<コロナウィルス>常に後手に回る政策対応が日本崩壊の主因 -植草一秀
メディアゴン / 2020年2月2日 22時41分
植草一秀[経済評論家]
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コロナウィルスによる新型肺炎の感染が急拡大している。
2002年から2003年にかけて感染が拡大したSARS(新型肺炎の重症急性呼吸器症候群)は、最初の患者が確認されてから収束するまでに8ヵ月の時間を要した。今回の感染拡大はSARSの10倍以上との見解も示されており、感染の収束に要する時間が長期化する可能性がある。
中国の旧正月にあたる春節の休暇が1月24日から1月30日である。この期間に膨大な数の中国人が海外に旅行する。2019年には前年比12.5%増の631万人が海外に出かけている。中国では新型肺炎の感染の発生地と見られ、感染拡大が確認されている武漢市を封鎖し、域外への人の移動を禁止した。
しかし、すでに感染は武漢外に広がっており、感染拡大を遮断するのは難しい状況と見られる。中国の大手オンライン旅行会社Trip.comの統計によると、中国周辺国への海外旅行では、日本が人気トップになっているとのことだ。
人気ランキングでは日本に次いでタイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、カンボジア、スリランカ、インドという順で人気があり、ここ2,3年変動がないとのこと。中国各地から多数の中国人が日本を訪れることが予想される。日本での水際対策は極めて緩い。新型肺炎では発熱などの症状が観察されずに重症化する事例も伝えられている。
日本で感染が拡大するリスクは低くない。新型肺炎の感染が東京五輪の時期においても残存する可能性もある。SARSの事例で感染収束までに8ヵ月の時間を要したことを踏まえると、7月から9月にかけて、感染リスクが残存する可能性を否定できない。
もとより、日本で五輪を開催する必然性はない。フクシマ復興の言葉が使われるが、原発事故の被災者に対する支援を打ち切って五輪に巨額の公費を投入することにフクシマ原発事故の被災者が賛同するわけがない。フクシマ原発事故が発生した日に発令された原子力緊急事態宣言はいまなお撤回されていない。
一般公衆の年間被ばく量上限1ミリシーベルトの法定事項を排除して、20ミリシーベルトの年間被ばく量を容認する「緊急事態」の運用が継続されている。
累積被ばく線量が100ミリシーベルトに達すれば、確率的にがん死亡リスクが0.5%上昇するとの科学的知見も確認されている。人口100万人で5000人ががんで死亡するリスクを生み出す放射線被ばくを容認する国の施策は国による大量虐殺(ジェノサイド)と表現するほかない。フクシマ原発事故被災者を大量虐殺する放射線被ばくを強要しながら「復興五輪」の言葉を用いるのはいささか不適切である。
小出裕章氏は『フクシマ事故と東京オリンピック【7ヵ国語対応】』(小出裕章著、径書房)を刊行されて、東京五輪の中止決定を呼びかけている。安倍内閣は利権まみれの東京汚リンピックを推進しているが、新型肺炎の感染拡大によって東京汚リンピックが開催中止に追い込まれる可能性も否定し切れない。春節で多数の中国人が日本を訪問することが分かっていながら、有効な対応策が実行されていないのではないか。
昨年末には重大刑事事件の被告人が海外逃亡するという事態も発生した。行政機構のトップである総理大臣が陣頭指揮して、逃亡した被告の身柄を日本に送還するための対応策を示す局面だったが、安倍首相はコメントすら発せず、ゴルフ三昧の休暇を過ごした。危機意識の乏しいトップの対応が、多くの問題を引き起こす。日本国内で感染が拡大するリスクを否定できない。内外の経済活動にも重大な影響が広がるだろう。
過去30年間を振り返ると、主要国のなかで日本経済の停滞が突出している。30年前のバブルのピークから日本経済は長期停滞を続けている。第2次安倍内閣が発足して7年が経過したが、この7年間も経済の超停滞は変わっていない。経済成長率で見れば、民主党政権時代よりも日本経済の停滞は深刻化している。
その原因は政策当局の対応がすべて後手に回ってきたことにある。機先を制することが被害や混乱を縮小するために必要不可欠だが、すべての対応が後手に回るために被害や混乱が拡大する。2020年の混乱拡大が強く警戒される。
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