NHK「プロフェッショナル 萩本欽一」78歳の欽ちゃんが『あと2年』で目指す笑い
メディアゴン / 2020年3月14日 8時28分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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昨2019年「在学」していた駒澤大学仏教学部をやめ、あと2年笑いをやると宣言した欽ちゃんこと、78歳の萩本欽一。『プロフェッショナル 仕事の流儀「~コメディアン・萩本欽一~」』(NHK)はその欽ちゃんを追ったドキュメンタリである。
番組中、欽ちゃんは、「あと2年しか笑いは出来ないし、どんな笑いになるかは2年後に分かる」と言う。そのために、去年9月からは無名の芸人や俳優を集め、欽ちゃん自らが「公開オーディション」と称して客前で笑いの技術を徹底指導している。
筆者も3回、この「公開オーディション」に観に行ったが、欽ちゃんがつくろうとしているのは体技(動き)の出来るコメディアンであることは一見して分かる。動きで笑いがとれる芸人というのは今の芸能界には残念ながら存在しない。かつては、渥美清さんや、榎本健一さん。現在で言えば岡村隆史にその片鱗を感じるときがある。
動きの笑いとは何か。舞台の上手から下手まで全力で走り抜けるのもそうだし、手足の納め方、表情の作り方、みな動きだ。つまり、セリフ以外で笑いをとることだ。現在はセリフ、言葉を重ねて笑いをとる方法が蔓延しすぎている。
[参考]<笑いの技術>BS NHK『欽ちゃんのアドリブで笑(ショー)』から考える
全盛期のコント55号では、欽ちゃんは、1m以上もジャンプできた。しかし、78歳の欽ちゃんには、もうそれはできない。では、どう動くのか。好例がある。
復活したコント55号が前進座で行った公演である。その公演で二郎さん(坂上二郎)が「吉祥寺の町内会長」に、欽ちゃんが「町内会の祭りにアイディアを出す人」に扮していたと記憶する。欽ちゃんは、二郎さんに、「吉祥寺音頭」をつくって踊ろう、と提案する。踊りは出来ないと尻込みする二郎さんだが、欽ちゃんにのせられてちょっと踊るとなかなか上手い。ほめられて、いい気になった二郎さんは欽ちゃんの要求通り、あれもこれも、様々な振りをすることになる。これが通称「吉祥寺音頭」というコントだ。
この形を、欽ちゃんはBS-NHKの番組「欽ちゃんのアドリブで笑(ショー)」に、導入しようとしていた。ドキュメンタリを見て分かったが、最初の計画では音頭の名前は「下仁田音頭」である。
相手役に選んだのは日舞の師匠・三宅祐輔(二代目花柳輔蔵)。
ところが、一回目の収録では、上手くいかなかった。アクシデントがあって輔蔵が、まるでコメディアンのようにもんどり打って転んでしまったのである。輔蔵はおもしろいことをいかにもやりそうな人物になってしまった。日舞のプロを相手に欽ちゃんが自在に回して笑いにする、というもくろみは消えてしまったのである。
撮り直しになった。今度は輔蔵が、冒頭で日舞の師匠としてきちんと紹介され、ハライチの澤部を相手に踊りの所作をきれいに見せる。そこがあって音頭の振り付けに入る。輔蔵は、欽ちゃんの期待に応えて、きっちりと動きの笑いを見せた。オリンピックも近いというフリで新体操のリボン、ハードルや砲丸投げまで振り付けに取り入れた。爆笑であった。
しかし、実は筆者は物足りなかった。「吉祥寺音頭」と、どこが違うのだろう。演者の違いはおいておく。改めて考えてみる。すると・・・両者では設定が微妙にちがうのである。
*振り付けをやる方が最初から積極的に踊ろうとしているかどうか。輔蔵の場合、日舞なので盆踊りはあまりやらないと言うかどうか。
*なんのために盆踊りの振り付けをしようとしているか。「五輪音頭」をつくりたいのだとフリがあるかどうか。
*音頭の名前があるかどうか。「下仁田音頭」は絶妙な設定である。こんにゃくもあるし、ネギもある。それをやめたのは輔蔵が一度やっているので、新鮮さが失われるからだろう。「北千住音頭」でも、「神宮外苑音頭」でもよかったのではないか。
前記の設定フリの部分は存在したのに編集でカットしたことも考えられる。だが、それは視聴者(笑う人)には、分からない。
欽ちゃんは、ドキュメンタリの中で、以下のように発言している。
「おかしいことをやるのではない。おかしくなってしまうのである」
つまりは、すべては設定次第と言うことではないのか。設定がみなを動かす。筆者も肝に銘じなければならない。
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