。

小林アナ「いやー、関取の帰る際の表情を見ても、とても そうは思えなかったんですけど。ということは、きょう、千秋楽結び。大関貴景勝関との一番が組まれました。このときの思いは、どうだったんでしょう?」

徳勝龍「ずっと『思い切り行けばいいんだ』と、『立合いしっかり当たればいいんだ』と、自分に言い聞かせて、ずっとやってきたんで。千秋楽も、そういう気持ちで行けました。(館内、歓声と拍手)

マジは大切である。

小林アナ「ちょうどきょう結びの一番、優勝を懸けた一番。時間前の仕切りのところで、ひとくち、水を口に含みましたが、あのときは、何か特別な緊張感はあったんでしょうか」

徳勝龍「のどがカラカラでした。」(館内笑い)

小林アナ「いや、おそらくそうだろうなと思っていたんですが。ということは、土俵上で、『勝てば優勝』というものは常に頭にあったんですね」

徳勝龍「いやでもそれは、意識せずに、この一番に集中して、行こうと思いました。」

小林アナ「あの大関貴景勝関に、得意の左四つ右上手で追い込んでいっての相撲。ひょっとすると、今場所一番の内容だったんじゃないかと思います。あの一番、どうでしょう?」

徳勝龍「いや、右上手取って、出て行って、土俵際、ちょっと振られたときに『危ない!』と思ったんですけど、『これはもう行くしかない』と思って、行きました。」

小林アナ「その危ないと思った瞬間、後押ししてくれたものは何だったんでしょうか?」

徳勝龍「そうですね。場所中に、恩師の近畿大学(相撲部)監督の伊東監督が亡くなって(涙声)・・・(涙で沈黙)(館内、励ますように拍手)監督が、見てくれていたんじゃなくて、一緒に、土俵にいて、戦っていてくれていたような、そんな気がします」(涙声)(館内、拍手)

[参考]<相撲がプロレス化?>外国人力士の禁じ手を放置する日本相撲協会

恩師の監督のことををどう表現しようか、徳勝龍が「バリバリ、インタビューの内容を考えていた」のはこの表現なのだ。

小林アナ「場所中に、関取の母校、近畿大学の監督、伊東勝人さんが急逝されました。どうでしょう。いま、この姿を、きっと見てらっしゃると思います。どんな報告をしますか」

徳勝龍「ずっと、いい報告がしたいと思って。それだけで頑張れました。(館内、励ますような声)弱気になるたびに、監督の顔が思い浮かびました。」

小林アナ「そして、奈良県出身の力士ということで言いますと、なんと、幕内最高優勝は、98年ぶり!(館内どよめき)大変な快挙です」

徳勝龍「大変なことをやってしまいました。」(館内、笑い)

小林アナ「地元で応援しているファンにも、いい報告ができるんじゃないですか」

徳勝龍「そうですね。いい報告が、できると思います。」(館内、歓声)

もうここからは紋切り型の表現でよい。

小林アナ「いま、館内からも『これからだ』という声がかかりましたが、関取、今、33歳。これから34歳になる年齢です。若手の台頭がどんどん著しい中で、どう見ていましたか?」

徳勝龍「そうですね。もう33歳じゃなくて、まだ33歳だと思って。(館内、盛り上がる声)がんばります。」(館内、拍手)

小林アナ「関取は、今場所、返り入幕でした。先場所十両でした。ただ、場所前、『まだまだ常に上を目指す』ということをおっしゃっていました。今場所のこの結果を受けて、更に上といいますと、どういうところを目指しますか」(客席から『横綱!』という声。館内、笑い)(徳勝龍、苦笑い)

徳勝龍「いやもう・・・行けるところまで、行きたいです。(館内、笑いと拍手)

小林アナ「来場所は、奈良出身の関取にとっては、春場所、大阪、ご当所になります。改めて、どんな相撲を取って行きますか」

徳勝龍「そうですね。自分らしく、気合いの入った相撲で、やっていきます。」(館内、拍手)

小林アナ「最後になりますが、きょう、この館内に、お母さまが応援にいらっしゃっていたということです。ひとこと、ありますか」

徳勝龍「いつもは照れくさくて言えないですけど、お父さんお母さん、産んで、育ててくれて、ありがとうございます!」(館内、拍手)

さいごは、渾身の紋切り型である。

小林アナ「本当におめでとうございます。ありがとうございました」

徳勝龍「ありがとうございました!」(館内、拍手)

これらのインタビューはすべてあるフリが前提になってなり立っている。もちろんそれは、「優勝した」と言うフリである。物事というのはいかにフリが大切なことであることか。

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