「植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之」企画に感じるNHK人材の層の厚さ
メディアゴン / 2020年2月7日 7時30分
メディアゴン編集部
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一部の人のあいだで熱狂的な支持を得ているNHK・Eテレの『植物に学ぶ生存戦略 話す人・山田孝之』の第3シリーズを見た。目が離せなくなった。内容もさることながら、番組制作者の端くれとして、この企画がなぜ通ったのだろうかと考えると、いろいろな想いが頭をよぎったからである。
テレビ番組の企画は、どんなものなら、それの当否を決める編成マンの心を捉えるのだろうか。
まず、身も蓋もない理由を言っておこう。「どんなタレントがやるか」だ。いまなら、松本人志がやる。その確約を得ているとなれば、中味はどんなものでも通るだろう。松本人志が木村拓哉に変わっても同じである。
つまり、企画内容だけで、番組が通ることはあり得ない。内容だけで通そうとすれば、金を使って、サンプル版を制作するなどの努力は不可欠となるだろう。
『植物に学ぶ生存戦略』は、内容だけで通るだろうか。断言するが通らない。山のように集まる企画書の下敷きになって埋もれていることだろう。その凡庸なタイトルに光を与えたのが『話す人・山田孝之』である。「話す人」とはなにか。出演・山田孝之ではない。
山田孝之といえば、『電車男』や『闇金ウシジマくん』の丑嶋馨役、『全裸監督』の村西とおる役が有名だ。この役者をEテレ(教育テレビある)で、どう使うのか。Eテレでは、カマキリの着ぐるみを着る根性ぶりを見せる『香川照之の昆虫すごいぜ!』などもあるから、こうした役者メインの企画の垣根は低くなっているかも知れない。
パートナーは「ブラタモリ」で、売り出し中の林田理沙アナウンサー。この名は企画書にはなかったと思われる。パートナーのアナは通常、シフトで割り当てられるからである。企画書どおりか、後から決まったのか。どちらにせよ、この起用は大ヒットだ。山田孝之が、達者な芝居で語るのに対し、拙い素人芝居で応じる林田アナ。ふたりの関係性には、エロティシズムさえ感じられて、男子中学生などはイチコロだろう。
[参考]崩壊するビートたけし「大抵のことは許してもらえるオイラ」というキャラクター
番組は、完全台本で進む。この「完全台本」という手法は、民放テレビでは、ワザとらしすぎるとして、もうすたれた方法であるが、この番組でははまっている。
脚本は山田孝之の座付き作者とも言うべき竹村武司。笑いの番組を見てももうほとんど笑わないすれからしの筆者が2度声を上げて笑いそうになった。しかも、私は演出ではなく。あきらかに脚本で笑っている。
こういった完全台本の仕事はかつて、構成作家と呼ばれたテレビ台本作成者が担当した。だが今は、構成者に払う金もなくなって、ナレーションなどはディレクターが書くことも多くなった。この番組の制作スタッフは、きちんと、作家を使って書かせよう、我々の仕事はその演出だということをきちんとわきまえていることが感じられて好ましい。
2000年頃、民放テレビ局に入社してくる新人が異口同音に「深夜番組がやりたい」と言うので辟易した経験を持つ業界人は多いだろう。深夜で趣味的な番組をつくっている者ばかりになっては、テレビ全体が衰退していく。理由は他にもあるが、案の定テレビは衰退した。
NHKでは、以下のような事情を聞いた。
NHKにはドラマの大演出家やドキュメンタリーの巨匠、ニュースの敏腕記者をめざして、新人が集まる。しかし、数年経つと、周りにもその可能性が見えてきて教育テレビでの仕事を命ぜられる。そのうつうつを紛らわせるために、必要も無いドラマ仕立ての教育番組が出来てしまう。
しかし、後ろ向きの考え方ではない新人類のテレビ制作者が現れてきた。『植物に学ぶ生存戦略』という企画を通した編成マンが居ることはNHKの大きな財産だ。しばらく目が離せない。
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